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其の佰伍拾捌 違う次元

「“次元天昇斬”!」

「地から天へと舞い昇る斬撃か」


 鋭利な魔力が突き上げられ、さながら刃の檻となる。

 拙者なれば容易に抜け出せるが、本来は触れるだけで四肢が持っていかれる魔法。今だからこそ使っておるな。これを使えば拙者が来るよりも前にヴェネレ殿らがやられていた筈よ。

 任務には真面目に取り組むが、無闇に他者を傷付けぬ。優しき女子おなごだの。


「“連旋斬”」

「……」


 刃の檻が旋回し、縦に横にと斬撃が飛び来る。

 逃げ場は塞いだと言った面持ち。読んで字の如く切り抜け、ザン殿との距離を詰めた。


「………」

「刀でなく鞘……主も加減はしてくれているようだな」


 振るうは鞘。もしくは峰。刃では殺めてしまうかもしれぬからな。

 お互いに殺めるつもりは御座らん、傍から見たら滑稽とも取れる立ち合い。れど威力はお墨付き。どちらが倒れるかが決め所よ。


「はっ!」

「………」


 飛び退き、そのまま周囲から斬撃を放出。

 打刀にてそれらをいなし、刹那に鞘で追撃。鞘が弾かれ、次元の狭間に消え去っては死角から更なる斬撃が打ち込まれる。

 単調なやり方だが効果的。勝つ方法に文句は言えまい。然し拙者には通じぬが、


「……何か狙いがありそうよの。先程までの打ち倒す気概に溢れた攻撃ともまた違う」


「鋭いな。主の動きから弾き返すパターンを想定してな。防ぐのはあくまで自分に降り掛かるモノだけと判断したのだ」


「……。それによって何が起こる?」


 拙者の質問に対する返答としては回りくどい。次の言葉に続きそうな言い回し。

 ザン殿は小さく笑った。


「主を私の世界へと招待しようと思ってな」

「フム、そうか」


 その刹那、拙者の体が何かに吸い込まれた。

 周りを見れば囲うように魔力の柱が連なっておる。

 此れ即ち、まんまと誘われたという事かの。

 拙者とザン殿は世界から消え去り、次に視界へ映ったのは真っ白な何もない空間であった。


「──ようこそ。私の世界へ。主を歓迎しよう。此処では私と主の二人きりだ」


「その様だの。他に人の気配が御座らん。この場に居るのは本当に拙者とザン殿のみか」


「ああ。嘘なんぞ吐かぬさ」


 他の存在が無い別空間。これまたエスパシオ殿の魔法を彷彿とさせるが、此方には色すら御座らん。

 強いて言えば白なのか、寂しい空間よ。


「此処でなら何をしても外に気付かれる事はない。音も光もこの次元でなら漏れる事は無し。此処で心行くまで楽しむとしよう。久しく見ない強者よ」


「まるで選定されているようだの。先のやり取りにて主からの品定めも終わったと思うていたが」


「ああ。だからこそこの空間へと招待したのだ。私が認めた男よ」


「成る程の。ちと手荒なやり方だったが、拙者は主に歓迎されていたのか」


「そう思ってくれて構わぬ」


 拙者を認めたからこそこの空間へと呼び込んだ。

 便利と言えばそうだの。此処でなら被害を抑えて戦う事が出来る。逃亡の為の立ち合いとは言え、他国を壊すのも悪いからの。


「主になら改めて私の魔法について話そう。正々堂々と立ち合いたい」

「フム、何を話すつもりなのかは存ぜぬが、そうしたいならすれば良い。今回は命のやり取りでもない。情報を得られるのも今後を思えば有意義だ」

「ふふ。ご静聴、感謝する」


 小さく笑い、頭を下げる。わざとらしく咳き込みをした後、幾つかの斬撃を生み出し彼女は言葉を綴った。


「私の魔法は次元魔法。その次元と言うものは初めから存在するモノで、一次元、二次元、三次元と連なり、私達が居る世界は三次元となっている」


「フム」


「そしてこの魔法だが、率直に言えば私は全ての次元へ干渉する事が可能だ。一次元から二次元。私達の三次元に高次元足る四次元、五次元、六次元……その他諸々、更に先。ありとあらゆる次元にな」


「空間を操っているように思えたのはその次元とやらを操っておったのか。難しい魔法を扱うの」


 次元には様々な種類があり、拙者らは三次元とやらに居るらしい。

 その様な事は知らなかったの。まだ幼さが残る中、物知りに御座る。


「本来なら此方側の次元から別次元を観測する事など出来ないが、私にはそれが可能。と言っても私はあまり教養が無い。物心付いた時から戦闘に明け暮れていたからな。本来なら次元を干渉し、操る事で全能にも等しき事が可能となるかもしれないが、そこまで知恵は回らぬ。だからこそ単純かつ確実な方法を思い付いたんだ」


「それが今のやり方に御座るか」


「ああ。別次元から私達の次元へと干渉し、不可視の攻撃をして自分は安全圏から眺める。それが一番手っ取り早いのだが……」


 そこで一度言葉を止め、拙者の刀を見て続けるように話す。


「普通は干渉出来ない別次元へ主の刀は届く……それどころか斬ってしまう。私の空間が魔力で作り出されたモノならまだしも、完全なる次元を断つ刃とは。本当に凄まじいものだ。……とそう思った」


「お褒めに預り光栄だ。一先ず、此れにて主の魔法についての説明は終わったかの」


「そうだな。私自身もよく分かっていないこの魔法。まだまだやれる事が見つけられるかもしれないが、今知っている事柄とおこなっている方法はこれくらいだ」


 彼女自身と同じく成長途中の魔法。今の在り方は斬撃と空間転移等々。

 それだけでも十分脅威的に御座るが、今後もやれる事は増える。いやはや、全く以て末恐ろしい女子おなごよ。


「だからこそ今やれる範囲で戦い、主との勝敗次第で鍛え直すとする」

「そうか。努力は惜しむでない。ザン殿。主にも未来がある」


 斬撃が迫り、刀にて弾く。

 既に此処から脱し、また別空間から死角に回り込んで四方八方から繰り出した。

 その全てにも対処する。遠距離攻撃が無駄と判断し、ザン殿は両手に魔力を込めて迫った。


「近接戦。私に教えてくれ」

「良かろう。得意分野だ」


 基本的に魔力による遠距離から中距離の攻撃が主だったザン殿。

 拙者のような者が今後も現れるかも知れぬと懸念し、教えを乞う。

 弟子でも取った気分だの。当たらずも遠からずか。現世では子供達に色々と教えた事もあった。苦では御座らん。


「まずは狙いだ。無闇矢鱈、闇雲ではならぬ。それについては理解しておろう」


「そうだな……いや、そうですね。とは言え、並大抵の兵士が相手では狙いを定める必要も無く終わるのだが」


「それも主の才よ。拙者や我が国におられる騎士団長並みの者で無ければ成す術無くやられよう。大半はの」


「大半……貴方の、ヴェネレ王の国には私の斬撃を捌ける者がキエモン殿や騎士団長以外にも居ると」


「ウム。まだ階級が隊長である拙者が言うのもあれだが、中々に粒揃い。ヴェネレ殿も含め、単調なやり方なれば避けられよう」


「確かにそうだな。あの方達にも何度か避けられた。だからこそ現状と言うもの」


 ザン殿は強敵。もしかすれば騎士団長も何人かは敗れるやも知れぬ。

 だが、帝王の申した見立て。次元魔導団は騎士団長よりも強いという事柄。それについては物申したい。

 次元魔導団の全員が相手であったとしても、ファベル殿、フォティア殿。リュゼ殿にエスパシオ殿なれば痛み分けに持ち込む事も可能に御座ろう。

 さて、仲間自慢はこれまで。拙者は助言を続ける。


「次いで──」

「………」


 剣を扱う者としての振る舞い、在り方。理由。単なる技術だけではなく、志を彼女へと教える。

 信念も信条も何もない殺生では単なる人斬り。思えば、現世で感情を表に出さず敵を斬っていた拙者はそれだったかもしれぬ。

 無論の事無益な殺生を行ったつもりは御座らんが、鬼神を謳われるようになったのも頷ける在り方であろう。

 故に、まだ若く成長の余地があるザン殿にはそうなって欲しくない。その為の垂教すいきょう

 伝え終え、ザン殿は杖を構えた。


「感じ取った。主の在り方、強さ。諸々を。身も心も未熟な私はより高みへ行ける事も理解した。それ故、次の一刀を以てして私の今の立ち位置を改めて確認したい。アマガミ=キエモン殿」


「良かろう。受けて立つ。既に口上は述べた。これ以上の言葉は必要あるまい」


「うむ」


 打刀を鞘に納め、居合いの体勢となる。向こうも魔力を込め、魔法使いなりの居合いの面持ち。

 彼女に成長の余地在り。然れど拙者も上へ昇れよう。鬼神となりて得た力はまだ半年程度のものだからの。


「…………」

「…………」


 互いに制止し、一回、二回とゆっくりと呼吸をする。


「………」

「………」


 今回の立ち合いにて得られるモノは何か。それを今見定めるやり方。


「……」

「……」


 と言うても拙者らの目的は逃走。だからこそ試合という形で腕を試せるというもの。


「…」

「…」


 呼吸も静まり、汗一つ流さぬ。極限の集中力を以てして今──


「「──」」


 二つの斬撃が、事を成した。


「──打ち当て」

「お見事です……」

「御免」

「……キエモン……殿……」


 居合いからなる峰打ち。ザン殿の斬撃は拙者の肩を掠り、出血させた。

 見事な太刀筋。あくまで負傷だけが目的の彼女。殺めるつもりだったのであれば拙者は更なる傷を負っていたかもしれぬ。

 将来が楽しみな女子おなごだ。


「では、此方の空間を抜けるとしよう」


 ザン殿を抱え、鬼神を込めた刀を振り下ろして空間を斬り裂く。

 真っ白な空間は割れるように開き、拙者は外? へと出た。


「──……さて、これはどういう状況に御座ろうか。ヴェネレ殿。一番の問題点は貴女様の負傷だが」

「アハハ……傷は大体反動的なあれだけど……状況は流れでこうなったかな……」


 ザン殿を抱えて拙者の前に現れた光景は、また何百人か増えた場。

 あれ程の騒ぎ。不思議では御座らんが、気が滅入るのは理解した。


「No.3がやられたの。思ったよりも手強そうね」

「お姫様一人にNo.6も重傷。“シャラン・トリュ・ウェーテ”。その戦力は思った以上みたいだ」

「なぜ捕まったのか理解し兼ねるわ。いえ、わざとと考えるのが妥当かしら」

「そうだね。資料室で倒れている兵が居た。つまりそう言うことだ」

「つまりそう言うことね。大変」


 態度と気配からしてこの二人が主力。周りを囲う兵達は有象無象と見て良さそうだ。

 拙者とザン殿の戦闘は終わった。然し逃亡劇はまだ終わりそうに御座らんな。

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