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偽りのアリス  作者: 水沢ながる
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2 キャロルとチャーリー

 あたしの運命を変える二人が来たのは、突然のことでした。

 係員に案内された二人は、珍しそうに収容所の建物を見ながら、中に入って来ました。二人は二十代前半くらいの金髪の女性と、三十歳くらいに見える褐色の髪の男性でした。どちらかというと、女性の方が男性を引っ張って来たように見えました。

 女性は何度もあたし達の方を見回し、何かを探しているようでした。と、彼女はあたしに目を止めました。途端に彼女は目をきらきらさせて、喜びの声を上げました。

「見つけた! この子! この子に決めた!」

 男性が少し引き気味に言いました。

「キャロル、本気か? 本当にこんなことをするつもりなのか?」

「もちろん、わたしは本気よ。見てよ、この子、あの子にそっくりだわ。これはきっと運命よ、神様の思し召しよ。こんなに似ている子がいるなんて思わなかったわ!」

 キャロルと呼ばれた女性は早口でまくしたてました。男性はその勢いに、すっかり押されていました。

「確かに似てるけど……でもそんな、奥様をだますようなこと……」

「じゃあ何なの? チャーリーは他にどうにか出来る方法があるって言うの? あの子はもういないのよ、それを知ったら奥様だって悲しむわ。奥様だってもうお年だし、気落ちしてご病気にでもなってしまうかも知れないわ」

「いやまあ、そりゃそうだけどさ……」

「他にいい考えがないんだったら、わたしのやることに口出ししないで。……すいません、そこの子をお願いします」

「この子ですか?」

 あたしは係員に連れ出され、二人に引き合わされました。キャロルはあたしの全身をジロジロ見回して、うなずきました。

「うん、どこから見てもあの子にそっくり。この子にします」

「わかりました。では、手続きをお願いします」

 こうしてあたしは、キャロル達に引き渡されました。

「幸せになれよ」

 あのお爺さんが、ぼそりと言ったのが聞こえました。


 キャロル達があたしをまず連れて行ったのは、お医者さんのところでした。悪い病気を持っていないか徹底的に検査されたり、痛い注射をされたりしました。

 その次に、キャロル達はあたしをお風呂に入れました。あたしはお風呂が嫌いだったので抵抗しましたが、キャロルとチャーリーの二人がかりで無理矢理体中洗われました。タオルで拭かれてドライヤーをかけられる頃には、さすがのあたしもすっかりくたびれてしまっていました。

「さあ、とってもきれいになったわ。まるでお姫様よ」

 あたしに可愛いドレスを着せながら、キャロルは言いました。

「そうそう、お腹が空いたでしょ。ごはんをあげるわ」

 キャロルが出してくれた食事を、あたしはそれこそむしゃぶりつくような勢いで食べ始めました。実際、お腹はぺこぺこでした。

(美味しい!)

 今まで食べたことがない程、キャロルの作った食事は美味しかったのです。夢中で食べるあたしに、キャロルは得意気な笑みを浮かべました。

「美味しいでしょ? わたしの料理、奥様にも好評なのよ。オニオンスープなんて、奥様がすごく気に入って、奥様専用の料理にしてくれたんだから。あなたにはあげられないけどね」

 食べ終えたあたしに、キャロルは一枚の写真を見せました。それは、あたしによく似た女の子の写真でした。

「そっくりでしょ? これがあなたを選んだ理由。この子はアリス。あなたは今から、この子になるの」

 アリス。それが、あたしがこれから呼ばれることになる名前でした。

「アリスはね、奥様が引き取って育てていたの。でも、奥様が海外へご旅行している間に、わたし達の不注意で死んでしまって……だから、そっくりなあなたにアリスになってもらいたいの」

「そんなこと、この子に言ってもわからないんじゃないか?」

 チャーリーの言葉にも、キャロルは動じませんでした。

「そうかしら? この子、結構賢そうよ。……アリス、わたし達の共犯者になってね」


 翌日から、キャロルはあたしに先生をつけ、行儀作法を徹底的に叩き込みました。練習は大変でしたが、よく出来ると褒めてもらったり、美味しいおやつをもらえたりして、あたしはだんだん練習にはまって行きました。

 あたしがなんとかお行儀よく出来るようになった頃、いよいよ奥様が戻って来る日がやって来ました。

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