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其の佰拾陸 手掛かり

「“ダークネスツリー”!」

「“聖界樹誕”!」


 黒き樹と白き樹が現れ、互いに枝がぶつかり周囲を揺らす。

 そこへヴェネレ殿もけしかける。


「──火の精霊よ。その力を我に与え、木を斬り救出する! “ヒートレーザー”!」


 細い火炎が高速で伸び、枝の一つを切断。それによって囚われのエルフが少し下がった。

 フム、一先ずは救出優先。フロル殿がダークエルフの相手をしておるからな。これを機にと拙者も刀を握り、枝の方へ駆け出した。


「行かせるか! “ダークスティング”!」

「押し通る」


 黒く鋭利な枝が伸び、拙者はそれを斬り伏せる。

 相手をするよりも前に行動すべきはエルフ達の救出。更に勢いを付け、疾風の如く突き抜けた。


「人間なのになんて速さ……!」

「余所見してる暇はないよ!」

「小癪な……!」


 二つの枝が今一度ぶつかり合い、周囲に木片を散らす。

 これを見た感じ、エルフの中でもフロル殿は上澄みのようだな。不意を突かれた可能性もあるが、他のエルフ達が容易く捕まっているにも関わらず張り合っておる。

 お陰で此方としても動きやすくある。


「お助け致す」

「あ、ありがとう……人間……」


 枝を斬り、エルフを一人救出。

 残りはまだまだおる。ヴェネレ殿も上手く立ち回っているようだ。


「大丈夫?」

「人間の女の子に助けられるなんてね」


 細い炎で焼き切り、エルフを助け出す。

 ほうきによって空中での機動力が高い彼女の方が早くに助け出せるの。

 だが、だからといって拙者が助ける手を止める訳にもいかん。


「意識はあるようだの」

「まさか人間に……いや、素直にお礼を言うよ。ありがとう」


 順調に囚われのエルフらは解放させる。

 その間にもフロル殿とダークエルフは魔法による応酬を繰り広げていた。


「せっかくのエルフ達が……!」

「スゴい手際の良さ。一緒に来て良かった」


 光と闇の樹が互いに打ち消し合って魔力を散らし、ダークエルフの意思は此方に向かわぬ。

 順調に助け出し、安全なセレーネ殿の所へとエルフの者達を集める。

 傷は負っているが、皆意識ははっきりしている。さて、此処に居れば大丈夫そうだが……む? 何故この有り様で此処は無事なのだろうか。ダークエルフは全方位に闇の樹を張っていると言うのに。


「……もしやセレーネ殿か?」

「……? 私……?」


 どうやら本人は無自覚の様子。

 気にならなかったが、この光景もまた異様。戦闘の余波によって周囲は滅茶苦茶と言うに、この一角だけは無傷であった。

 単なる偶然と割り切るのは容易いが、そうは思えぬな。


「……フム」


 瞬間的に枝が迫り、切り落とす。

 必ずしも防ぐと言う訳ではないのか、拙者らが来たから攻撃が迫るようになったのか。

 そのいずれにしても次はあのダークエルフを止めねばならぬな。


「ヴェネレ殿。皆を御守り出来るか?」

「任せて! アイツの魔法と私は相性良いみたいだから!」

「では任せた」


 数言だけ交わし、刀を片手に踏み込んで跳び行く。

 フロル殿は互角に渡り合っている。なれば一撃与えればダークエルフを止められよう。横槍を入れるのはあまり好かぬが、優先すべきは他者だ。


「全部盗られたぁ!」

「元々私達の仲間!」


 大樹がぶつかり合い、彼女らの意識は相手に向けられている。即座に終わらせ、情報を入手するとしよう。

 樹から樹へと跳び行き、ダークエルフの横へと躍り出た。


「……! 人間……!」

「立ち合いに水を差すのは悪いが、終わらせる」

「……速……!」


 樹の枝を蹴り、通り過ぎ様に峰で打つ。

 ダークエルフが何かを言うよりも前に沈め、闇の樹が散るように消え去った。


「すまぬの、フロル殿。邪魔をした」


「え? ああ、うん。構わないのだ。言ったでしょ? 戦いは好きじゃないって。早くに終わらせてくれたから逆に感謝したいくらい」


「そうであるか。ならば良かった」


 正面から立ち合えば強敵だっただろうが、フロル殿が引き付けてくれていたからの。

 お陰で直ぐに済んだ。本人も気にしていない様子で何より。


「それで、ダークエルフは生きてるのか? 剣で斬ったように見えたけど……」


「案ずるでない。拙者の扱う刀は両刃刀では御座らん。片刃であり、この峰という部分は打撃。殺めぬ為に使用する」


「なるほど。私達の使うレイピアとも違うのだ」


「フム、エルフの刀はレイピアと申されるか。良き刀だ」


「細くて可愛いからな。ゴツい剣より私達はこちらを好むのだ。その刀と言う剣も昔人間が使っていた剣よりスリムでカッコいいのだ」


「嬉しい事を言ってくれるの」


 侍故に、刀を褒められると拙者も気分は悪くない。

 刀は謂わば命を預ける戦友。いや、相棒の方が近いの。そのいずれにしても己のように嬉しくなる。

 それはフロル殿も同じようだ。刀を扱う者同士、通ずる部分もあるのやもしれぬな。


「では、拘束を頼む。拙者に魔法は使えぬ」

「OK。“聖樹束縛”」


 意識を失ったダークエルフへ魔力からなる樹を伸ばし、その体を拘束した。

 そう言えばダークエルフは杖やレイピアを触媒とせずに魔法を使っていたの。月の民と似通った部分がある。興味深い。


「他のエルフの民達。主らは自分で歩けるか?」

「あまり舐めないでよね。急に現れなければ捕まらなかったんだから!」

「そうそう! 私達はもっと強いんだから!」

「もし全面戦争になったらその実力を見せてあげるよ!」

「全面戦争にならぬ為に今の行動を起こしているのだがな」


 兎も角、エルフの者達は問題無い様子。拙者らは手掛かりになりうるであろうダークエルフを連れ、ハクロ殿の待つ大樹へと戻った。



*****



 ──“大樹”。


「くっ、離せ……! 攻めるのは好きだが攻められるのは好きじゃない……!」


「もう目が覚めたか。エルフ族は誠に生命力が高いの。いや、ダークエルフはまた別だろうか」


「似たような種族なのはそうだから気にせずとも良いぞ。目覚めても動けないから問題無いのだ」


 ハクロ殿の前に捕らえたダークエルフを連れ行き、当の彼女は目覚めて藻掻いていた。

 さて、これから何をするのか。拷問などエルフの性格を思えば出来そうにないが。


『単刀直入に聞きたいが、お主らの拠点は何処にある?』


「言う訳ないだろ。私はただエルフをさらいに来ただけだ」


『来ただけ……か。それがエルフ達にとってはかなり危険なんだがな。そもそも森を枯れさせた時点でもう陽の目を見る事も無いぞ』


「フン、我らダークエルフは元々闇を好む。地下牢に閉じ込めるでも勝手にしろ! そうであってもお前達の好きにはさせない!」


 意地を張っておるな。ハクロ殿の言葉へまともに返すつもりはないようだ。

 然しそれは普通。自陣営の秘密をペラペラと話すような者は信頼出来ぬからな。

 だからこそ参ったのだが。


「尋問ではどうにも出来なさそうよの。やはり拷問にでも掛けるべきか」


「ご、拷問……」「私、血とかダメ……」「私も……」「ウチも……」「あーしも……」「他の方法で口を割らないかな?」


 拷問という言葉に反応を示すエルフの者達。

 血などと言ったものが駄目な種族なのだろう。拙者も好きではないが、より恐怖に思っているらしい。


「己の傷は平気なのか?」

「それは大丈夫。回復魔法で治したから」

「やっぱり人間って残酷……」

「怖いー」

「むぅ……」


 このままでは人間へ風評被害がいってしまうの。

 残酷と言う点はあながち間違って御座らんが、皆そうであると思われるのは此方としてもマズイ。

 然しどうするべきか。


『ふう、今のところは駄目だな。お望み通り牢屋に閉じ込めておこう。見張りは付けてな』


「折角の手掛かりなのに……」

「また地道に探すべきだね」


 実際のところ、拷問をしても口を割らない可能性も高い。他者を無益に傷付けるだけなのは拙者としても本意ではない。

 危険なのは変わらぬので外には出さず、改めて枯れた森を調べる。


「結局は振り出しに戻ったか。嘘でも真でも話してくれるのならセレーネ殿が居るのでなんとかなるのだが」


「そうだよねぇ。難しい」

「彼女が?」

「うむ、セレーネ殿は他者の感情を読み取れるのだ。故に、嘘なら嘘と見抜け、真なら真とも分かる」

「人間ってスゴいね」

「彼女は特別よ」


 枯れた枝を掴み、パラパラと崩れる。

 長い年月を掛けて消滅したように思えるこの一角だが、最近までは青々とした森だったとは信じられぬな。

 中心部だけではなく、隅の方を調べてみる。


「ヴェネレ殿にフロル殿。魔力の残影などは無かろうか」

「辺り一帯が歪な魔力の流れで歪んでて分かりにくいかも……」

「うん。……ねえ、キエモン。また一時的に魔力を断てないかな? 難しい方法だけど、覆うような魔力と残った魔力を分断させる感じで」

「フム、確かに難しい注文だの。だがまあ、やるだけやってみよう。為せば成る為さねば成らぬ、何事もの」


 刀を抜き、鬼神の力を込める。

 遮る魔力を断ち、残った魔力を見つける。想像するのも難しいが、不可能を可能に近付けるのも侍の在り方。

 刀を振るい、呼応するかの如く周囲に渦のようなものが発生した。


「これは……」

「さっきよりも強い流れ……」

「これってもしかして……!」


 魔力の流れに圧されて体が下がる。風圧とも違う魔力だけでこうなるか。

 その渦は拙者らを飲み込むように包み、


「……!」

「フム……」


 気付いた時、拙者らは先程の場所とも違う枯れた森の中に居た。

 そこにある木々はいずれも葉が落ちており、一歩踏み込むだけで草が灰のように消え去る。これもまた死んだ森。諸行無常なり。


「ここは……」

「全面が枯れておるの。生命の気配があまり感じられぬ」

「あまり……?」


 そう、気配はあまり感じられぬ……あまり。つまり拙者ら以外にも幾つかの気配が在るという事。

 その気配の主達は既に拙者らを取り囲んでいるようだ。


「人間だ」「人間とエルフだ」「出掛けたあの子じゃないんだ」「お客さんかな」「いや違うでしょ」「見るからに森を調べていた感じ」「どうする?」「どうしよっか」「あれで遊ぼう」「それいいね」


「ダークエルフ……!」

「じゃあここは……!」

「「ダークエルフ達の森……!」」

「こんなにもおったのか」


 囲む者達はダークエルフ。手掛かりを探していたら本拠地に辿り着いたか。なんと言う因果。

 敵意はあまり感じられぬが、彼女らの言う遊びが何を意味するか。それは直ぐに分かるだろう。

 セレーネ殿も警戒はしており、拙者とヴェネレ殿、フロル殿はダークエルフに向き直るのであった。

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