公爵閣下と午後のお話
午後のお茶は、イチゴのたっぷり載ったタルトだった。
「わぁ……!」
宝石のようなお菓子を前に、エリーは目を輝かせた。
「王都で大人気の店のやつだよ。気に入ったらまた買ってくるから」
「ありがとうございます、サイラス様……!」
声を弾ませるエリーを前に、サイラスはにこにこ笑っている。
最初から自分に甘いと思っていたが、ここ最近はそれが顕著だ。ここまで甘やかされる理由が分からず、エリーが戸惑った顔になる。
だがそれを言うと、「いいから」と笑顔でかわされてしまい、結局真意は聞けないままだ。
初めて食べたイチゴのタルトは、とんでもなく美味だった。
爽やかな甘さを薫り高いお茶で洗い流すと、心地よい満足が広がっていく。
「太りそうですが、幸せです……」
「それはよかった。次もイチゴにしようか。それともレモン、ブルーベリー?」
「全部おいしくて選べません」
「じゃあ全部買ってあげるよ。チェリータルトもおいしいから、それも追加しようかな」
「いやいやいや……」
そこまでされると、嬉しいよりもちょっと怖い。
けれど、アーヴィンに目をやると、事もなげに頷かれた。
「サイラスは気に入った相手を甘やかすのが趣味だ。そして君はとても可愛いので、甘やかされてもいいと思う」
「か、閣下?」
「俺別にエリーの外見につられて甘やかしてるわけじゃないんですけど、まぁいいや」
それに可愛いですしね、と付け加える。
「当然だ。エリーは可愛い」
「閣下!」
やめてくれと言いかけたエリーを制し、「まぁまぁ」とサイラスが身を乗り出す。
「一応お聞きしますけど、どれくらい?」
「言葉でうまく伝えられたら苦労はない。とりあえず、エリーより可愛いものはこの世にない。この先も存在しないと思う。そして私はエリーと比較するだけの価値あるものを思いつかない」
「閣下はエリーのこと大好きですねぇ」
即座に赤面したエリーに目をやり、サイラスが楽しげに笑ってみせる。
「当然だ。心の底から愛している」
「えー俺もエリーのこと大好きなんですけど」
「私の方が大好きだ」
「俺の方が好きですって」
「私だ」
「俺ですよ」
「私だ」
「俺ですって」
「閣下!! サイラス様!!」
完全に遊ばれている(片方に)のが分かり、エリーが顔を真っ赤にする。
なぜ怒られているのか分からないもう片方が、きょとんと目を瞬いた。
「どうした、エリー」
「この状況でそのセリフが出るところが閣下ですよね」
「もう知りません、二人とも!」
ぷいっと顔を背けると、アーヴィンが初めて反応した。
気遣うように「エリー」と呼び、そっと顔を覗き込む。さすがに反省したのだろうか。だとすると、ふくれっ面なのは決まりが悪い。
そう思った直後、彼は言った。
「その顔も可愛い。もっと見たい」
「……っ、……っ、~~~~~っ!」
「思った以上に筋金入りだった」
呆れたサイラスの声をよそに、アーヴィンは至極真面目な顔だ。本気で言っているのが分かり、エリーはその場に突っ伏した。
(もう無理……)
この調子でやられていたら、心臓がもたない。
顔を上げられないエリーの上で、二人が会話を交わしている。片方は純粋に心配しているが、もう片方は完全に面白がっている。
「エリーはどうした。具合が悪いのか」
「不治の病ってやつですね。重症ですよ」
「それは大変だ。医者を呼ぼう」
「お医者様でも治せないやつなんですよねぇ」
「どれだけかかっても構わない。エリーは私の最愛の人だ」
(もう……もう、もうっ)
止めたいけれど、口を挟むと悪化しそうだ。早く終わってくれと思いつつ、エリーはぎゅっと目を閉じた。
どうしたらいいか分からなくて、頭の奥がぐるぐるする。きっと真っ赤になっているし、サイラスがにやにやしているだろうし、何より恥ずかしくてたまらない。
(だけど)
「エリー? 大丈夫か」
静かな声が降ってくる。
「具合が悪いのか。ベッドに行くか?」
「違います……」
「立てないなら私が運ぶ。一緒に寝るから問題ない」
さりげなく妙な言葉を混ぜつつ、エリーの様子を気にしている。そうですねと答えながら、エリーは突っ伏したまま目を閉じた。
本当に恥ずかしくて、困惑して、いたたまれない気持ちになる。
だけど――だけど、ほんの少しだけ。
嬉しいと思ってしまった事は、絶対に内緒だ。
了
お読みいただきありがとうございます。あっ言質取った……!(「君と一緒に寝ようと思う」「そうですね」)
*書籍化していただきました。書き下ろしもいっぱいしたので、よろしければぜひご覧になってくださいね。2024年1月5日発売です。
また、書籍化に伴い、タイトル変更になりました。
・発行:ベリーズファンタジー様
・イラスト:ノズ先生
*******
*イラストがとっても可愛いです。ノズ先生ありがとうございます!
*活動報告も更新しております。




