其の佰玖拾漆 光の使い手
──私はルーナ=シュトラール=ヴェネレ。
今日は私の楽しい誕生日だった。
国のみんなが祝ってくれて、人々にも美味しい料理とかが振る舞われる祭典。
みんなが楽しめる祭りの筈なのに、星の国からやって来た刺客、No.1のイアンとNo.2のトゥミラによってメチャクチャにされちゃった。
私達は力を合わせて何とか倒したんだけど、その直後が問題。キエモンも動けない状態で現れたそいつ……。
「……トゥミラ……さん。なの?」
「ええ、そうですよー♪ トゥミラさんでーす♪」
何と言うか、丸っきり雰囲気が変わった。本当に真逆。顔付きや髪、オッドアイとかの面影は残っているけど、それでも別人みたい。
けど穏やかで取っ付きやすそうな雰囲気もある……かな?
「それでそこの死にかけの騎士さんですけど、さっさとトドメを刺して殺して差し上げた方が為になると思うんですよ~。死に際の断末魔が聞こえないのは残念ですけどねぇ~」
「……っ」
訂正。優しく穏やかな笑顔とは裏腹に、何ともねじ曲がった性格。もしかして彼女って二重人格だったの? 初めて見た。
今の言葉は多分彼女なりの親切心。だからこそ嫌な感じ。相手にとって私達は敵だから正常な判断なのかな……ううん。さっきのトゥミラさんは敵対はしたけど命までは取ろうとしなかった。けど今のトゥミラは違う。命を奪う事に何の躊躇いもない。
「もう、イアンさんってば~。No.1が何やられてるんですか~? 私に返上してくださいよ~」
「やれやれ……“君”はともかく、“君”は別に称号とか興味ないだろう。君はただ、殺戮とか破壊とかを楽しむのが生き甲斐なんだから。君がNo.1の座を降ろされたのは実力不足じゃなく、君の存在が帝王の手にも余るからだろう」
「ふふふ~♪ だって楽しいじゃないですかぁ♪ 助けを求めるあの声、飛び散る真っ赤で綺麗な鮮血♡ 嗚呼、想像しただけでイッちゃいそうですわ♡」
「もう十分イッてるよ……crazy」
イアンさんも今のトゥミラには付いて行けないみたい。
私も正直付いて行けない。なんか苦手なタイプの性格だもんね。キエモンも嫌いな感じの性格じゃないかな。今のトゥミラは。
「さてと、動けない味方は使えませんけど仕方無いですね。イアンさんは生かして差し上げるとして、他は皆殺しで構いませんね?」
「いや、一応戦力の増強が目的。なるべく実力者は生かして捕らえたいところなんだけどね。それに、本筋はヴェネレ。セレーネ。月への手掛かりと貴重な魔族sampleであるサンなんだけどな」
「あらあら、そうですかぁ。それは残念です。では、それ以外は皆殺しにしてもよろしいのですのね?」
「戦争に置いて“数”は大きな戦力。傷で動きにくい俺はどうこう言えないけど、皆殺しはしない方が得策かな。NG」
「分かりました♪ では皆半殺しにしておきますね♪」
物騒な会話をしているよ。
トゥミラは殺る気満々。イアンさんは比較的穏健派だけど、傷で動けないからトゥミラの自由にせざるを得ないって感じかな。
相手が一人なのは良いけど、今現在戦えるのって……私だけ……?
「うふふ~。戦えそうなのは貴女だけですか。可愛いお姫様♪ では貴女を焼き払いましょうか」
「……はあ!」
杖を構え、目映い光が放たれる。
光魔法なのは変わらず。私も杖を構えて詠唱もせずに炎を放出した。
そもそも詠唱なんて言う時間無いんだもん。
「私の光は全てを埋め尽くします。故に、同じく熱が主体の火ですら光のエネルギーを前に成す術なくやられてしまうのが現実ですよ♪」
「くっ……!」
火と光の正面からのぶつかり合い。それによって生じた余波で私達の体は吹き飛び、トゥミラは平然と構えていた。
吹き飛ばされたのは好都合かな。落下のダメージは受けちゃうけど、キエモンやミルちゃんにアルマさん。動けない人達を遠ざける事が出来たなら何より。
「ふふ、貴女如き、詠唱なんか必要皆無ですわね♪」
「……っ」
大きく侮られている。悔しいけどそれは事実。
だったらその隙を突いて少しでも回復の時間を稼ぐのが一番かな。
「“ファイアボール・連弾”!」
「そんな火力で私は止められませんよー」
目眩ましも兼ねて火球を複数個撃ち出し、その全てはドーム状の光に阻まれる。
これで十分。一定の距離を保ちながら時間を稼ぐ。実力に大差があるからこそ自分の立ち回りは大事。
私自身は弱いつもりなんかないけど、相手との実力が測れない程愚かじゃない!
「“フレイムスモーク”!」
「暖かい煙ですねぇ♪ 邪魔です」
煙幕ならぬ炎幕を張り巡らせてトゥミラの視界を狭める。けど、即座に光の衝撃波で払われちゃった。
「貴女は捕獲対象でしたね。つまらないですけど仕方無いです」
「……!」
光の縄が私の体に絡み付き、食い込むように縛り付ける。
苦しい……熱い……。胸に胴に手足に、体中にまとわりつくこの縄。トゥミラは嗤う。
「あ、けどぉ。生きてさえいれば何をしてもよろしいですかねぇ。私、なるべく殺したい派ですけど痛め付けるだけなのも嫌いじゃないんですよぉ♡ 男の子も女の子も両方イケます♪ 野太い悲鳴も孅い悲鳴もいいですもんねぇ♡ アハァ♡」
「……」
何言ってるのこの人は。なんかハァハァ興奮してる……思考が回らない……。
次第に息が続かなくなり意識が遠退く。もう……ダメ……。
「コラーッ! ヴェネレを離すのじゃあ!」
「……!」
そこへサンちゃんが姿を現し、習っている途中のほうきに乗って突撃してきた。
勢いそのままトゥミラは弾き飛ばされ、私の体を締め付けていた光が解かれる。
「魔族の姫。単なるほうきの操作でこの威力とは、驚きですねぇ~」
「ふん! 妾の友を苦しめるでない! たわけが!」
「先に攫ったのはそちらですよぉ。どういう訳か……攫われた筈の御二人がここにおりますけどねぇ」
「「…………」」
助けに来てくれたのはサンちゃんだけじゃなく、ザンちゃんにサモンちゃんの2人も。
もう存在が気付かれていたとはいえ、前線に出てくるなんて……。
「一体どういうおつもりですか? ザンさんにサモンさん。国家反逆罪に該当しますよ?」
「ナンバーで呼ばないという事は、トゥミラ殿ではなくもう一人のトゥミラか。厄介な存在を引き摺り出したものだ」
「私がヴェネレ姫を守った理由は単純。彼女が私達の面倒を見てくれたから。じゃない方のトゥミラ」
当然と言うべきか、この2人もトゥミラの人格について知ってるみたい。
けどやっぱりこの人格への評価は低いみたいだね。私もこの数分戦ってみて理解したけど、なんか噛み合わないのが分かるもん。
「一宿一飯の恩義……ではありませんね。もう既に何ヶ月かは経過しております。しかしそれだけで命を張るなど。とんだおバカさんですね御二人さん。このままでは五体満足で帰れなくなりますよ?」
「そう。別に構わない。次元魔導団にも帝王にも思い入れはないから。あの子達を実験に使ったりそもそも好いていなかったり使い捨てたり。星の国の方針と私は合わない」
「私は元より姫様に仕えていた身。お主じゃないトゥミラ殿やイアン殿。他の次元魔導団の者達とは良好だったが、星の国に帰る理由が見つからぬのだ」
「なるほど~。ちゃんと理由はあるんですねぇ。けどどうしましょう。貴女達を連れ帰るのは任務。こうなったら実力行使しかしありませんよ? 大変、貴女達が大怪我してしまいます!」
「大怪我が前提か。舐められたものだな」
わざとらしい態度のトゥミラはともかく、彼女達が“シャラン・トリュ・ウェーテ”側に立ってくれるのは以上の通り。
やっぱり星の国の人達って帝王以外は案外物分かりが良いよね。あの帝王を何とか出来たら心強い味方になってくれるかも。
「ふふ、だって貴女達、私より弱いじゃありませんかぁ♪」
「「……!」」
その前にこっちのトゥミラを何とかしなきゃね。
会話に一区切り付いたところで光を放ち、直線上に光線を放出。ザンちゃんが次元の操作で逸らして天へと逃がした。
光線はそのまま雲を貫いて消し去り、光が見えなくなる。
「すっかり夜更け。そろそろ眠らなくちゃお肌がカサついてしまいますわね。ねえ、早く捕まってくださらない? 貴女達4人が目的なのでそうしてくれると早いのですけど」
「捕まるつもりなら反撃はしていなかろう。私は暫くこの国に居る。帰る時は自分の意思で帰ってやるからお主も帰れ」
「私は“スター・セイズ・ルーン”がもう少し動物に優しくなったら帰る」
「ワガママですねぇ……」
国の方針は合わないけど、故郷なので2人も帰る気自体はある様子。だけど諸々の理由から、“今は”帰らないとの事。
トゥミラは肩を落として呆れ、痺れを切らした。
「はいもう面倒臭いでーす。ムリヤリ連行しまーす」
「「……!」」
「「……!」」
体外へ放出する全ての魔力を光へと変換させ、私達の拘束を試みる。
ザンちゃんがそれらの次元をずらして全方位を守り抜いた。
相変わらず凄い力。次元魔法。攻守に優れた力で星の国のNo.1。No.2。No.3は一人で魔法軍隊一つ分の戦力があるのを改めて実感したよ。
「色々出来るようになったのですねぇ。ザンさん。前まではバカみたいに空間を斬るしか出来ませんでしたのに~」
「バカみたいには余計だ。しかし、その斬撃だけでNo.3だった私。新たな戦いを身に付けた以上、No.2くらい容易く越えられよう……と言っても、そっちのトゥミラは強さ順に興味など微塵も無いのだろうけどな」
「そうですねぇ。知恵、財産、力、料理の上手さ。強さの定義はその時代やルールによって変わりますから、不毛でしかありませんもの。相手を殺したら勝ちの議論なれば議論する前に殺せって話ですし、私はそちら派ですよぉ~♪」
「相変わらず物騒な思考をしているな」
階級には興味が無く、ただ純粋に。本当に純粋な殺戮を楽しむトゥミラ。
なにこの人。本当に怖い。こんな人が悪い意味で世に出て来なかったのも謎だけど、トゥミラ“さん”の方が上手く抑え込んでいたのかな。
意識を奪ったのは逆効果だったのかも……。
「話も嫌いじゃありませんけど、面倒なのは変わらないので早く捕まって下さい♪」
「それは断った筈だ。押し売りは別でやれ」
両手10本の指から光の線を射出。ザンちゃんがそれを斬り伏して防ぎ、サモンちゃんが黒い魔力の鞭でトゥミラの体を拘束する。
「サモンさん。貴女はお得意の魔物操作を使えば良いじゃありませんか。魔物有り気のNo.9。今の貴女を倒してもつまらないですよ」
「そう言うのは倒してから言って」
魔力の鞭は光の刃に切り裂かれ、サモンちゃんの体が狙われる。
私も見ているだけじゃない。既に行動には移した。
「……あら?」
「……大丈夫?」
「ありがとう。助かったよ」
ほうきに乗って加速。捕らわれる直前に助け出した。
これでサモンちゃんとは貸し借りなし。後はザンちゃんだけど、私が居ない方が戦いやすいかな。
「大丈夫か? ミル……アルマぁ……」
「ええ、大丈夫。少し動けないだけ。すぐ治る」
「御迷惑をお掛けしてすまない。姫様」
一方でサンちゃんがミルちゃんとアルマさんの方も引き離した。
これで戦闘を続行しているのは星の国のNo.3であるザンちゃんとNo.2のトゥミラ。
ここでキエモンが目覚めてくれれば……ううん。それはダメ。エルミスちゃんが居ないと完治は出来ない。今度こそ無理が祟って死んじゃうかも……。半端な回復魔法が一番の問題だよ。
「何とか打開策を見つけなきゃ……!」
けどウジウジ考えている暇はない。敵は後トゥミラだけ。そろそろエスパシオさんも変異種の方を終わらせて戻ってくるかもしれない。
何より、ここは私の国。王である私がみんなを守らなきゃ……!
二重人格者、トゥミラと私達の戦闘。それはより激しさを増して続く。




