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其の佰肆拾参 任務完了・星の国へ

「はあ……はあ……何とかキノコ人間になるより前に取れた……」

「ペトラ殿。早く服を着た方が良い。この洞窟は毒性生物が多いからの。何処の壁に毒があるかも分からぬ」

「うーん、実に合理的な考えだなー。キエモンさん。一応年頃の女が裸になってるのに意に介してないのかー。なんか少しショック」


 色々あって息を切らし、拙者の指摘へペトラ殿が返す。

 そう言う訳でもないが、その様な事より彼女の命の方が大事だからの。衣服を着て欲しいのはその方が安全だからとも言える。


「意に介してない訳では御座らんが、主の命が大事だ。此処が危険地帯なのは見ての通りだからの」


「ちょ、そう率直に言われると少し照れるな。私の心配してくれてありがとな。キエモンさん」


 少し顔を赤くし、衣服を着る。

 然し、久々よの。拙者は女子おなごの裸体に何かと縁がある。最近は落ち着いていたが、この様な形でまた現れるとはの。仮に神仏が居るとしたら拙者へ何を望んでいるのか。


「さて、キノコ地帯も何とか抜けたの。皆は胞子を吸っておらぬか?」

「大丈夫です。結果的にペトラさんの犠牲で私達は警戒出来ましたから」

「オイオーイ。ヒドイなー。確かに先人の失敗から学ぶのは良いけど、犠牲って程じゃ無くないかー?」


 エルミス殿らはキノコを踏むよりも前に逃れる事が出来、ペトラ殿も軽口を叩けるくらいには回復した様子。

 色々と危険な洞窟よの。また気を付けつつ先を行く。


『『『…………!』』』

「いやー! 今度は“ポイズンセンチピード”ですー!」

「またぽいずんか。せんちなんたら……どう見ても百足ムカデだが、毒百足と言う事かの」

「はい! 合ってます!」


 高速の百足が迫り来る。

 一応益虫ではある百足だが、女子おなご達からの評判は悪いの。

 拙者としても無数の百足が向かってくる様は畏怖にも近しい感情を覚える。

 取り敢えず薙ぎ払い申した。


「次は“ポイズンスコーピオン”!」

サソリか。どれだけ毒性の生き物が多いのだ。この洞窟は」


 ハサミと尾を携えた毒蠍。

 この毒持ちの多さ。此処はそう言った洞窟なので御座ろう。

 それらをいなし、鉱石のある奥へと向かい行く。


『……』

「“ポイズンスネーク”……!」

「蛇か」


 今度は一匹の大蛇。

 蛇は神の使いとも魔の使いとも謳われ、拙者の国でも評価は両極端。

 然し白蛇ではなく禍々しい色合い。確実に魔の方だろうの。


『『『ヂュウ!』』』

「“ポイズンラット”!」

「鼠か」


 蛇も突破し、現れるは毒鼠。

 通常の鼠ですら病気を撒き散らしたり米を盗み食ったり家屋を壊したりとで迷惑なのだが、更に毒まで付与されたか。

 正直に述べるのなら、鼠に慈悲は与えん。所詮は拙者も欲にまみれた人の子よの。達観したつもりになっているが、鼠の存在は枯渇問題だ。


「して、次はぽいずん何が出てくるのかの」

「アハハ……ポイズンは確定ですか……」


 鼠を斬り伏せてペトラ殿が毒を散らさぬよう土で埋めた後、更に更に奥へと歩み行く。

 誠に危険な洞窟。侵入者は拙者らの方だが、早いところ目当ての物を掘り出して帰りたいの。


「……! 前方に複数の気配を感じるぞ。用心せよ、皆の者」


「……!」


 複数の生き物の気配を確認。種族で言えば全てが同種に御座ろうか。

 各々(おのおの)は警戒を高め、拙者も刀を手に取る。


「来ます……!」


 足音が徐々に近付き、次第に大きくなる。

 カサカサカサカサと関節同士が擦り合うような音。蟲の類いに御座ろうか。大きさは随分と小さいの。

 洞窟内に届く微かな光に反射し、黒いそれは姿を現した。


「あ、あれって……」

「ポイズン……コックローチ……」

「つ、つまりですわよ……」


 こっくろぉちとな。果たして何の蟲か。

 いや、次第に鮮明になったの。そう、あれはゴキ──


「「「いやぁああああああ!!!?」」」

「……!?」

「全滅させてやろう……! 黒き悪魔よ……!」

「アルマ……?」


 それを見、拙者とサン殿以外の皆が最大級の魔力を込めて構える。

 一体何が彼女らをそうさせるのか。特にエルミス殿の殺意など今まで見た事もない。一先ず拙者は念の為にサン殿の側へ寄り、四人はその力を解放した。


「──水の精霊よ。大海を生み、害虫を洗い流せ! “アクアマリン”!」

「──あらゆる精霊さん。その力をお貸しし、敵を滅ぼしなさい! “エレメンタリーブレス”!」

「──土の精霊よ。大地を敷き詰め、相手を貫け! “土流尖天昇”!」

「──“無限槍術・滅”!」


 宝石のような大水と魔力の塊。地面から針が生え、正面を無数の槍が貫く。

 蟲の群れは瞬く間に消滅し、洞窟が崩落するかと思う程の勢いで衝撃波が伝わった。

 これでは本当に崩れ落ちてしまうの。拙者は打ち直したばかりの刀を構え、其の衝撃波を切り裂いた。


「フム、使いやすくなっておる。腕の立つ鍛冶職人だの」


 無論、洞窟に影響は与えておらぬ。崩落の恐れがある衝撃のみを斬り伏せ申した。

 まさか打刀の刃の初陣が味方の魔法を相殺する事になるとは思いもせなんだ。

 あの蟲は既に全滅しておる。何がそこまでの嫌悪感と憎悪に繋がるのかは存ぜぬが、頼もしい限りよ。

 道が拓け、最奥へと到達した。


「此処までの道中、長かったが何とか到達したの。さて、目的の鉱石を探すか」


「はい。えーと、“変化石”ですね。形と特徴は……」

「確かに独特な物ですわね。しかし変幻自在とは一体……その名の通り他の鉱石に紛れているという事でしょうか」

「なんにせよ採掘なら私に任せろ!」


 最奥は出口などが無い行き止まりだが、見える範囲だけでも様々な鉱石がある。

 目的の“変化石”とやらは当然の如く稀少だが、人が入った痕跡もない此処は確実にあるであろうとそう思える説得力を感じられた。

 拙者らは念の為に警戒しつつ、採掘作業へと取り掛かる。


「──これくらいかの。確かに擬態していて探しにくかったが、それなりに集まった」

「私の方も上々ですよ! キエモンさん!」

「私もですわ!」

「順調順調♪ 良い感じだ!」

「こう言った肉体労働も悪くないな」

「うへぇ……わらわ疲れた……」


 各々(おのおの)の成果はあった様子。

 それらを一纏めにし、拙者らは洞窟を抜ける。

 お疲れの様子のサン殿はアルマ殿が背負い、後は来た道を帰るだけ。

 行きはよいよい帰りは怖いという文言もあるが、今回の場合は行きに毒性生物が多く、帰り道は殆ど倒した後なので帰りの方が楽かもしれぬな。道も分かる為、行きより素早く進める。

 その後拙者らは何事も無く“シャラン・トリュ・ウェーテ”へと辿り着き、ギルドへ報告。金銭などの報酬を得た後に解散とした。


「おー! これが妾が自分で稼いだ金か!」

「サン様。もう少し品のある言い方をしてください」

「むぅ、仕方無いの。これが妾の手にしたお金かー!」

「ギリギリ及第点ですね」


 両親はおらぬが、不自由は無い暮らしをしていたサン殿。

 故に己で稼ぐという行為自体が初めてなのだろう。彼女の資産よりかは圧倒的に少ないが、目を輝かせて喜んでいた。


「ふふ、良かったですね。サンちゃん」

「うむ、エルミス! 今日は妾が何か買ってやるぞ!」

「え……いや、そのお金はサンちゃんが使うべきですよ。せっかく自分で手に入れたのですから」

「そうか? わらわ、自分が欲しい物は買えるからの……せっかくと言うのなら主らに使いたいんだが。ブランカとペトラは帰ってしまったし……」

「アハハ……一度は言ってみたいよそのセリフ。……ブランカちゃん達はお城じゃないですからね。とにかく、自分で使ってみて。元々あるお金を使うのとは感覚が違いますから!」

「うーむ、そうか。よし、では妾は自分で使う機会を探してみるぞ!」


 エルミス殿の説得を受け、考えを改める。

 これもまたある種の成長よ。サン殿の成長は著しい。


「……さて、明日は今日と比較にならぬ程の危険な任務。今日はゆっくりと休むべきよの」


「そうだ。明日は妾も星の国とやらに向かうのだったな。どんな国なんじゃろうか。楽しみじゃのー!」


「サン様。明日は私が付いて行けないのですから。その様に気を抜いてはいけませんよ。キエモンが居てくれるとは言え、私は不安です」


「案ずるでない。アルマ。妾のスゴい力が振る舞われるのだからの!」


 胸を張り、アルマ殿へと返す。

 確かにサン殿の力を存分に振るえれば頼もしいが、まだ上手く扱えてはいない。この二週間である程度は鍛えられたとは言え、実践には不向きだろう。

 ……ウム、この様な事をウダウダと考えるのはよろしくないの。いずれにせよ拙者が皆を護れば良いだけだ。

 既に日も落ちた。城へと戻った拙者らは明日へ備えて心身ともに休めるので御座った。



*****



 ──“翌日”。


「では、行って参る」

「行ってくるよー!」

「行ってきます……」

「行ってくるのじゃ!」


 次の日、拙者とヴェネレ殿。セレーネ殿にサン殿は城門前で集まっていた。

 捕まるのはこの四人。既に下準備も終え、星の国からの使役人達も万端。一応国民達には内密であり、見送りは昨日集まった者達のみ。加え、その中から更に減らしておる。


「気を付けてね。ヴェネレ。お姫様なんだからあまり危険な真似はしないように」

「分かってるよ。ミルちゃん! キエモンが居るから大丈夫!」


「気を付けてくださいね。キエモンさん。セレーネちゃん、サンちゃん」

「うむ。案ずるでない。エルミス殿」

「大丈夫……ケースバイケースで対応するから……」

「妾に任せておけば大丈夫だ! 何をするかは分からぬがな!」


 事情が事情なので見送りは少ないが、心の底から心配している様子。それも有り難い事よの。別に今生の別れという訳でもないが、危険度を惟ればその気持ちも分かる。

 一方でブランカ殿とペトラ殿は別の事を話していた。


「けど、なぜキエモンさん達が目的なんでしょう」

「確かになー。全員不思議な雰囲気は出ているけど、私らには分からないや」

「拙者としても思い当たる節は少ないの。その幾つかすら確定では御座らん」

「ですわよね……」

「謎だなー」


 拙者らが狙いの理由。

 昨日尋問した者達は階級で言えば下の方。故に多くの情報を持っているという訳でも御座らん。

 結局の所拙者らが狙いの理由は憶測でしか語れぬな。


「さて、そろそろ良いか。君達は上層部の指示通りキエモン君。及びヴェネレ様方を捕らえた。その報告に帰るんだ」

「「「…………」」」


 何をされたのか、意識が覚束無い昨日の者達が縄を引いて歩み出す。

 作戦の概要は知っているが、このようなやり方。これまた上々よ。

 拙者とヴェネレ殿、セレーネ殿にサン殿。この四人と連行役のこの者達五人。全員揃って星の国へと向かうのだった。


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