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其の弐佰陸 数度目の侵入

 ──“スター・セイズ・ルーン”。


 信仰の国を後にした拙者らは平原を抜け、星の国へと入った。

 ヒコ殿に教えられた抜け穴。あの時点で誰にも気付かれていなかったのもあり、すんなりと通る事が叶った。


「ふう……何とか入れましたわ……話には聞いていましたけど、なんて細い抜け穴でしょうか」


「アハハ……ブランカさんお尻が引っ掛かってしまいましたもんね。私もギリギリでしたけど」


「お、お尻が大きいなんて言わないでくださいまし! 安産型でむしろ好ましい体型ですのよ!?」


「ちょ、声が大きいです……! 別にブランカさんのお尻の大きさの詳細には言及してませんよ……!」


「言ったも同然ですわ……!」


 此方では以前のマルテ殿のようなやり取りをしておるが、今日は人通りも少なく気付かれる気配も無い。

 こうも容易く入れるのなら信仰の国に寄らずとも良かったかもしれぬが、得られたモノが無い訳でもない。

 と言うても得られたのは拙者があの邪悪らと同じような存在の可能性が高まった、不本意な証明だけだの。


「前に侵入した時はザン殿によって見つかったが、彼女以外に細部を探れそうな者はおらぬ筈。強いて言えば闇魔法と光魔法くらい。この国には気配も魔力も掴めぬ不可視の移動術がある為、その辺りも気を付けよ」


「分かりました」


 穴を抜け、前に一度案内された道を行く。

 そこから城へと繋がっておるからの。建物に通ずる更に小さき穴もあるが、ブランカ殿とエルミス殿は大丈夫で御座ろうか。


「此処を抜ける必要もある。以前に入った時ほんの少し崩れたので多少は広がっていると思うが、それでも狭かろう」


「うひゃあ。本当に小さな穴。私でもギリギリだぞ。エルミスとブランカは行けないんじゃないか?」


「失礼ですよ。ペトラさん」

「そうですわ。私だって行けるんですもの」


 そう告げ、二人は同時に小さな抜け穴へと入った。が、同時だったので引っ掛かるどころか頭すら入らず互いに押し合う形となった。


「慌てるでない。順に入れば良かろう」

「そ、そうですね。ついムキになってしまいました」

「では、わたくしから……!」

「その次に私が行きます……!」


 気合いを入れ直し、ブランカ殿が穴へ入る。エルミス殿も気合いを入れ、


「ひ、引っ掛かりましたわ……」

「ブランカさん~!?」

「だから言ったろうに。押し込めばならぬが、男である拙者が女子おなごのケツに触れるのは問題。如何する?」

「そ、そうですね。私達がやるしかありませんけど……ブランカさん声出したりするでしょうか?」

「うぅ……その辺は我慢しますわ……」


 拙者は手伝えぬ故、この場はエルミス殿らに任せる。

 彼女らは三人でブランカ殿を押し込んだ。


「~~っ」

「こ、堪えてください……!」


 手で口を抑えて声を押し殺し、苦痛に耐えてブランカ殿は抜け出した。

 また少し欠けて広がったの。次いで拙者が入り、エルミス殿が。彼女も引っ掛かったので拙者とブランカ殿で手を引き、後ろからペトラ殿とセレーネ殿が押して無事潜入。

 後続の二人はすんなり行き、拙者らは全員が見つからず城の中へと入った。

 拙者に限って言えば三度目の城よの。うち二つは侵入と来た。我ながら盗人のようだが、盗人は三度も同じ場所に入らぬか。


「さて、此処からが問題よの。懐柔するには接触する必要があり、その時点で仲間を呼ばれては詰みだ」


「厄介ですね。己の力に絶対的な自信があれば対面してくれると思いますけど、既にキエモンさんが戦い、勝利を収めている相手。一人で相手をしようとは思いませんよね」


「そこが問題ぞ。それを踏まえた上での余程の自信家か、話し合いをしてやっても良いと考えている者以外は不利益しか生じぬ」


 今は穴から抜けたばかりの物置のような場所におり、この穴が見つかっていない事から察するに利用者は此処何年も居なかろう。

 故に小声なれば会議が行える。ちと埃っぽいが、それは我慢だの。

 かく主力との接触。何にしてもそれを第一に考えねばなるまい。

 以前のザン殿のように、個室に入ったらバッタリ出会でくわすなど起こらぬだろうか。


「だがまあ、考えても意味無いの。なるべく隠れて進み、主力の誰かをさらうか」


「ハハハ……まるで人拐いのような言い回しですね……。現状それしか方法が無いので仕方ありませんが」


 人拐いとは言い得て妙。何故なら意味合いでは全く間違っておらんのだからの。

 違いと言えば身代金などの代わりに戦力を分けて貰うくらい。と言うても対価が無くては受け入れられる筈も無く、その辺りを考慮せねばな。

 渡り廊下に人の気配が感じないのを読み取り、拙者らは以前のように潜みながら移動した。


「此処まで誰とも会っておらぬな。順調だが、主力の誰かと会わねば先に進めぬ」


「逆に主力の気配を探ってみてはどうでしょう?」


「ともすれば強い気配をか。然し気配によって強さなどを見極めるのは至難ぞ。気配と言っても数値化されて見えるのではなく、足取りや体重移動。呼吸の間隔などから大凡おおよその強さを把握しているだけだからの。こうも人数が多くては定められぬ」


「だけって……普通にとんでもない事をしているような……普通にとんでもないって言うのも変な言い回しですけど」


 一先ずしてみなければ始まらぬ。エルミス殿の案を受け、確実ではないがやるだけやってみる事とした。

 城に居る人々の息遣い、歩幅。立ち振舞い。それらの感覚を見極め、実力者と思しき存在を割り出す。


「……フム、実力者のような者は何人かが大広間に居るようだが、人数が多くて目立つの。それ以外で言えば此処から近い小部屋に一人おるぞ」


「誰かまでは特定出来ませんか?」


「無理だの。天眼通か天耳通でも使えなければ分かる由もない。そして拙者はそれを使えぬ」


「てんげんつー? てんにつー? ……そうですか……しかし、行ってみない事には進めませんね」


「そうよの。それが目的だ」


 小部屋に居る一人。それが誰かは存ぜぬが、動きや息遣いからして強者である事は理解した。

 妙に落ち着いておるからの。誰であっても確認するに越した事はない。

 他の者達に見つからぬよう、拙者らはその小部屋へと向かった。


「──3…2…1……来たか。キエモン率いる騎士の国の侵入者(客人)


「……フム、拙者らが来る事を知って此処で待っていたのか。入って来る時間まで的確に当てよる」


「ああ、まあね。けど別に大した事じゃない。的確に当てたからどうなんだって話だよ」


「随分と退屈そうに淡々としておるの」


「そんなの一目で分かるものかな。ま、人生も何もかも常に退屈でつまらないのはそうだけどさ」


 そこに居たのは、髪もボサボサで手入れなどしていないであろう気怠けだるげな男性。

 随分と人生に退屈しているようだ。一体この男に何があったと申すのか。

 エルミス殿らもそちらの方を見やる。


「この人が……キエモンさんの見立てで実力者ですか……?」

「一応そうではあるの。しかし何ともやる気が無い者か」

「座り込んでますわ……」

「やる気ねー」

「つまらなそうにしてる……」


「余計なお世話だ。初対面のアンタらに俺の性格をどうこう言われる筋合いはない」


 確かにそうであるが、この者を見て気怠るそうに思わぬ方が無理がある。

 しゃがんでいた此奴は横になり、「ふわぁ」と欠伸を一つ。


「気が抜けてるの。拙者らは一応敵なのだがな」

「あー、いいよいいよ。平気平気。アンタらに敵意が無いのは分かってる。こっちから仕掛けない限りは何もしてこないって分かってるから」

「フム……」


 観察力はあるのだろうか。確かに拙者らは戦闘が目的では御座らん。

 にしてもいささくつろぎ過ぎておるが。


「これ、若者なのだからもうちっとシャキッとせい。そのまま怠けておると牛になるぞ」


「牛になる事は人生で一度も無いだろうね。流石に来世までは分からないけど、見ての通りこれが俺のスタイルだ」


「面倒なれば何故に拙者らが来るのを分かっていながら此処で待機しておったのだ?」


「そりゃあ、俺がここで待ってないとより面倒な事になったからな。本当にやれやれだよ」


「それも分かるのか。恐ろしく頭の回転が早いの」


「まあそれもあるけど、ぶっちゃけると俺、未来を視る魔法使えんのよ。隠してても割とすぐバレるから恥掻く前に教えとく」


「「「…………!」」」


 その言葉に反応を示したのはエルミス殿らの三人。

 未来を閲覧する事の出来る魔法か。如何様な原理なのかは拙者に知る訳もなく、多くは切り捨てるがその様な力を使う者が居たとはの。

 星占術でも使えるのだろうか。さながら陰陽師おんみょうじが如しよ。


「み、未来視の魔法……!」

「それなら私達が来るのも当然分かる事ですわ……」

「予想以上に凄いのが居たな……」


 未来を視れると聞いてはこの反応も頷ける。拙者とて少々驚き申した。

 拙者も話し掛けるように言葉を綴る。


「未来視とは便利な力よ。己や仲間の安否を守れるではないか」


「そんな良いものじゃないよ。確かに使えた当初は色々視て楽しんだけど、結果なんて分からない方が良い。未来視の魔法はネタバレのオンパレード。この先俺がどうなってどんな風に息絶えるのかまではっきりと分かってしまう。もう俺の人生の行く末は決まっているんだ」


「成る程の。所持者の見方次第という事か。なれば己の望む未来を選択すれば良かろう」


「それが理想ではあるけど、未来って言うのは案外一定じゃないんだ。ちょっとした事ですぐに変わってしまう。そこから選ぶのも大変でね。例えば今ここで立つか寝たままか。それによっても未来は変わる。視ようとしなければ別に問題は無いんだけど、一々(いちいち)未来を視て確かめるのも面倒で、なるべく楽な方に進んでいたら“スター・セイズ・ルーン”のNo.8になっていたよ」


「……!」


 フム、此奴が主力の一人に御座ったか。

 えいと……確か八の意。八とは末広がりで縁起が良いが、この者にそう言った考えは無さそうだの。

 今現在見て分かる態度がそれを思わせる。


「では一つ聞きたいが、未来を視れば拙者らの目的も分かるだろう。主は如何する?」


「あー。……。……視てみたよ。なるほど。壮大な目的をお持ちのご様子だ。そうだね。俺が選べばどちらかに転ぶ。せっかくここまで来たんだし、暇潰しも兼ねて相手してくれよ」


「そうか。要は主を説得してみよという事だの」


「話が早くて助かる。俺はどっち付かずだけど、割とこの立場には甘んじているからな」


 この者も、協力してくれる可能性は低くない方の人物。全てを知っているからこそ刺激を求めているのだろう。

 未知の体験は出来ぬが知っている現状から刺激を与える事は可能よ。

 星の国へ潜入した拙者らは、主力の一人と出会った。

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