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偽りのアリス  作者: 水沢ながる
4/5

4 危険な晩餐

 夕食は、奥様とジャック、そしてあたしが一緒に取ることになりました。キャロルが腕を振るった料理です。

 食べようとして、あたしはふと、何となく違和感を感じました。

 何かが違う。

 いつも出されている食事と、何かが。

 少しだけ食べてみると、やはりいつもと違っているように思いました。……これは。

 ──まだ街で暮らしていた頃、仲間達に言われたことを思い出しました。

 

 ……いいか、これは美味そうな匂いがするし、実際食うと美味いらしい。でも、これは食ったらヤバいんだ。

 ……これを食った後、しばらくしてから体がおかしくなって死んだ奴は結構いる。

 ……だから、いくら美味そうでも食うなよ。おまえみたいな小さい奴は、特にな。


 これは。

 毒だ。


 あたしは思わず、皿をひっくり返していました。

「何だ、行儀の悪い奴だな!」

 ジャックが言いました。キャロルが驚いて、あたしに駆け寄りました。

「どうしたんですか、アリス様⁉」

 と、キャロルは食事に混ざっていた茶色いものを見つけました。

「これは……」

「どうしたの、キャロル?」

「これ! これがアリス様の皿に!」

 キャロルはそれを拾い上げて、皆に見せました。

「誓ってわたしはこんなものをアリス様の食事には入れてません! こんなものを食べさせたら、下手すれば死んでしまうわ!」

「チャーリー! 早く、お医者様を!」

「はい!」

 直ちにお医者様が呼ばれ、あたしの食べた毒を吐かせてくれました。処置が早かったため、大した影響はないだろうとのことでした。

 皆がほっと一息ついた時です。

「ジャック様。アリス様のお皿にあれを入れたのは、あなたですか?」

 口火を切ったのは、勝気なキャロルでした。

「なんだと? 何だって俺がそんなことを!」

「だって、アリス様に何かあったら、一番得をするのはジャック様です。それに、これ」

 キャロルは、さっき拾ったものを見せました。小さな茶色い──()()()()()()

「奥様はチョコレートを切らしてました。ここにチョコを持ち込んだのは、あなただわ!」

「だからって、俺が入れたって証拠にはならないだろ!」

 ジャックは憎々しげにあたしを見ました。

「そりゃ、確かに俺はこいつにゃくたばって欲しいさ。こんな()()()()に全財産を相続させるなんて、馬鹿げてるからな。だが、そう思うのと実際にやるのは別だろう」

「そうかしら。奥様の気を引くのに、わざわざチョコレートを買って来たのは何故? チョコが犬には毒だって、知らないわけじゃないわよね?」

「単に義姉さんが好きなものだから買って来ただけだ。言いがかりもいいかげんにしろ!」

「二人とも、いいかげんになさい」

 口げんかになりかけていたところに、奥様が静かに言いました。二人はぴたりと口を閉じました。

 そこへ、玄関の呼び鈴が鳴る音がしました。チャーリーが応対に出向いたかと思うと、すぐに戻って来て奥様に何か耳打ちをしました。奥様はうなずき、お客様を通すように命じました。

 チャーリーが連れて来たお客様は、きっちりとスーツを着た男性でした。その人は、警察の身分証明書を皆に見せました。

「市警察のチェスター捜査官です。ジャック・ローズハートさん、あなたには違法賭博に関わった容疑、インサイダー取引容疑及びに背任の容疑がかかっています。署までご同行下さい。弁護士を呼ぶ権利は保証されています」

 ジャックはこの世の終わりのような表情で、警察の人に連れられて行きました。犯罪者として前科がついてしまったら、もう誰も彼をローズハート家の後継者とは認めないでしょう。

「動物虐待の罪も一緒につけてくれないかしら」

 キャロルがぽつりと言いました。

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