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其の佰玖拾陸 No.1とNo.2

 ──改め、星の国からの刺客。

 黒髪にややつり上がった黒目の男が難波……もといNo.1のイアン殿。

 そして新たにやって来た白混じりの金髪にやや垂れた白と黄色い目の女子おなごがNo.2。

 門へと向かったフォティア殿らは既にやられてしもうた様子。口振りからして殺めてはおらぬようだが、意識は無くなっておろう。

 然し、フム。


「不思議な目をしておる。左右で色が違うとはの。女子おなご


「オナゴとはなんですか……コホン。女子とはなんだ女子とは。それにこの目は俗に言うオッドアイ。生まれつきだ。改めて名乗っておこう。私は星の国のNo.2。元No.1。“トゥミラ”。いずれは返り咲く存在だ」


 名をトゥミラ殿。左右で色が違う目は“おっど愛”と言うのか。目と愛の関連性が分からぬな。

 その横でイアン殿がため息と共に言葉を発する。


「まだNo.1の座に拘っているよ。貰った番号は2だったというのに。TWO」

「黙れ。番号が2でも貴様が覚醒するまでは私が明確にNo.1だった。今でも実力はあまり変わらない。あの帝王に見る目が無いだけだ」

「問題は実力じゃなくて、君の中(・・・)なんだけどな」

「知るか。それも含めて私だ。そもそも私はほとんどが私だ」


 トゥミラ殿の中とな。

 彼女の体内には何かあるのか、体内とは別の何かか。何にせよ謎は深まるばかりだの。

 そんな二人の会話へエスパシオ殿が話す。


「そんな事より、変異種の方へ向かった者達はどうしたのかな。返答次第じゃ地獄を見る事になるよ」


「案ずるな。殺めてはいない。実力者は生かして此方こちらの戦力にするつもりだからな。少なくとも私はそう簡単に殺めないさ。今回の目的はまだ戦争じゃないんだ」


 不穏な言い回しではあるが、やはり生かしてあるとの事。それについては良し。然れど傷付けた事実は変わらぬ。

 立ち合いが為に傷を負ったとしても自己責任。それはそうであるが、如何どうしても拙者個人の私情は挟みたくなる所存。

 元々さらったのは此方側なので大変身勝手で自分勝手なのは理解しておるが、この胸のモヤモヤは晴れぬ。

 要するに、エルミス殿らの分は拙者が利子を付けて返して頂く。


「……」

「「……!」」


 踏み込み、加速。

 まだ半分も力は出せぬが関係無い。ただ前方のお二方を打ち仕留めるのみ。

 此方としても殺めはせぬ。きたる邪悪との戦が行われる時、この二人は戦力になろう。

 故に打刀と小太刀。その二刀流にておこなった所業は峰打ちに御座る。


「カハッ……!」

「これが……キエモン……!」


 流石の強者ツワモノ。会話途中に不意を突いて仕掛けたにも関わらず防御が間に合ったか。

 二人は掠り傷によって頭から血を流し、光と闇を展開する。……フム、光か。


「気付いたか。私が扱うは光魔法。闇の対となる力だ!」


 光球を生み出し、それを撃ち出す。

 光魔法。感覚で言えば熱と衝撃。当たれば火傷してしまうかもしれぬな。

 その光球は斬り伏せ、熱を帯びた光の爆発が巻き起こる。それによって会場は更に朽ち果て、既にエルミス殿らの作った氷の舞台も壊れてしまっておる。

 嗚呼ああ無情。戦いとは相変わらず失うものばかり多いの。だがまだ誰の命も失われておらぬ。なれば被害を抑えるが侍騎士の務め。


「………」

「さっきよりも速いな……!」

「お前が苦労したのも頷ける……!」


 更に踏み込み、少し床を砕いてしまったが修繕費は後で出す。

 二つの刀で二人を押し出し、バルコニーから外へと吹き飛ばした。


「……!」


 その後を追い、ふと下方を見ると町が荒れておる。

 それもそうか。変異種はほぼ全滅。全滅はしていないという事。見たところ人死にはまだ出ていないが、建物への被害が甚大だ。


「エスパシオ殿!」

「ああ。街は我一人で全て収める! フォティアちゃん達にも応急処置は施しておく。キエモン君とミルちゃんにアルマちゃんは2人の相手に集中していてくれ!」


 即座にほうきに乗って飛び立ち、エスパシオ殿が町の方へ向かい行く。

 彼なれば誠に一人で十分だろう。拙者の傷も相変わらず深い。早く決めねばな。


「ま、蹂躙が目的じゃないから放って置いてもいいか。ここに寄越したのは全部失敗作だ」


「そうだな。それより、今は仲間の負傷で気が立っているキエモンを何とかしなくては」


 成る程の。減ってもいいモノを送りに出していたか。実に合理的な判断よ。

 然し変異種である以上、数多の生き物の犠牲の上に生まれた存在。それを使い捨てるなど怒りにも近き感情が沸き上がってくる。

 この件についてはイアン殿とトゥミラ殿も同罪ではあるが、根源は大戦を引き起こそうとしている帝王。やはり彼奴あやつだけは生かして置けぬだろうか。なるべく人を殺めたくは御座らんが、それによってヴェネレ殿らが危害を受けるなら放ってはおけぬ。


「………」

「話す余裕はほんの数十秒か。second」

「死にかけている状態でこれとは。本当に人間か?」


 二刀流をもちいて斬り付け、二人は光と闇にて拙者を挟み込む。

 不思議な二つの力。当たれば一堪りも無いが、当たる前に防げば良い。戦闘の基本よ。

 光と闇は裂いて暴発。魔力が霧散し、二人は建物の屋根へと着地した。


「やる前に破壊されたか。break」

「重傷なのに……! いや、重傷だと言うのにこれとはな……!」


「…………」


 拙者の動きに気を取られているが、戦う相手は拙者だけでない。

 ミル殿とアルマ殿が魔力の槍を降下し、闇と光によって防がれた。


「油断も隙も無い」

「一旦距離を置くか」


 トゥミラ殿が光魔法を破裂させ、夜の町に目映い光を与える。

 それが夜目になりつつある拙者らの目眩ましとなり、皆が思わず目を閉じた。

 だが気配はしかと掴んである。乾(※北西)の方へ移動したか。逃がさぬ。


「……っと、視界を奪っても構わず来るか……!」

「まあ、それくらいはするだろうね」


 回り込み、今一度峰にて打ち飛ばす。

 建物の方へと叩き付けたがその衝撃で石煉瓦(レンガ)が落ちてしもうたの。

 やはり町中で戦うのも厄介。建物の修繕費も馬鹿にならぬ。エスパシオ殿の空間にでも移動出来れば広く戦えたのだが。


「“突上闇雨”」

「“シャイニースフィア”!」


「……!」


 その様な事を考えていると下方から突き上げる闇が伸び、複数の光球が迫った。

 相手もただやられるだけでは済まぬか。

 拙者はそれらを斬り伏し、改めて目を開き既に捉えてある二人の姿を収める。


「…………」

「ここじゃ埒が明かないな……!」

「私達が二人居てこの様か……!」


 互いに闇と光の穴を造り、そこへ入り込んで別の場所へと移動した。


「“高速戦槍”!」

「捕まえるわ」


「見られていたか……! LOOK」

「本当に厄介だな……!」


 移動先は、予想通り見えている範囲。故に遠方から見ていたアルマ殿とミル殿がそれぞれ槍と細い魔力でけしかけた。

 闇も光も間に合わないにも関わらず辛うじて避けられたが、掠り傷を与えた。

 イアン殿とトゥミラ殿はほうきではなく闇と光に乗り、飛び立って空中で構える。ミル殿とアルマ殿も魔力に乗り、空中戦に移行した。

 こうなっては拙者が戦えぬの。飛べぬのは難儀だ。


「始めからこうすれば良かったんだ。これならキエモンの手が届かない」

「キエモンから逃げているようで納得いかないな。No.1とNo.2が情けない」

「そう言うなよ。あの二人は君が倒した人よりは弱いだろうし」

「それはそうだが、それが納得いかないんだ」


 何やら言い合っておるの。空中なので拙者には聞こえぬが。

 加え、エルミス殿らは大丈夫に御座ろうか。命までは奪われておらずとも変異種が蔓延はびこる町中。危険が多いのは確か。

 拙者には何も出来ぬ。エスパシオ殿に町の方は委ねたのだ。彼を信じる他あるまい。


「やはりキエモンが居なくなっただけで随分とやり易くなった」

「つまらんな。あの水魔法使いが居ればもう少し楽しめたのだが」


「くっ……!」

「魔族である私が高々人間に押されるとは……!」


 その様な思考の最中、ミル殿とアルマ殿は分が悪く、イアン殿とトゥミラ殿に押されてしまっていた。

 元より負傷した拙者とエスパシオ殿。その二人でも一人を仕留め切れなかった。こうなるのも必然か。


「“暗黒衝波”」

「“シャイニングショック”!」


「「……っ!」」


 闇と光の衝撃波が放たれ、ミル殿とアルマ殿が吹き飛ばされてしまった。

 このままでは撃墜されてしまう。だが拙者の視界も悪くなる。何やらもやが掛かったかのような状態。瞬きの時間が長くなっておる。

 拙者の肉体もそろそろ限界のようだの。


「キエモン!」

「……!」


 そこへ、ヴェネレ殿が箒に乗ってやって来た。

 主君がみずから出てくるとは。危険が多かろうに。


「ヴェネレ殿。戦場へ出てくるでない。狙いは主なのだぞ。何を考えておる」

「今のキエモンに言われても説得力無いよ! キエモンが狙いでもあるんだし、そもそもこんな傷で……!」

「むう……」


 ぐうの音も出ぬな。相手の狙いは拙者でもあるのはそう。

 だが見過ごせる訳も無かろう。拙者はこの国を護る騎士であり、ヴェネレ殿の家臣なのだから。


「ああ……!」

「くぅ……!」


「「……!」」


 会話の横で、ミル殿とアルマ殿が吹き飛ばされ、墜落して屋根を転がる。

 向こうも決着が付いてしまいそうだ。その後に狙われるとなれば拙者ら。何とかせねば……然し、如何すれば。

 そこでふとヴェネレ殿のほうきが目に入る。


「……ヴェネレ殿。頼みがある」

「キエモン……」


 一か八か。やるしかなかろう。そうせねばエルミス殿らに続き、ミル殿にアルマ殿もやられてしまう。

 命を奪われずともこれが誠の戦であった場合、見殺しにしたも同然。仲間を失うというのは形容出来ぬ辛さがある。

 なれば此処は、負傷してしまった情けなき拙者が終わらせる他あるまい。


「君達も頑張ったよ。俺達を相手にたった2人でな。かなり上澄みの強さだ」

「そうだな。だが、やはり現時点での実力差はある。完全に相手をメタれる光魔法と闇魔法を前によくやった」


「「……っ」」


 杖を向け、魔力を込める。

 勝負は一瞬。完全なる死角から。今出せる最高速にて一気に仕留め行く。


「──火の精霊よ。その力をほうきへ付与し、高速で突き抜けん。加速、上昇、躍進。全てを超えてその向こうへ。──“炎の超加速フレイムジェットアクセル”!」


 炎魔法の全てを箒に宿し、ヴェネレ殿と拙者は一気に飛び行く。

 空気圧が凄まじく、本来なら息も出来ぬ速度。ヴェネレ殿の手がほうきから離れ兼ねんが、拙者が後ろにて彼女を支える。

 数秒も経たず二人の前へ躍り出て拙者は二刀流からなる峰を構えた。


「「……!」」


 ミル殿とアルマ殿に気を取られていたのもあり、拙者とヴェネレ殿には気付かぬ。

 拙者が幾度となる戦にて知ったのは、トドメを刺す瞬間が隙になるという事。故に杖から魔力が放たれる直前。あらかじめ山を張っていなければ反応出来ぬこの手法。

 明確な隙を、確実な一撃にて打ち仕留める。


「「……カハッ……!」」


 高速の峰が二人の頭を打ち、吹き飛ぶように倒れる。屋根から屋根へと飛び行き、一つの建物を倒壊させた。

 彼処あそこは空き家。まだ被害は少ないの。

 本来なれば死していたやもしれぬ速度と威力だが、イアン殿とトゥミラ殿は問題無かろう。

 この世界の住民は常に魔力が体を巡っているが為、拙者の世界の人々よりも頑丈に御座る。


「間に合ったの。ヴェネレ殿。ミル殿。アルマ殿」

「もう~本っ当にドキドキしたんだからね!?」

「……はあ、ようやく理解が追い付いた……私達助かったんだ」

「まさか人間に助けられるとはな……」


 空中にて停止し、ミル殿とアルマ殿の近くに寄って無事を確認。

 若干の汚れや傷は目立つが、命に別状は無かろう。命に関わる傷を負っているのは現状拙者だけに御座る。


「さて、まだ終わっておらぬの。変異種もおり、エルミス殿らの救援も必……要……」


「「キエモン!?」」

「この傷だ。当たり前だろう」


 急に力が抜け、フラついて倒れる。

 マズイの。募った負傷が畳み掛けて来たか。まだ気配も残っていると言うに。

 ヴェネレ殿とミル殿は慌てて回復術を使い、拙者へ処置を施す。その瞬間、吹き飛ばした方向から光が発せられた。


「──あらあら~。トゥミラちゃん。やられてしまいましたかぁ。やっと私の出番ですねぇ」


「「「…………!」」」


 お三方が反応を示す。現れるは姿形はあまり変わらず、髪が伸びて白の割合が多くなった一人の女性。

 ニコやかに笑っておるが、そのオッドアイも同じ。


「━━待て……私はまだ……──ダメですよぉ。貴女が意識を失ったら出てこれるって制約なのですから♪ ━━まだ意識を保っているだろう……出てくるな……──じゃあ、長い眠りに付いていて下さい♪ ━━……っ……ムリヤリは……規約違反……──どの道、時間の問題でしたよねぇ?」


 一人で二人が話す。言葉の綾に非ず、今見える現状がその事態。

 何があるのか、遠退く意識では完全に把握出来ぬ。

 然し分かる事が一つだけ。この立ち合い、まだ終わっておらぬな。

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