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其の佰参拾 げえむ終了

「さあ、わらわを楽しませよ! キエモン! アルマ!」


「楽しませよと申されてもの」

「キエモン。乗ってやってくれ」

「ウム、そうだったの」


 仰々しく両手を広げ、高笑いをしながら拙者らへ話す。

 気分が高揚しているのは見て取れるが、此処は拙者も付き合わねばならぬようだな。

 では早速、


「……主は何が望みだ? 何か望みがあるのなればそれに乗ってやろうぞ!」


「そうそう、この感じ~っ! ……ふふん! 妾の望みはゲームじゃ! さあ、その力を誇示して魅せよ!」


 小槌を振るい、サン殿は玩具からなる兵隊を生み出した。

 童の発想は柔軟よの。木からなる兵士が動き、臨戦態勢に入るとは。


『『『………』』』

「撃てい!」


 木の人形が隊列を組んで火縄銃のような銃をもちいて射出する。

 然し銃弾はこの世界にて酒の蓋などに使われるコルクという物。速度も遅く、威力はない。

 だが、今の拙者らは小さき者。その程度の威力であっても質量があるのでちゃんとかわした。


「むう! 避けたな! だったら次は白兵戦じゃ!」

『『『………』』』


 シャキン! と鋭利ではない剣に見立てた得物を振り翳して迫り来る。

 然れどそれならば先の鎧の方が危険だろう。木の人形兵士は難なく打ち倒した。


「うわー! やられたのじゃ! ならば行け! 猛獣達よ!」

『『『………』』』

「……」


 次いで生み出すはまた木からなる物。

 木彫りの熊などを彷彿とさせるそれらは飛び掛かり、拙者は身を翻して避ける。

 操っているのはサン殿自身。それもあって避けやすくはあるが、幾らでも生み出せるからの。


「むはははは! 手も足も出まーい! 妾の力を思い知れー!」


『『『………』』』


 避けるだけの拙者へ愉悦に浸るよう高笑いをする。

 先程の様子を見ている故、楽しそうなのは良いのだがあまり調子に乗せて彼女へ無茶をさせるのは心配だ。

 あの小槌、様々な力を使えるようになるという事に対して偽りは無く、その気になれば取り返しの付かぬ力を生み出す可能性もある。

 以前の悪党は単純に強い動物、強い魔法を使っていたが子供の発想力から生まれる物はとてつもなかろう。

 故に、早くに終わらせねばならぬ。


『『『………!』』』

「……」


 獣共が飛び掛かり、それらを踏み越えて突破する。

 拙者の体躯が為に些か距離はあるが、即座に詰め寄れる距離なのは変わらない。


「また来た! じゃあこれ!」

『『『………』』』


 小槌を振るい、複数体の兵士を生み出す。それらを打ちのめし、サン殿へと掴まった。


「規約は拙者の力を誇示するもの。これでもまだ足りぬか? サン殿」


「うぅ、まだじゃ! まだまだ足りぬのじゃ! もっと楽しませよー!」


 駄々をね、拙者の体を振り解いて小槌が振るわれる。

 単純な大きさの問題で童に払われるとはな。我ながら情けなし。然れど気にする間もなく、サン殿が新たに生み出した者達と相対する。


『『『…………!』』』

「フム、大きな蜥蜴トカゲに龍か」


 体中を鱗に覆われた生物。

 爬虫類などの一種に御座ろうか。蛇や蜥蜴の仲間と見て良さそうだの。

 そして残るは龍。考えうる強き生物を作り出したものだ。


「これが妾の最強軍隊じゃ! やれー!」

『『『………』』』


「なんと。火吹き蜥蜴か」


 龍は兎も角とし、他の蜥蜴が火炎を放射した。

 あの様な生物がおるので御座ろうか。そして今思えばアルマ殿の姿が見えぬな。──……フム、成る程。もしやそう言う事か。


「ううむ、何と言う強敵なので御座ろうかー。これは引かねばなるまいのー」


 サン殿へ聞こえる程の独り言を告げ、一旦この部屋を出る。

 彼女は満足そうに笑っていた。


「や、やったのじゃ! キエモンに勝ったぞ! よくやったお主ら!」

『『『………♪』』』


 蜥蜴と龍はサン殿に褒められ、嬉しそうに笑う。

 声は出ぬか。あくまで玩具が動いているようなもの。生き物を生み出したのではなく彼女が遊べる動く玩具なので話したりはせぬのだろう。れど喜びの感情のようなものが窺える。

 部屋から退散した拙者はアルマ殿の気配を探り、その場所へと向かった。



*****



 ──“渡り廊下”。


「ふふ、楽しそうで何よりだ。姫様」

「……やはり主の差し金であったか。アルマ殿」

「……!」


 サン殿の方を見、微笑ましく思うアルマ殿の背後を取る。

 彼女はハッとし、拙者は壁際にて問い詰めた。


「アルマ殿。始めからサン殿を遊ばせるのが目的だったのだな。意味深な発言の数々……その全ては彼女の為に御座ったか」


「ちょ、近い……壁ドンはやめてくれ……恥ずかしい……」


「壁丼? 何を申されておるのか。取り敢えず離れるが、如何であるか?」


 腹でも空かせているのだろうか。こんな時に丼物の話をするとは。目を逸らして斜め下の方向へ俯いておる。

 何にせよあの部屋から一足先に抜け出し、此処にて様子を眺めていたのを惟れば拙者の推察は正しくあろう。

 彼女は顔を上げ、観念したように話す。


「ああ、私が街の近くで姿を現した時、その時点で君をここまで誘うのが目的だった」


「だろうの。小槌についても多様性のある言葉、“便利”とだけ告げて何に使ったのか全く話さなんだ。元よりあれを使っているのはサン殿だけ。即ち使用疑惑のある言葉は嘘だったという事だの。おそらく魔族全体がグルだったのだろう」


「ハハ、そこまでお見通しとはな。参ったよ。キエモン」


 両手を挙げ、苦笑混じりに話すアルマ殿。

 今までの回りくどいやり取り。それもこれもサン殿の為。拙者も演技は苦手だからの。もしそれを頼まれていたら襤褸ボロが出ていた事に御座ろう。

 故にこの様な形で参加する事となったのは不本意ながらサン殿にとっては楽しき事であったと。


「彼女はよわい十二、三と言っていたが、言動はそれよりも遥かに幼く思える。やはり両親の事で色々と抱えているのだろう」


「ああ、そうだ。まず前提とし、私達魔族は見た目の年齢はある程度行ったら止まるんだ。肉体的な構造や機能もな。だからこそ、自分達の寿命を悟った王と王妃が子を作り、後世に遺伝子を残した。基本的な寿命がそれなりに長い私達魔族。戦闘意欲が欲求の中でも高く、つい子孫を残すのを忘れたり怠ったりしてしまうんだ。だから数も少なく、戦死も多い。だからこそ思い出した時に血を残せるような体へと進化した」


「フム……難しいの」


 正直なところ、よくは分からぬ。

 れど適材適所。今の魔族になったのはその様な特徴からとの事。

 生き物の進化と言うものも興味深いの。


「残す側はそれで良い。後は自分の子供に任せるだけだからな。実際、仲間内での情はあるが、両親と共に過ごせた時間自体は少ないのも特徴の一つ。姫様はそれが更に短かっただけだ」


「それであの様な我が儘に育ったと。然し己の状況や在り方はしかと理解しておる。その不安を発散するかの如くあの性格になったのだろうな」


「ああ。姫様は己への不安や期待を感じ取っている。プレッシャーを与える側となってしまった以上、私達は彼女へやれる事の精一杯をするだけだ」


「成る程の」


 サン殿へ自由にさせているのは、王と言う負担を少しでも和らげる為。

 そうでなくてはいずれ爆発し、これまた取り返しの付かぬ事になりうるから。

 使用人という立場のアルマ殿や他の魔族達。元より数が少ないのもあり、それぞれ苦労しているのであろう。


「だからキエモン……ここまで付き合ってくれた君に頼みがある。姫様の負担を和らげるのに手を貸してくれないか? 改めて聞くのは自分勝手だと理解しているが、姫様を楽しませたいんだ」


「……フム、セレーネ殿の事もあって早く刀を打ち直したいが……致し方無し。話を聞いたからには協力せねばなるまい」


「ありがとう。キエモン。やはり君は好きな人間だ。私が一方的に話したというのに……」


「躓く石も縁の端くれ。この様な形であっても拙者らが出会った事には何かしらの因果があろう。なれば協力致し候」


「おお、よくは分からないが……良い言葉だな。どんなに小さな事にも因果がある……か。本当にありがとう」


「ウム。ではそろそろサン殿の所へ戻る。何にせよ話をせねばな」


 アルマ殿から離れ、玉座にてふんぞり返るサン殿の元に戻った。

 拙者が現れた途端嬉しそうに笑い、にやけ顔を何とか隠して言葉を綴る。


「よく戻ってきたな! 勇者よ! さあ、妾を更に楽しませよ!」


「勇者とな……まあいい。この流れは……こうかの。ゴホン、ああ、舞い戻って来たぞ魔王よ! 拙者が主を打ち倒し、この世に平穏をもたらさん!」


「~~っ! うんうん! そうじゃそうじゃ。これでこそじゃ! 分かっておるのぉ、キエモン!」


 心の底から嬉しそうに足をバタバタさせ、にやけが止まらぬまま先の蜥蜴と龍をけしかける。

 数頭のものらは口から火炎を吐き、部屋の中へ雨雲を作って雷を落とす。

 部屋が多少汚れるのは気にしなさそうだの。

 それらを突き抜けて越え、いつの間にか周りに置かれていた家などが破壊される。そう言う演出のつもりのようだの。

 床片や瓦礫などが飛び来るがそれは鞘にて弾き、一気にサン殿の眼前へと躍り出た。


「討ち取ったり。魔王よ!」

「くぅ~。ぐわー! やられたのじゃー! 見事じゃの、キエモン!」


 自分がやられる物語をご所望とは愉快なお人だ。

 いや、自己肯定が低く自分がやられる事で……とでも思っているのだろうか。この歳にて苦労しておる。


「さて、サン殿。これで拙者を戻してくれるか?」

「むぅ……名残惜しいが……仕方ないの。わらわは満足じゃ! ありがとう! キエモ──」


 ──その刹那、小槌から何かが現れ、彼女の意識を奪った。


「サン殿!」


『──……ハハ……クハハハハハ……ついに出られた……溜まりに溜まった甘美な魔力……! 中の余をこき使いやがって、人間と魔族風情が……!』


 生まれてこの方一度も切った事が無いのでなかろうかと思う程に鋭い爪に、鬼のような牛のようなツノ

 声は曇り掛かったようなものであり、衣服などは身に付けておらぬ影のような存在。その者は小さき拙者を見、クッと笑う。


『此処にも人間が居たか……余をこんなところに封じ込めた愚かな存在よ。消えよ!』


「……!」


 片手を振るい、周りの玩具などが吹き飛ばされる。

 サン殿の生み出した蜥蜴と龍、兵隊が動き出してその者へと掛かった。


『子供の遊びが……余に敵うと思うな間抜けがァーッ!』


『『『…………』』』


 それらも一瞬にして掻き消され、王室が滅茶苦茶になる。

 アルマ殿らも此処へと入ってきた。


「一体何の騒ぎ──……!? なんだあの禍々しい存在は……!?」


『魔族か。だがあの人間と同じく小さき無力な者……ククク、どうやら此処は魔族の集落と言った所か。面白い……先ずはこの場を支配するとしよう! 魔族の姫は預かっておく!』


「待て! 姫様を……!」

「サン殿を返せ!」


 声が届く間もなく飛び去り、王室の一角が消滅した。

 これは何が……あの気配、少し前の邪悪にも近しい物を感じた。小槌の中に封じ込められていたと言っていたな。何かが切っ掛けで外に出たと言ったところか。


「キエモン……」

「ウム、アルマ殿。すぐに他の者達を呼ばねばなるまい」

「ああ。姫様は必ず助ける……!」


 少なくとも、アレはまだ動かぬ様子。なれば此方としても時間はあるという事。

 体の大きさは些か足りぬが、山河を断てる程度の力があれば問題無かろう。この体でもやれぬ事は無い。元より山河を斬るつもりは御座らんがの。

 現れた謎の存在にサン殿が連れさらわれたが、拙者らも即座に行動を開始する。

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