其の弐佰拾弐 宣戦布告
『『『グモオオオォォォォ!!!』』』
「お命頂戴」
『『『──ッ!』』』
暴れ狂う変異種らに向け、刀を振り下ろして命を絶つ。
これらがサモン殿の率いるモノ達のように、正気に戻る事もなかろう。
介錯してやるのが武士の情けよ。
「“ウィンドカッター”!」
「“エレメンタリースフィア”!」
「“多連土槍”!」
『グラァ!』
エルミス殿らは三人で一体を相手取る。
風の刃が刻み、全身を土の槍が穿つ。最後に元素の塊が落ち、変異種は爆発と共に消滅した。
彼女らは三人集えばA級相当の物の怪にも勝てるようになっておるの。然しまだまだ数はある。油断は出来なかろう。
だが、部下が強敵を倒したのだ。褒めなければなるまい。
「見事ぞ、お三方。力を付けたの」
『『『───』』』
「……嬉しいですけど、複数匹を1人で倒してしまったキエモンさんが言うと皮肉にも聞こえますわね……その様な気が無いのは分かっているんですけど」
「私達は3人で1匹ですもんね~」
「だったら私達も多く倒すだけさ!」
お三方は箒へ乗り込み、高速で突き抜けて妖共を相手取る。立派に立ち回っておるの。
別方では他の騎士達も変異種を打ち倒していた。
「“土壌重圧”!」
『……!』
「“フレイムアロー”!」
『……!』
巨大な土が盛り上がり、複数体の変異種を押し潰す。一方では高速の火矢が貫き、風穴を空けて燃え広がり、焼失させた。
この場に居る騎士団長はファベル殿にフォティア殿。此方の二人も順調よの。
見る見るうちに変異種は数を減らし、攻めてきた数十の物の怪は僅かとなり、町の被害も最小限に減らせた。
「なんだこの配置は……まるで全てを始めから分かっていたかのような陣形だ……!」
「察しが良いの。拙者らの中にはずば抜けた能力を有する指揮官がおるのだ」
「そんなバカな……!」
三角飛びで舞い、叩き落とす。
ヨチ殿は既に拙者らの協力者。“シャラン・トリュ・ウェーテ”の者とは言っておらぬが、嘘では無い。閻魔様も許してくれるだろう。
意識を奪い去り、場は徐々に鎮圧されていく。
「こうなったらこの場で実験だ! やれ!」
『『『…………!』』』
「む? 変異種らが纏まっておるの」
「そ、それだけじゃないよキエモン! 体内で魔力か何かが暴発して肉体が飲み込まれてく……!」
「その様だな。一体何を目論んでおるのか」
残り僅かとなった変異種が互いを押し合うよう重なり合い、丸みを帯び、歪に混じり合って異形へとなった。
「が、合体した……!?」
「成る程。ヴェネレ殿。あれは元より作られた生物。融合くらいするのだろう」
「なるほど……! って、そう言うものなのかな……?」
ヴェネレ殿は困惑する。
拙者も原理はよく分からぬが、兎に角交わった現状は変わらぬ。
残りの生物兵器はもうおらぬので、この場に居た全てが融合したようだ。
全体に分散して襲われるよりかは幾分やり易いかもしれぬな。
「ハハハハハ! もう遅い! それは体内の魔力が融合し、更なる力を引き出すのだ! もう俺の言う事も聞かない! なので俺は逃げるぞ!」
捨て台詞のようなモノを吐き、兵士の一人は箒に乗って空へ逃げる。
だがまあ、あの者はもう捕らえた。問題無かろう。
「そんな……! なぜNo.3様が……!?」
「気紛れよ。まあ、個人で受けている長期任務的なものだな」
「何を……!? うわあ!?」
ザン殿が逃亡途中の兵士を捕らえ、空間の中へと引き摺り込んだ。
これで星の国の派遣された兵士はお役御免。さて、残るは暴走した一体の物の怪だけよ。
『グガァァァ!!!』
「……っ」
叫び声を上げ、歪な形からなる巨腕を振り抜いた。
その余波によって多くの建物が倒壊し、瓦礫の山を築く。
危なかったの。人々を避難させていなければ多くの人死にが出ていた事だろう。
「一筋縄では行かない相手のようだの。主力を除いた騎士は下がりて人々の護衛を。此処は請け負った」
「「「は、はい!」」」
騎士達へ指示を出し、人々の方へ残りの人員を割く。
残るは拙者を含めた主力の数人だけに御座る。
「キエモンさん。私達は……!」
「主らも下がっておれ。此処は拙者らだけで十分よ」
「けど……!」
「エルミスちゃん。私達は下がろう。キエモン達の邪魔になる」
「ヴェネレ様……。……はい……」
ヴェネレ殿の説得もあってエルミス殿らも下がり、この場に残るは拙者とファベル殿、フォティア殿の三人だけとなる。
数では有利だが、複数匹の集合体。風圧で町を吹き飛ばす輩。このまま此処で争っては被害が及ぶの。
故に、
「ザン殿。頼んだ」
「心得た」
空間を開き、拙者らと変異種を別空間へと移動させた。
此処でなら思う存分やれる。さて、早く終わらせ星の国へ仕掛けるとしようか。
「ひ、ひい……!? この空間にまで……!」
「クソッ……!」
「No.3様。本当に裏切ったのか……!」
「見物人がチラホラおるの」
「捕らえた輩を置くんには便利なんしょ!」
「構わない。あの者なら上手くやるだろう」
ザン殿が捕らえた兵士達も居るが、フォティア殿やファベル殿の言う通り。特に問題も無かろう。
拙者ら三人は構え、変異種は膨らんだ腹から手を出して伸ばした。
「うっそー!? 普通あの位置に手がある!? ちゅーか人間っぽい手ぇ!」
「様々な生物が混ざり合っておるからの。変幻自在なので御座ろう」
「その様だな」
変異種の攻撃は不規則。体の全てが目であり手足であるようだ。
相手取るのは中々に難儀なものよの。
『ピギャア!』
「うっひゃあ! 魔力の放出!」
「一つ一つが凄まじい威力だ……!」
「だが、拙者らには問題御座らん」
魔力の塊を球体状に撃ち出し、それを躱す。
背後の空間に着弾して巨大な爆発を引き起こし、空間の欠片を散らした。
「なんと言う破壊力。私が実験に参加していた頃よりも力が増してるな」
「ザン殿もおったか。いや、元より此処は主の空間よの。そうか、主が知る範囲より破壊範囲が広がっておるのか」
「まあな。この空間は外の世界より遥かに頑丈なんだ。あれくらいの欠片を生み出すとなると、外で爆発してたら山が複数消滅していた」
「山と言うものはそう簡単に消え去らぬと思うのだがな」
「それ相応の破壊力があるという事だ」
ただの魔力の放出で山を砕くか。とんでもない相手よの。
然れど無問題。山を砕くような輩とは何度か戦っており、何を隠そうこの場に居るザン殿、フォティア殿、ファベル殿もそれを可能としている。
「詠唱する暇すら勿体無いな。“土連昇華”!」
『グキャア!』
己の魔力から土を生み出し、連鎖するように土壌が巻き上がる。
それが全て変異種を突き、全身を打ちのめした。が、ビクともせぬか。
「“フレイピア”!」
火の剣が伸び、変異種を貫いた。
そこから発火して燃え上がるが、彼奴はその炎までも吸収する。
「ありゃりゃ。こりゃ思った以上に厄介だね」
『ピキャア!』
甲高い声を上げ、全身から手足を高速で出して突き抜け、遅れて破裂音が響き渡り、衝撃波を生み出しながら拙者らを狙う。
「“守護連斬”」
それに向け、ザン殿が次元魔法を用いて全ての手足を斬り伏せる。
物理的な攻撃を無駄と判断した変異種は魔力を込め、火、水、風、土の塊を生み出した。
「あの一つ一つに莫大なエネルギーを感じるな。防ぎ切れるかも分からぬぞ」
「だってさ、キエモンっち」
「その様だの。凄まじき重圧が犇々と肌を打つ」
四つの力。単なる魔力の放出で山を砕く程のもの。果たしてこの力は如何程のものか。
『ピッキャラグァ!』
考える間もなくそれらが放たれ、大きな力が空間を歪めて迫り来る。
敵も味方も無いが、あの変異種には元より敵も味方もおらぬか。
その四つの力は加速し、
「……なんとかなったの」
「……!」
打刀にて斬り伏せた。
斬った瞬間に爆発して更なる破壊が巻き起こったが、それもなんとかなったの。
『グラァ!!!』
「“土壌防壁”!」
今一度火球が放たれ、広範囲を業火に包む。然しファベル殿が土壁にて火炎を防いだ。
『ジャラァ!』
「“フレイムスピアー”!」
音を置き去る速度の水が撃ち出され、フォティア殿が炎にて相殺。水蒸気が霧散する。
『ガゴォン!!!』
「最早鳴き声の原型を留めていないな」
風によって鋭利な岩が先程の水よりも速くに射出され、ザン殿が全てを斬り伏せた。
『─────!!!』
「もう声にもなっておらぬな」
無闇矢鱈めったらな攻撃。体内の魔力を巨大な球体として撃ち、拙者ら以外にも爆発が及んで視界が悪くなる。
こんなものが地上で放たれていれば多大な迷惑が及んだ事だろう。
ザン殿のお陰で被害を出さずに終わらせる事が出来る。
『ゲゲゲゲゲ……』
「すんごい大きな玉作ってる……」
「融合体の魔力も無限な訳はないと思うが……とてつもないな」
「あの大きさ。山どころか大陸一つが砕かれそうだ。此処が私の世界で良かった。だろう? キエモン殿」
「そうよの。主のお陰で問題は御座らん」
力を込め、刹那の刻にその塊が直進した。
空間が歪む程の速度と破壊力。形だけなら先程にも見ているような攻撃だが、それよりも遥かに威力が高い。
「斬り捨て」
『──』
「御免」
それらを一刀両断し、暴発するかの如く巨大な爆発を引き起こした。
フォティア殿らや捕虜とした兵士達も巻き込まれてしまうが為、先程と同様その爆風も斬り伏せ、拙者はそのまま変異種を断ち終えた。
*****
「──して、これは一体何事ぞ?」
「やあ、反応が無いからどうかと思いましたが……君達が加入していましたか。別空間から出てきたのを考えるに、“スター・セイズ・ルーン”にスパイ的なのが居ますね」
変異種を倒し終え、空間から出てくるとそこには帝王。及び次元魔導団の面々が居た。
然れど間に合ったのか、ヴェネレ殿らは向かい合っているが被害は及んでいない。
この時間も含めての予測。ヨチ殿には頭が上がらぬな。
「て、帝王様! 実はNo.3が……!」
「ああ、それについては既にNo.1とNo.2から聞いている。君達に存在価値はないよ」
「……っ。……はい……」
報告しようとした兵士だが、既にそれは伝わっている事柄。寧ろ知らされていなかったのは次元魔導団ではない兵士だけだろう。
拙者と帝王は互い歩み寄り、一丈(※3m)程の距離で見合わせた。
「うちの兵士達をこんな目に遭わせてただで済むでしょうか。“シャラン・トリュ・ウェーテ”は」
「全てに置いて先に仕掛けてきたのはそちらに御座ろう。報復をお望みか?」
「フッフッフ……」
互いに牽制し合い、帝王は不敵に笑う。
何が面白いのか存ぜぬが、受けて立つと言った面持ちのようで御座るな。
帝王は顔を上げて言葉を綴った。
「そろそろ牽制するだけなのもつまらないですね。ではお望み通り……アナタ方“シャラン・トリュ・ウェーテ”は我ら星の国“スター・セイズ・ルーン”が全勢力を用いた武力にて制圧して差し上げましょう」
埒が明かぬと判断したのか、帝王は自らが宣告致す。
これは好機。然し相手をするはたかが一騎士である拙者では御座らん。
それを本人も理解しているのか、ヴェネレ殿が前に出た。
「……そうですね。アナタ達の行った数々の暴挙。治安を乱す悪辣な行動。我ら騎士の国“シャラン・トリュ・ウェーテ”。全身全霊を以てして迎え撃ち、正義の鉄槌を下して差し上げましょう」
「ふふ、アナタ方が正義なら私達は悪ですか。結構です。何れにせよ、勝った方が全てを貰い受けるのですから。それが国の成り立ち、在り方。これにて交渉成立ですね。ヴェネレ姫。いや、シュトラール=ヴェネレ王」
よくぞ申された、ヴェネレ殿。暴虐の限りを尽くす星の国を討つ手立てが出来た。
これにより、愈々戦の時が近付く。多くの命が潰える可能性はあるが、星の中で内輪揉めをしている時でも御座らぬのが現状。より強大な悪が迫っているのだからの。
今日この時、今を以てして拙者らは星の国へ宣戦布告を終えた。




