4 危険な晩餐
夕食は、奥様とジャック、そしてあたしが一緒に取ることになりました。キャロルが腕を振るった料理です。
食べようとして、あたしはふと、何となく違和感を感じました。
何かが違う。
いつも出されている食事と、何かが。
少しだけ食べてみると、やはりいつもと違っているように思いました。……これは。
──まだ街で暮らしていた頃、仲間達に言われたことを思い出しました。
……いいか、これは美味そうな匂いがするし、実際食うと美味いらしい。でも、これは食ったらヤバいんだ。
……これを食った後、しばらくしてから体がおかしくなって死んだ奴は結構いる。
……だから、いくら美味そうでも食うなよ。おまえみたいな小さい奴は、特にな。
これは。
毒だ。
あたしは思わず、皿をひっくり返していました。
「何だ、行儀の悪い奴だな!」
ジャックが言いました。キャロルが驚いて、あたしに駆け寄りました。
「どうしたんですか、アリス様⁉」
と、キャロルは食事に混ざっていた茶色いものを見つけました。
「これは……」
「どうしたの、キャロル?」
「これ! これがアリス様の皿に!」
キャロルはそれを拾い上げて、皆に見せました。
「誓ってわたしはこんなものをアリス様の食事には入れてません! こんなものを食べさせたら、下手すれば死んでしまうわ!」
「チャーリー! 早く、お医者様を!」
「はい!」
直ちにお医者様が呼ばれ、あたしの食べた毒を吐かせてくれました。処置が早かったため、大した影響はないだろうとのことでした。
皆がほっと一息ついた時です。
「ジャック様。アリス様のお皿にあれを入れたのは、あなたですか?」
口火を切ったのは、勝気なキャロルでした。
「なんだと? 何だって俺がそんなことを!」
「だって、アリス様に何かあったら、一番得をするのはジャック様です。それに、これ」
キャロルは、さっき拾ったものを見せました。小さな茶色い──チョコレート。
「奥様はチョコレートを切らしてました。ここにチョコを持ち込んだのは、あなただわ!」
「だからって、俺が入れたって証拠にはならないだろ!」
ジャックは憎々しげにあたしを見ました。
「そりゃ、確かに俺はこいつにゃくたばって欲しいさ。こんな犬っころに全財産を相続させるなんて、馬鹿げてるからな。だが、そう思うのと実際にやるのは別だろう」
「そうかしら。奥様の気を引くのに、わざわざチョコレートを買って来たのは何故? チョコが犬には毒だって、知らないわけじゃないわよね?」
「単に義姉さんが好きなものだから買って来ただけだ。言いがかりもいいかげんにしろ!」
「二人とも、いいかげんになさい」
口げんかになりかけていたところに、奥様が静かに言いました。二人はぴたりと口を閉じました。
そこへ、玄関の呼び鈴が鳴る音がしました。チャーリーが応対に出向いたかと思うと、すぐに戻って来て奥様に何か耳打ちをしました。奥様はうなずき、お客様を通すように命じました。
チャーリーが連れて来たお客様は、きっちりとスーツを着た男性でした。その人は、警察の身分証明書を皆に見せました。
「市警察のチェスター捜査官です。ジャック・ローズハートさん、あなたには違法賭博に関わった容疑、インサイダー取引容疑及びに背任の容疑がかかっています。署までご同行下さい。弁護士を呼ぶ権利は保証されています」
ジャックはこの世の終わりのような表情で、警察の人に連れられて行きました。犯罪者として前科がついてしまったら、もう誰も彼をローズハート家の後継者とは認めないでしょう。
「動物虐待の罪も一緒につけてくれないかしら」
キャロルがぽつりと言いました。




