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其の佰玖拾捌 予兆

 より激しくなる戦闘。光と次元がぶつかり合って大気を揺らし、“シャラン・トリュ・ウェーテ”の街を大きく歪める。

 ザンちゃんが気を遣ってくれているのもあり、建物の被害は少ない。だけどそれが枷になっているのは事実。

 対するトゥミラは街の被害なんてお構い無し。敵国だから当然だよね。どうしよう……。


「こんな国、気を遣わなくて良いじゃないですか~。貴女の何がどうなる訳でも無いのでしょう?」


「この国には世話になっているからな。街の人々は良い奴等だ。その住まいを切り刻む訳にはいかない」


「恩義だとかなんだとか。貴女の強さは好きですけど、その性格は苦手ですねぇ」


 言葉を交わし、ザンちゃんの空間がトゥミラを上空へと突き上げる。

 なるべく街から引き離す方針。四方がダメなら上空って言うのは考えたね。別次元への移動は相手が警戒しているのもあって成功しにくい。だからこそこのやり方。


「では、なるべく街を破壊してみましょうか♪」

「……!」


 瞬間、トゥミラは巨大な光球を生み出し、間髪入れず降下させた。

 この大きさ。街一つは容易く消し飛び兼ねない程のモノ。何の躊躇ためらいもない。無情な攻撃。

 その光球は落ち、国を覆い尽くす程の目映い光と共に爆発した。


「……あれ?」


 ──筈なのに、街に被害は及んでいない。

 空の雲は晴れて満天の星空が映り込む。曇り空で雪が降りそうな雰囲気だったのに……。

 だけど本当になんで街は──


「……!? ザンちゃん!」


 空を見上げると、全身が火傷でボロボロになったザンちゃんが居た。

 衣服も焼け、素肌に煤が付いている。

 それで理解する。街が無事だったのではなく、ザンちゃんが一身に受けたからこそ防げたという事を。


「はあ……相変わらずの熱量だな……これが狙いなら大したものだ……」


「ふふ、当然狙ったんですよ~。人は他のモノを守る時が一番の隙になるんですから。安心してください。出力は抑えたので死にはしませんよ~」


 曰く、殺めてはいないとの事。けどこれでザンちゃんも一時的に再起不能。

 熱と光で全身を焼かれてしばらく話せただけでスゴい……自分の国じゃない所にまで尽力してくれるなんて……。

 私はどうだろうか。逃げ回るだけで正面から向かっても返り討ちに遭うのが関の山。自分で自分が情けなくなる。強敵と会う度にそんな事を考えてしまう。


「さて、これで残る戦力はお姫様2人にサモンさんだけですねぇ。瞬く間に終わってしまいますよ~」


「「……っ」」

「むむむ……!」


 見ての通り大ピンチ。瞬く間に終わるという言葉。それはおそらく正しい。

 だけど、このまま引き下がる訳にはいかない……!


「“ファイアショット”!」

「下らない悪あがきでーす♪」


 火球を高速で撃ち出し、それは片手と共に翳された光の壁にて防がれる。

 だけど煙が生まれ、相手から視界を奪う事には成功。ここから策を練ってけしかける……!


「“フレイムトルネード”!」


 煙幕を包み込むように炎の渦で囲う。詠唱付与の時間すら勿体無く、最低限簡易的な呪文で発動。

 今トゥミラはあの渦の中。後はそれを絞り込み、一気に焼き払う!


「意味がありませんって。お姫様」

「……!?」


 その渦は単なる魔力の放出だけで飛ばされ文字通り吹き消される。

 当たり前だよね。相手の魔法はレベルが違う。それは魔力放射だけでも事足りる程の差。

 だけどこちらには、その魔力の放出にけたお転婆お姫様がもう一人!


「うおおおお! 食らえ! “超究極ミラクルハイパースーパーデラックスキャノンソード”!」


「……!」


 スゴそうな単語を詰め合わせたテキトーな魔法……じゃなくて魔術。

 その呪文とは裏腹に凄まじいエネルギーが秘められた魔力の塊は大気を抉りながら直進し、トゥミラは思わずそれをかわした。


「弾なのか刃なのか分からない呪文でしたが……これ程の破壊力とは……」


 サンちゃんの魔術ですらない魔力の放出に驚嘆した面持ち。

 防ごうと思えば光魔法を展開する事も出来た筈。けどそれをしなかったという事は、サンちゃんの魔術なら光魔法に対抗出来る……!


「思った以上に厄介そうです。予定を変更して一気に仕掛けます」


 サンちゃんの力を前に、流石に余裕が無くなったトゥミラは複数の光球を空中に展開し、即座にそれらを撃ち出す。

 さながら空中からの爆撃。この全てが街中に落ちたら最後、辺り一帯は更地と化す。


「“超究極スタートファイナルビーム”!」

「なんと……!」


 最初か最後か分からない魔力からなる光線。それは光球を逆に飲み込み、降り注ぐ光の雨が掻き消された。

 トゥミラが動揺の声を上げる。やっぱりサンちゃんの潜在能力は、もしかしたら全魔法使いを超えているのかも……!


「厄介なのは……魔族のお姫様みたいですね……!」


 狙いを定め、自分自身がサンちゃんの眼前へと迫る。

 脅威と判断して狙いを付けたみたいだね。だけどそれは明確な隙になる。キエモンも隙を逃すなって言ってくれたから……!


「“ファイアレーザー”!」

「……!」


 速く鋭い炎魔法を射出。現状、私が出せる炎魔法の最速。

 それはサンちゃんの元へ向かうトゥミラの眼前を横切り、彼女はこちらを睨み付ける。


「邪魔立てをして……!」

「ふふん! あまり私を侮らないでね!」


 完全に私を舐めていたトゥミラが見せる苛立ちの表情。

 これまた文字通り、一矢報いる……で良いんだよね。それが出来た。

 私も直接的な戦闘じゃなく、こう言ったサポートならキエモンの隣でも戦えるのかも。


「余所見するでない!」

「しまっ……!」


 私に気を取られたトゥミラは狙い通り、サンちゃんの速い魔力放出が直撃する。

 着弾と同時に大爆発が起こり、辺りに舞う砂塵や粉塵を吹き飛ばした。


「どうじゃ! 思い知ったかー!」


「子供だと侮っていましたね……油断大敵とはこの事。咄嗟に守らなければ戦闘終了でしたよ」


 初めて顔色が変わり、反省の色を見せる。

 咄嗟に光魔法で守る事は出来たみたいだけど、綺麗だった衣服や体には傷が付いていた。

 この調子なら押し切れる!


「戦闘で痛みは付き物。別に私自身の美しさには酔っていませんからね。けどこの強さ……アハァン♡ 堪りませんわ!」


「ひっ……ヴェネレ……わらわアイツ怖い……」

「分かるよ。サンちゃん……私もあの人怖いもん」


 頬を染め、口から唾液を垂らし、息を荒く恍惚の表情で興奮するトゥミラ。

 他人を傷付けるのが好きであり、自分が傷付いてもそれを楽しむ異常性。何この人、無敵?


「良いですねぇ。スゴく良いですよぉ♡ 私をこんなに傷付けるなんて……貴女も傷付けたい!」


「サンちゃん!」

「わっ……!」

「痛ぅ……!」


 光の槍が突き抜け、私の肩を抉る。

 この程度の痛み、なんて事はない。けど、容赦無くサンちゃんにも仕掛けていたね。今更か。あの人はそう言う人。

 トゥミラは更にけしかける。


「良いですよぉ。痩せ我慢! さあもっと苦痛の悲鳴()をお聞かせ下さい!」


「……っ」


 無数の光が刺し込み、私の体が貫かれる。

 痛い。スゴく痛い。だけど泣く訳にはいかない。だってキエモンはこれ以上の傷で戦っていたんだもん。私が弱音を吐くのは主君の名折れ……!


「“ウィップ”!」

「おやおや、いつの間に後ろへ」


 その攻撃の最中、私とサンちゃんの側から離れていたサモンちゃんが魔力の鞭でトゥミラの体を拘束した。

 さっきまでは一緒だったけど姿は無くなってたでしょ? サンちゃんが引き起こした爆発で隙を突いたの。


「“現影魔獣”」

『『『…………』』』


「うふふ、間髪入れませんか」


 幻影ではなく現影。つまり実体のある影という事。

 サモンちゃんは魔力から魔物を作り出し、拘束したトゥミラへ向けてその魔物を嗾けた。


「強すぎる光の前では、影も成す術ありませんよ」


『『『──』』』


 発光し、魔力の魔物を消し去る。

 次の瞬間にその光を取り込み、トゥミラは不敵に笑う。


「“光身一体”。そろそろ本格的に終わらせます♪」

「……!」


 瞬いた刹那、サモンちゃんの眼前に現れ、その体を光で包み込んだ。


「光の速度で攻撃すると死んでしまいますので、ちゃんと熱しますねぇ~」

「ああ……!」

「アハァ♡ 良いですよ~。その悲鳴。あ、服がボロボロ。国に帰ったら新しいのにお着替えしなくてはいけませんねぇ。柔らかくて可愛いお胸が台無しでーす♪」


 光魔法で包み焼き、サモンちゃんの体をいやらしく触りながら話す。

 なんて威力……それに、光の速度ってもしかして……。


「サンちゃん! ここから離れなきゃ!」

「……え? わ、分からんが分かったぞ!」


 サンちゃんの手を引き、この場からほうきで飛び去る。

 一旦距離を置いて態勢を立て直さなきゃ。あの言い分、おそらく……。


「ふふ、気付きましたか。けど、今の貴女達は遅すぎですよぉ~」

「「……!」」


 私達の前に現れ、既に用意していた光の球体が放たれる。

 私は咄嗟にサンちゃんを突き落とし、光球の中に包み込まれた。


「……っ……ああああ!?」


 その光は想像を絶する熱さ。殺さないように手加減してこれなんて……! まるで煮えたぎった釜の中に押し込まれた気分。

 熱量は凄まじく、自分の体が焼けていくのを実感出来る。……あ、服……せっかく誕生日のお召し物なのに……この熱じゃ台無し……新しいドレス買わなきゃ……。

 意識が飛び掛かった瞬間、光は何かに飲み込まれて消え去った。


「……あれ?」

「あらあら……まだ半生もいいところですのに……それが魔族の本領ですかぁ? お姫様」


「ヴェネレを離すのじゃ……! 先程も言っただろう! 友を傷つけるのは許せぬと!」


 そこに居たのは、イアンさんのように黒い魔力を身に宿したサンちゃん。

 これは一体……それに、私の体……少なくとも火傷は負っていたけど痛みは無い。傷は残っているのに、痛みだけがない。


「これが魔族の……ふふ、思わぬ収穫ですねぇ。まずは本物の闇魔法(・・・・・・)を拝めますとは」


「本物の……!?」

「何を言っとるんじゃあ! ヴェネレを離せ!」


 今のトゥミラの言葉。闇魔法に本物も偽物もあるの? そもそもまずはって……それじゃ光魔法にも本物があるかのような言い回し……。

 ダメ。思考が回らない。色々あって疲れたからかな。なんだか体が常に暖かい……熱っぽい感じ……。

 私達とトゥミラの戦い。人数が一気に減り、サンちゃんが何かに覚醒した。

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