表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

132/280

其の佰参拾壱 魔流地帯

 ──“半壊した王室”。


 その後の行動は迅速であり、町に残っていた全魔族が此処に集った。

 事情は既に説明した。姫君がさらわれたとあっては一大事。集合も早い。


「そんな奴があの中に封じられていたとはな。戦力になりそうなキエモンが小せェままなんは厄介だな」


「それを言うのならバスマ殿やアルマ殿もそうであろう。体は小さきままよ」


「ああ。いや、私達はあくまで演出。時間制限付きの縮小化だったんだ。戻れないのは現状キエモンだけという事になる」


「そうか。然し、拙者以外の戦力が戻れるのならばそれで良し。この体でも戦えよう」


 曰く、彼女らはあくまで姫君の手伝いだったが為に戻れるとの事。必死だったサン殿だが、あの状況で口裏を合わせていたのであろうか。

 アルマ殿は不安そうに話す。


「この体でも……って、本当に戦えるのか? その……姫様の兵士も破壊出来ないくらいに力が落ちていただろう」


「案ずるでない。拙者、まだまだ本気を出していないだけよ。今から頑張る」


「……。その台詞はなんか逆に失敗しそうな雰囲気が出ているが……その真っ直ぐな瞳に免じて参加を許可しよう」


「有り難い。目の前で攫われた手前、力をお貸ししたくある所存」


 アルマ殿から許可は降りた。これで参加する事も叶おう。

 小さき体であってもやれる事はある。行かねば事も始まらぬからの。


「それで、その変な奴はどこへ?」


「この部屋を破壊して外へ。目的地は言っておらんな。然し魔族を支配すると言っていた。つまりあまり遠くには行ってなかろう」


「そうか。では私達で手分けして探そう。単独行動は避け、先ずは何より姫様の身を護る事が第一だ」


 魔族の数は少ないが、百人近くは居る。この町も広いは広いがこの人数で探せば見つかる事に御座ろう。

 然し、小さくなってしまったが為に気配の探れる範囲が狭まるのが気掛かりよの。


「では、キエモンは私と。他の者達も各々(おのおの)で行動を開始してくれ」


「分かった」


 面々が王室から立ち去る。

 共に行くのはアルマ殿だけか。小さくなった拙者で彼女を護り切れるかどうか。


「キエモン。今の君の足では先を進むのも大変だろう。私の体に掴まれ」


「体が戻ったか。女子おなごに世話になるのは恥ずべき事だが、致し方無し」


「ああ。と言うか、別に恥じる事も無いだろうに。そうだな……胸にでも入ってくれ」


 そう言い、アルマ殿は己の胸元を開いて前のめりとなった。

 体躯が先に戻った彼女が運ぶのは分かるが、胸元か。


「主、女子おなごがそう胸元を見せるでない。もっと場所があるだろうに」


「そうか? しかし、私の服で他に入れる所など無いぞ。スカートにポケットは無いし、上半身は見ての通りだ」


 そう言い、入る場所が無いのを見せつける。

 思えば胸元を大きくはだけさせた衣服に袴とも違く、下着を覆っただけの布。小さくなった拙者が入る余地は御座らんの。


「ううむ、何故その様に大きく肌を露出する薄着なのだ。季節で言えばもう寒くなる頃合いだろうて」

「仕方無いだろう。この方が動きやすいのだからな。……そうだ、ではパンツの中はどうだ?」

「ぱんつ? 確か下着の意だったの。それは汚かろう。お互いにとって。構わぬ。拙者は髪にでも掴まる」

「ぇ……か、髪か? 私の!? その……髪は大事でな……種族は違えど異性に触れられるのは恥ずかしい……」

「何故下着や胸よりも髪の方が恥ずかしいのだ……分からぬ。魔族という種族が……」


 これは拙者がおかしいのだろうか。郷に入っては郷に従えとも申す。

 さすれば肩辺りが良さそうかの。拙者が柔軟に対応せねば。


「なれば……」

「し、仕方無い……私も覚悟を決めた。姫様の一大事。人間に体を許すとしよう……!」

「いや……」

「遠慮するな……これを理由に私を嫁になどとがめつい事は言わぬ」


 申す前に何かしらの覚悟をお決めになった。

 然しこれ以上話してもお互いに疲弊するだけ。よく分からぬが、決めた覚悟を無下にするのも問題。アルマ殿の案に乗ろう。


「では、失礼。痛くは御座らんか?」

「フッ、小人となった君の腕力。引っ張られてもさして痛みはないさ」

「そうか。それは良かった」

「しかし……初めての相手が同族ではなく人間の君になるとはな……何があるか分からないものだ」

「そうだの……お言葉だが、その言い方では語弊を生まぬかの?」

「そうでもない。女の私が男に髪を触られるとはそう言う事だ。言い触らさぬから案ずるな。魔族の私が嫁に行くとなれば君も迷惑だろう」

「………」


 髪とはそこまで重要なのか。確かに良い値で売れ、忍の者は遊郭などに潜入する際に女装しやすいよう髪を伸ばすと聞くが。

 拙者ら侍も髷に魂を込めておる。魔族にとってはそれ以上の存在なのだろう。


「魔族が人間に嫁ぐのは迷惑とは思わぬが、拙者は元より誰とも婚姻を結ぶつもりも御座らんからの。拙者が居なくなった時、悲しませる者はなるべく少なくさせたいところよ」


「……そうか。君も君なりに色々と苦労があるようだ。見立てが甘かったか」


 ともあれ、肩に乗りて髪を掴む。これで飛び出す事も無かろう。

 早速気配を探り、残り香のような魔力の道筋を辿る。


「フム……気配は向こうにあるの」

「分かった。ではそちらに向かおう。“天乗槍法”」


 魔力の槍を生み出し、それを放って己も乗り、操作して拙者の示した方向へ行く。

 ほうきよりも遥かに速いの。ただの投擲ではなく、魔力による操作。魔族の魔力は高いと申されていた。それ故に成せる技と言ったところだろうか。


「しかし凄い気配の探知力だ。人間とは皆が皆、君のような力を持っているのか?」


「いや、拙者は別よ。幼き日より戦場に出ていたからの。自然と探る術を身に付けた次第」


「……幼少期からの戦場か。私達魔族からすれば魅力的だが、感覚の違う人間にとっては苦痛だろう」


「そうよの。皆までは言わぬ。戦死は名誉。美しく飾れる最期だ」


「その感覚は同じだな。死ぬのなら戦って死にたい」


 おそらくこの者達も戦場にて多くの仲間を失った事もあるだろう。だが、本人が言うように感性が違う。

 死する事が名誉であり、望むべき在り方という点は侍にも近いかもしれぬ。気が合うの。


「気配の流れはこの辺りで消えておる。魔力その物を感じる事は出来ぬからな。その辺りは主に任せる。アルマ殿」

「そうか。……フム、どうやらあの山の方に向かったようだ」

「山か。態々(わざわざ)向かったとなると、少々特別な山なので御座ろう」

「ああ。あの山は魔力が常に流れている“魔流地帯”と言ってな。封印されていた奴が向かったなら力を取り戻すのに打ってつけの場所だ」


 名を魔流地帯と言う場所。曰く魔力が常に流れ、封じられて魔力が少ないであろうあの存在にとって都合の良い所。

 アルマ殿は伝令の魔術で他の者達に伝えた。


「これで後から合流出来るだろう。私達は先に向かおう」

「そうだの」


 居場所は掴めた。他の者達が来るまで待ちたいところだが、サン殿が心配だからの。悠長に待ってなど居られまい。

 正面から攻め立てるのは愚策にも等しいが、敵が完全でない今だからこそやり易くもあろう。


「宣戦布告だ。キエモン。姫様の位置は分かるか? 魔力の流れが激しくて私からは探知出来ぬのだ」

「そうか。距離は近いが……主の精密な槍なれば射抜けよう。位置は──」

「了解した」


 片手に魔力を込め、大きな槍を形成して山へ狙いを定める。

 瞬時にそれを穿ち、空気と魔力の流れを突き抜けて敵の位置を貫いた。

 山には大きな風穴が空き、そこから粉塵のような煙が舞い上がる。その場所へ向け、拙者らは一気に入り込んだ。


『いきなりなご挨拶だな。相変わらず魔族は野蛮な種族だ。小さな人間も同行しているか』

「私達のお姫様を連れ去って魔族に喧嘩を売った貴様よりかは温厚なやり方と思うがな」

『フンッ、対して力のない魔族と小さな人間に何が出来る』

「主を討ち仕留める事くらいは出来ようぞ」

『説得力に欠ける言葉だな』


 槍は直撃であっただろうが、山が崩れた事による土汚れ以外に何も負っていない奴が話す。

 今の拙者に説得力がない。それは否定せぬ。見た目が見た目故、致し方無し。ともあれ、サン殿はまだ無事のようだ。


「さて、お姫様は返して貰うぞ。ロリコン悪魔め」

『そんな不名誉な名で呼ばないで欲しいな。ロリコンなら殺そうとすらしないだろう。余は魔族達の前で姫を惨殺し、完全敗北を叩き付けたいだけだ』

「より一層質が悪いじゃないか」


 ろりこんとな。囲炉裏の一種に御座ろうか。

 兎も角、奴がサン殿をあの場で始末しなかったのは他の者達が集まっていなかったからのようだな。大衆の面前で処刑する事で深く記憶に残す。

 拙者の故郷でも敵将の首を取った暁には晒し、見せしめに宣言するからの。大将が子供であっても……いや、幼いからこそより効果的に御座ろう。


『そんで……今現在の時点で余の相手が務まりそうな奴は魔族の女。お前だけか。軽く揉んでやろう』


「あまり舐めるなよ。魔族の中でもそれなりにやる方だと自負している」


 挑発に乗り、アルマ殿が複数本の槍を構えて向き直る。

 その間に拙者は彼女から離れ、サン殿の元へと向かう。意識は失ったまま。今の状況でなら好都合とも取れる。この様な者を見せるのは目に毒だからの。

 運び出すのも大変だが、今の拙者の腕力で何処まで動かせるか。特に拘束がされていないのは救いだ。


「“千天無槍”!」

『下らん!』


 一方でアルマ殿が槍魔術を射ち出し、敵はそれを防ぐ。

 更なる力を込め、全方位へ魔力を放出した。


『この程度か。一つ一つの威力が乏しいな』

「豪語するだけの実力はあるようだな……!」

『単なる魔力の放出だけでそこまで評価されるとはな。魔族の程度が知れる』

「口だけは達者だな。数撃防いだだけだろう。“天地無槍”!」


 上下から槍を突き出し、挟み込むように貫く。

 敵はそれを魔力の球体にて防ぎ、そこから塊を放出して撃ち抜いた。


「……。洞窟へ光が差し込むようになったな」

『そうだな。軽く放った力だけでお前以上の破壊力だ』

「フン、高々小さな攻撃で優位に立たれても困る」

『クハハ……さあ、まだだ。折角この世に舞い戻ったのだからな。余を楽しませよ!』


 仰々しく影の両手を広げ、高笑いして魔力の渦を生み出す。

 瞬刻の間で山の上部を吹き飛ばし、更なる日光が辺りへ差し込んだ。

 敵の防御力、破壊力共に高水準。封じられていただけあってかなりの実力よ。

 拙者とアルマ殿。一足先に辿り着いた拙者らは敵を討つ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ