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其の佰拾伍 エルフの里の調査

 ──“エルフの里、大樹の中”。


 信頼を得た拙者らは、エルフ達の拠点となっている大樹に招かれていた。

 樹をそのままいたかのような形となっており、中は空洞。生活する場所として植物を利用した天然の机に椅子、布団などがある。

 自然をそのまま感じられる此処は居心地が良いの。丸太の樹に集まり、早速ダークエルフ対策の話し合いが執り行われる。


『さて、今ある情報をまとめよう。ダークエルフの力は生命に溢れたこの場所の森を枯らす程となっている。外の世界の森とは異なる、魔力に溢れた森をだ』


「エルフの森ってそんなに凄いの? フロルちゃん」


「そうだな。外の世界……つまりヴェネレ様方のよく知る森も生命力は高いが、この場所はそれを遥かに凌駕する。さながら一つの生き物。元々自然は生きているが、分かりやすくそう例えるよ。魔力が多く集まっていて、この森の木を一本切り倒すなら外の世界の10倍くらいの力は必要になる」


「そこまでの……」


 今回のフロル殿は真面目な任務もぉど。ヴェネレ殿が相手と言うのも一つの要因に御座ろう。

 そしてこの森はかなり強靭との事。そんな森の一角を枯らすダークエルフの実力は計り知れなかろう。


『それについての対策会議だ。まず最も知るべきはダークエルフが何処を拠点としているか。近場ではあるのだろうが、肝心の痕跡や気配は未だ掴めていないからな』


「姿を存ぜぬが、エルフとの違いはなんであろうか?」


『肌が少し黒ずんでいる。そして目も黒いな。瞳は赤く、白目の部分が黒くなっていると言った具合だ。白髪や銀髪の者が多く、耳の尖りは変わらずある』


「成る程の」


 ダークエルフの特徴は、影は通常のエルフと同じだが色合いが異なるらしい。

 同じ種族で何故そこまで変わるのかは分からぬが、拙者か見た事のある西洋の者達は拙者ら日本人と違う体付きや体色に御座った。元よりヴェネレ殿らとも髪の色など差違点は多いからの。神仏の気紛れか何か、そう言うものなのだろう。


『今分かっているのはそれだけだ。情報と言うには少な過ぎる程に何も掴めていない。だからこそ、此処から我らで捜索する』


 得られたモノは何もない。故に森の中を改めて調べるとの事。

 危険もあるのだろうが、本来此処に住むエルフの者達からすれば何も見つからない方が不安だろう。

 それについて協力致す。


『最低でも三人一組になった方が良い。パーティメンバーが決まったらすぐに捜索開始だ』


「「「はーい」」」


 まるで子が親へ言うような返事。

 ハクロ殿とエルフの者達の関係を思えばこれが普通なのだろう。

 三人一組。なれば拙者の組む相手は決まっておる。


「ヴェネレ殿。セレーネ殿。共に参ろう。今回は調査であり、可能性はあっても戦闘では御座らんからの。町中を散策する前にエルフの里を見て回ろう」


「うん! キエモン!」

「楽しみ……」


 このお二方が良かろう。戦など、危険な事柄に彼女らを巻き込みたくはないが、今のところ心配は無さそうだからの。折角の機会。共に行くのは悪くない。寧ろ良い。

 そこへ、フロル殿が挙手した。


「じゃあ私も一緒に行くのだ。この場所を案内出来るのだからな」


「成る程。案内役を買って出るか。フロル殿となら一晩を過ごした仲。安心も出来るの」


「そうだね。任せたよ。フロルちゃん!」

「頼んだ……」


「OK、任せてよ!」


 これにて調査仲間が決まった。この世界ではパーティメンバーやチームメイトと言うらしい。

 仲間のパーティと会食のパーティーは意味合いが違うらしいが、共に行動を起こすと言う意味なら同じかもしれぬな。

 なんにせよ、同行者は決定した。後は里を調べつつダークエルフの手掛かりを見つけ出そうぞ。



*****



 ──“エルフの里、居住区”。


「この辺りは建物のような所が多いの。住宅街や商店街の一種か?」


「そんなところなのだ。ここは主に居住区画で、みんなノビノビと暮らしているぞ」


「全部木が材料みたいだけど、その……思ったより自然物を使ってるんだね」


 自然を愛するエルフが自然を破壊して建造物を造る。確かに矛盾しているように思えるの。ヴェネレ殿の疑問は最もだ。

 フロル殿は返した。


「違うのだ……じゃなくて、ヴェネレ様にはこっち。違うさ。この建物は全て魔力からなるモノで、実際の植物を使っている訳じゃないんだ。ここだけじゃなく、この里にある全ての建物は永続的な魔法だ」


「永続的な魔法……!? スゴい……そんなの想像も付かない。しかもエルフの住み処全域がそうだなんて……!」


 誠にそれは驚きだ。

 拙者もこの世界に来て様々な魔法を見てきたが、悠久の時を留めさせる魔法は拝見して御座らん。

 全ての建物にそれらを作用させる魔法など、エルフの凄まじさがより伝わるの。

 フロル殿は笑って言葉を続ける。


「本当にスゴいだろう。けど、全てのエルフが作れる訳じゃない。一部のより強力な魔法を使える存在とか、若かりし頃のマザーとか一握りが力を合わせて造った街なんだ」


「へえ……それでも十分スゴいよ! と言うかハクロさんも携わっていたんだぁ」


 ハクロ殿を含め、より力のある、拙者らで言うところの騎士団長のような存在が作り上げた町。

 優れた種族の中でも更に優れた存在か。それこそ神にも等しき存在だったので御座ろう。


「その人達はハクロさん以外に居るの?」


「居ないよ。マザーだけ。何百年も昔の方々だからね。長寿のエルフでも寿命が尽きるくらいの年月が経っていたり、マザーと同世代くらいの人達は空へ行っちゃった」


「空? 死んじゃった人達とまた別の意味での空って事?」


「うん。私も小さかった頃だから詳しくは覚えていないけど、この星に世界を滅亡させる魔神が現れた時、人間とエルフと他の種族が協力して戦って、勝利を収めた後、月に(・・)行った(・・・)んだって」


「「……!」」


 フロル殿が何気無く言い放った言葉へ、深き関わりのあるヴェネレ殿と拙者は大きく反応を示した。

 魔神の類いは以前、海の島にてシスイ殿から話を窺ったがその大戦にエルフも参加しており、共に月へ向かった者達がおったとは。


「……? どうかしたの?」


「あ、いや……その……私達、月について色々調べていて……関わりがありそうな話が出てきたからつい……」


「月について?」

「うん」


 含みは持たせるが、多くは言わない。単純にフロル殿らを巻き込まぬ為。

 まさかこんなところに月の国への手掛かりがあるとはの。

 ヴェネレ殿は改めて続ける。


「そのエルフ達がどうやって月に行ったかとか分かるかな?」


「方法と言えば魔法しかないけど、どんな魔法を使ったかまでは。力になれなくてごめんね」


「ううん。いいよ、フロルちゃん。やっぱり月まで行く魔法かぁ……ほうきで行けるかな……」


「多分ムリだと思うのだ。ああ見えて月って凄く遠いから。宇宙には空気が無いし、到達しても呼吸用の魔法が不可欠だな」


 月への魔法。単なるほうきに乗って行くとしたらかなりの時間が掛かるとの事。そして宇宙には空気が無いのか。初めて知ったぞ。


「そっかぁ。ありがとね。フロルちゃん」


「別にいいのだ……っと、さっきからプライベートモードになっていた。けどヴェネレ様方、なぜそんなに月へ?」


「国家的な問題だから言えないかな」


「私は色々教えてやったのだ。そちらも教えてくれなきゃ不公平だぞ」


「うっ……そう言われると弱い。……実は……」


 フロル殿に問い詰められ、ヴェネレ殿は言わざるを得なかった。

 と言うても国に攻めて来た月の民など、世界にも少しは伝わっている事についてだけ。ヴェネレ殿自身がその月の民に大きく関わりがある事などは言わなかった。


「月の国からの使者……外の世界はそんな事になってたのか。5人の刺客で、うち1人が龍。2人が話の分かる人と炎魔法を完全に無効化する人……残り2人が不明……その中に植物魔法を使う人は居なかったかな?」


「どうだろう。私も直接見た訳じゃないし……その後の会議で知ったくらいだからね」


「それについては直接窺った拙者が答えたいが、残念ながらフロル殿の言うような魔法を使う者は居なかった。残り二人も闇夜で外套を纏っていたのでよくは分からぬ」


「そうか。残念なのだ」


 フロル殿の知り合いなのだろうか。考えうる線は十中八九過去に月へ向かったエルフの民。それ程の実力者ならあの者らと共に居た事も頷ける。

 話に一区切りが付き、拙者らは改めてダークエルフの痕跡などを探す。


「町の方には無いようだな。まだ居住区までは侵入されていないのだろう」


「それについてはいいけど、早いところ何かを見つけたいのだ。枯れた森に行ってみるか?」


「それが良さそうよの。今ある一番大きな痕跡が為に、既に何人かのエルフ達が居るだろうが現状分かるのがそこしかない」


 一通り見回し、何もない事が分かった。

 となるとありそうな場は枯れた森。もう何人も向かっているが、手掛かりを探す人数が多いのは良き事にあろう。

 拙者らは居住区を後にし、枯れた森へと参った。



*****



「──あったの。手掛かり」

「……そうみたいだね……」

「……」

「貴様……! 私の仲間達に何を……!?」


「……あれれ? まだ生き残りが……って、みんなまだ生きてるか。殺したくはないし。後から来た人達だね。よろしくね」


 そこに行くや否や、黒い枯れ木に多くのエルフが囚われていた。

 それをやったであろう主犯、黒い肌に黒く赤い目。そして白髪の女。

 背後の樹にエルフ達を縛り上げ、拙者らの方を向いた。


「一人はエルフだけど、三人は人間か。相変わらずエルフは貧乳が多いね。大きいのも何人か居るけど、私が捕らえたの皆小さい」


「変なところでマウントを取るな! 我らエルフは形が良いんだ! お前達のように下品に大きくなる訳じゃない!」


「残念、ダークエルフも皆が皆、大きい訳じゃない。だが、体の大きさは魔力の大きさ。それだけのエネルギーが詰まっているという事……エルフなんか敵じゃない」


「じゃあやってみなよ!」


「ああ、ヤるさ。エルフも顔が整っているからね。そう言う趣味趣向を持つダークエルフも多い。皆女だがな。お前達エルフと同じく、男は産まれない」


 何やら別の戦いも行われた気がするが、魔力量についてが主体だったようだ。

 事実、一人でこの辺りを調べていたエルフを捕らえる魔法。強者なのはそうなのだろう。


「その事もあり、人間の男。お前は興味深い。男となんか関わった事が無かったからな。お前は是非とも連れ帰り、私達の相手をして頂こう」


「フム、何について表されるのかは分からぬが、エルフの者達を此処までした主の言う事を聞く訳が無かろう。いずれにせよ力尽くか」


「そうだな。得意分野だ」


 そう告げ、複数本の木々を現界へ出現させた。

 敵意は剥き出し。仲間のエルフ達がやられ、フロル殿もその気になっておる。拙者もそうであり、ヴェネレ殿も拙者も狙われている分かった途端に魔力を展開した。

 思えばセレーネ殿はどうなのだろうか。魔法を使っているところを見た事がないが、果たして戦えるのか。

 いや、考えずとも良かろう。今はただ、他のエルフ達を救出するだけよ。

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