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其の弐佰拾壱 計画始動

 ──“三週間後、仮拠点”。


 日が経ち、会議の日となった。

 拙者ら主力は約束の前日に向かい、既に仮拠点へと到達しておる。

 話を終えたら直ぐ様準備へ取り掛かる所存。故に行動は迅速よ。


「お、もう集まってる。流石だな」


「ヨチ殿。主も中々に早いではないか」


「まァな。こちらも発信器が付けられているから早急に終わらせたいんだ。攻めても問題無い証拠を提示するだけだからな」


 既に呼ばれた面々はつどっており、そこへヨチ殿も時空間移動の魔道具をもちいてやって来た。

 常に監視されている立場が為、早急に終わらせるのが目的との事。だからこそ即座に会議が始まった。


「んじゃ、率直に言おう。“スター・セイズ・ルーン”に攻め入っても問題無い理由は──近隣諸国への悪行、及び侵略行為の記録。その他etc.とまあこんな感じで機密事項をまとめた書類だ。これがあれば大義名分が出来る」


「そうか。しかし、それだけでは証拠不十分じゃないか? 数々の罪はあれど、だからと言って侵略行為を執り行うのは問題だ」


 持ってきた物は様々な事柄が示されたという書類。然しそれだけではまだ決定には足りず、ファベル殿が訊ねる。

 だがヨチ殿には抜かり無かった。


「そ、これが表面上の書類で……ほら。これが戦争計画をまとめた物だ。日付まで事細かく記されている。──そして明日、騎士の国の友好国である小国が攻められる」


「……!? なんだと!? 貴様、それを知っておきながら……!」


 ヨチ殿曰く、明日に“シャラン・トリュ・ウェーテ”の友好国が星の国に攻め立てられるとの事。

 小国という言葉からするに、火の国などのような隣国ではなく領地の一つだろう。

 ファベル殿は身を乗り出し、ヨチ殿はそれを制する。


「まあまあ、落ち着け。明日だ。明日。つまり今日は猶予があり、準備が出来るという事。まあ、これは星の国のちょっとした実験だな。生物兵器や変異種の試用で攻めるもの。だから表沙汰になる事はないが、そこに居るヴェネレ姫がその現場に居合わせて目撃したりしたら言い逃れは出来なくなる。先に仕掛けたのは“スター・セイズ・ルーン”という事になるからだ。それにより、戦いの切っ掛けへと持ち込める」


 火蓋を切ったのが向こう側とする事によって戦争阻止の為の戦が行えるようになる。立場として“シャラン・トリュ・ウェーテ”が被害者になれるという事だの。

 確かに案としては良いが、ヴェネレ殿が口を開いた。


「なるほど……けれどその為に私達へ良くしてくれる人々が被害に遭うなど……!」


「それを全部含めた上での今日の会議だ。そこの街へ行くまでの時間と住民や最低限の貴重品を避難させるまでの時間。その全ての未来を視て誰も犠牲にならず攻め立てられるような算段を立てた」


「そこまで手回しをしていたとは……」


 全てを計算した上での会議。

 建物などの被害は及ぶが、最低限で済む。一番重要な人々が助かるのだから。

 それを聞いた拙者らが慌てて行動を起こし、星の国に気付かれてしまわぬよう準備が整う時間までも考慮した行動。

 もはや手際の良さに畏怖の念までいだくが、未来視を出来るからこその行動のようだ。見事なものよ。


「どうだ、懸念はあるか?」


「いや、無い……が、人々を巻き込むのには変わらない……それについては思うところありだ」


「そう、けどそれが最善策だ。世の中の仕組みは騎士団長の立場にあるアンタが知らない訳が無いだろう。なるべく犠牲は抑える。いや、人死には出さない。建物も立派な資産だが、視れる限りでの未来の最良がこれなんだ。それ以外だとどうしても騎士の国が世界中の敵となってしまう。そう、“スター・セイズ・ルーン”の戦争が整うまでの期間でな」


「そうか。民が死なないのが最良と考えればそうするしかないか」


 建物も含め、何かの被害が及ぶよりも前に止める事も可能ではあるが、そうすると明確な証拠とならぬが為、“シャラン・トリュ・ウェーテ”が非難されよう。

 誠に出来る最善手を打ってくれたという事。自国を裏切る形になるのだが、此処までしてくれるとはの。

 ヴェネレ殿も了承し、ヨチ殿へと訊ねる。


「それでヨチさん。私達はいつ頃向かえば良いのでしょうか?」


「そうだな。今すぐでも少し後でも。距離を考えれば数時間で到達出来る。今から半日よりも前にてば間に合う。その分、住民の未来が点滅して消えかけるけどな」


「だったら今すぐに……!」


 ヴェネレ殿の言葉に拙者らも頷いて立ち上がる。

 未来が消えかける。その言葉が意味するは、助からぬ者が出てくる可能性も生まれるという事。

 そうなっては元も子もない。今直ぐにおもむき、作戦上先手を打たせつつ人々は護る方が良かろう。


「OK。けど俺は一応バレちゃいけない立場。場所はこの場所で……ああ、いいや。取り敢えず書類や地図を渡しておく」


「そうか。分かった」


 書類をファベル殿へ渡し、ヨチ殿は空間を移動するよう消え去る。

 会議という程長くはなく、早急に終わったが立場上同じ場所に留まり続けるのも問題なのだろう。

 

「では拙者らはこの地図にある小国へ」


「うん。この拠点にも何人か残して、私達はそこに向かおう。特に私は絶対に目撃しなきゃいけないからね……!」


 承認の為、ヴェネレ殿の存在は不可欠。

 そしてこの仮拠点を空けるのも問題なので何人かは残るとして、残りの者達でそちらへ向かう事とした。



*****



 ──“数十時間後”。


「それでは騎士達の指示の元、避難を開始してください!」


「皆の者、此方ぞ」

「押さないでくださーい!」

「慌てないでくださいまし!」

「まだ時間はあるから確実になー!」


「本当に敵が来るの……?」

「“シャラン・トリュ・ウェーテ”の王様がそう言うのですもの。来るかもね」

「ヴェネレ様が言うなら本当なんだろうな……」

「ヴェネレ様がそうおっしゃるなら……」


 仮拠点から離れ、小国へとやって来た拙者らは住民の避難誘導をしていた。

 唐突に敵が来ると申しても信じて貰えるかは不安だったが、その不安は杞憂に終わったようだ。

 それもこれもヴェネレ殿への信頼があるからこそ。誠に立派な主君ぞ。


「概ね避難させる事が出来ましたわね。けれど本当に来るのでしょうか。信用してない訳ではありませんけど……不安ですわ」

「ヨチ殿は嘘を言っておらぬよ。拙者らと敵対する気も更々無いようだ」

「うん……今回も裏は感じなかった……」


 避難誘導しつつ、本当にそうなるか不安気なブランカ殿。彼女のみならず信用し切れておらぬ者も多いが、セレーネ殿。そして嘘発見の魔道具などで立証済み。

 魔道具では単純に裏切るかどうかなどを聞き、反応が無かったのだ。

 故に帝王は直ぐにでも仕掛けてくる事だろう。会議から既に半日はっており、もう一刻もせぬうちにその時間となるのだから。

 そのまま住民達を移動させ、全員の避難が終わる頃にはその時となっていた。

 町には変装した騎士達がおり、視察に来た帝王の目もあざむけるようになっておる。


「そろそろよの」

「はい。ヨチさんの言い分が正しければすぐに……」


『『『…………』』』

「来ました……!」


 ──その時が訪れ、次元の狭間からものらが投下された。


「不可視の移動術からなる投下か。これは不意を突かれてしまうの」

「そうですね……!」


 気配も何もなく生物兵器を投入し、一気に攻め立てる。

 一体一体がB級上位からA級相当の妖やものとなればこの初打で終わってしまう国も多かろう。各国が各国、騎士団長や次元魔導団相当の軍を抱えている訳でも無いのだからの。


「何処で帝王が見ているのか、見ていないのかも分からぬ。一旦この場を離れるぞ」


「はい!」


 欺く為、一時的に離れて一般市民を装う。

 拙者らだと気付かれてしまえば引く可能性もあるからの。一つでも建物を破壊したのなら明確な大義名分が生まれるというもの。

 そしてそれは今、


『ブギャアアア!!!』


 行われた。

 オークの変異種が我先にと単純な魔力を込めた棍棒を振るって建物を粉砕し、複数の家屋が吹き飛ぶ形となって崩落した。

 さて、時は来た。一気に畳み掛けようぞ。


『ブギャアアア!!!』

「…………」

『……!』


 また棍棒を振り被ったオークの足を斬り、膝を着かせて脳天を突く。

 それによって赤黒い血を散らしながら倒れ伏せ、痙攣を起こして動かなくなった。


「な、なんだ……!?」


 そこへ響く一つの声。然れど気配は数十。

 成る程の。帝王は来ておらぬか。真の安全圏から眺める彼奴あやつらしき立ち振舞いよ。

 主力でもない部下の兵士を寄越し、報告だけを待つ在り方のようだ。

 ともあれ、反応は示した。なれば拙者が直々に赴くとしよう。


「主ら、唐突に何をする! 此処が“シャラン・トリュ・ウェーテ”の友好国と知っての狼藉ろうぜきか!」


「……! コイツは、アマガミ=キエモン……!」

「なんだと……!?」

「まさか……! なぜ貴様が此処に居る!?」


「質問をしておるのは拙者だ! 無礼者! 友好国に来るのに理由があるか!」


「「……っ」」

「た、確かに……」


 一先ず拙者の柄ではないが怒鳴り、会話に置いての有利を取る。理不尽なものではなく尤もな理由でいかる。さすれば今回の論争にて優位に立てよう。

 相手が身をすくませてしまえば一方的に言えるのだからな。


「一体何事ですか、キエモン……さん!」

「おお、ヴェネレ殿。不逞な輩が攻めてきたので御座る」

「なんと失礼な人達でしょうか! 彼らの教育はどうなっているのでしょう!?」


 そこへ偶然を装い、ヴェネレ殿が参戦。

 若干わざとらしいが、本来のヴェネレ殿の性格も知らぬ者達。これでも上手く誤魔化せよう。


「あれは……!」

「騎士の国の王だ……!」

「しまった……! 王族が居るという事は騎士団長クラスも居る筈……!」

「アマガミ=キエモンが居るんだ……形成は此方が不利だぞ……!」


 目論見通り、誤魔化せたようだの。

 拙者らの名と姿形は存じ上げていたとして、それ以外を何も知らぬのでまんまと手中にまって頂けた。

 此処から上手くいくさの計画阻止へと繋げて行くとしよう。結局は阻止の為に戦を行うのだが、範囲などを狭めるのだ。


「……さて、仕掛けてきた手前、覚悟は出来ておるのだろう。良いのだな? 正当防衛が成立するのだからの」


「……くっ、やれ! 証拠を隠滅してしまえば……!」


 言葉を続けるよりも前に踏み込み、ほうきの上に立つ一人の兵士を叩き落とす。

 瞬時に目配せをし、近場の兵士達を打ちのめして物陰に潜んでいた他の騎士達が攻め立てる。


「……!? 一体どこにこの数の騎士が……!?」

「姫君の散歩なのだ。少ない方がおかしかろう。運が悪かったの」

「……っ。そんな……! バカな……!」


 残りの兵士達を打ち、意識を奪う。

 操るだけのこの者達は問題では御座らん。変異種や生物兵器らの方が厄介よの。

 “シャラン・トリュ・ウェーテ”による戦の阻止。その第一歩が始まった。

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