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82.嵐の前

「ありがとう。きれいに直してもらったから驚いたよ。前よりも着心地が良いんじゃないかな」

「まぁ、お上手ですね。どこか悪いところがあったら言ってください。すぐに直しますから」


 フェルナンド様に修繕が終わった上着を届けにいくと彼はさっそくそれを羽織ってくれました。

 満足そうな笑みをこぼす彼を見て私はすべてが報われたような気がします。

 再生魔法で直してもこの充実感は得られなかったでしょう。


「知ってのとおり、今日が満月の夜だ。どう頑張っても荒れるだろうと私は読んでいる」

「はい。私も同感です」

「防備に関しては昨日帰ってこられたナルトリアの軍隊に任せるつもりではあるが、私たちもできる限りのことはしよう」


 自信に満ちたその瞳に浮かぶ光は、先日落ち込んでいた彼とは比べものにならないほどの輝きを放っていました。


 大丈夫。なにがあっても私とフェルナンド様は共に故郷に帰る。そう約束したのですから、それを果たせるのなら、どんな試練にも打ち勝ってみせましょう。

 私の胸の中で熱いものがこみ上げてきました。


「シルヴィア様、フェルナンド様、ネルソン殿下とロレンス殿下がお二人とお会いしたいとのことです」


 ノックの音とともに使いの方が用件を伝えます。

 ネルソン殿下は第一王子、ロレンス殿下は第二王子で、先日まで軍を率いて遠征に行っておられました。


 昨日帰ってこられたのでご挨拶がまだでしたが、さっそくお会いできるみたいです。


「はぁ、わたくしも行かなくてはなりませんの? あの方の兄と考えただけで気分が重いです」

「そう言うな。君はシルヴィアの護衛。黙って後ろに立っているだけでいい」


 部屋の外で待っていたイザベラお姉様はため息をついて、両殿下に会うことを嫌がりました。

 確かにライラ様のお兄様と考えると、かなり怖そうですよね。お二人とも大軍を率いて戦争に行くくらいの豪傑なのですから。


 いえ、逆に優しそうな紳士という可能性もあります。なんせ、ナルトリア王国の王子様なのです。礼節をわきまえた穏やかな方でもおかしくはありません。


 ◆


「まったく、緊急事態だと聞いて戻ってきたら妖者だとぉ!? ライラ! 貴様はナルトリア王族の誇りはないのか!」

「嘆かわしい! 俺は情けないぞ! 俺は貴様がこの国を守るという言葉を信じた! 顔を潰した自覚はあるか! どうなんだ!」

「申し訳ございません。兄様……」


 ライラ様が三人いらっしゃる……。連れてこられたのは王宮の食堂。挨拶がてら食事をされたいと所望されたので、私たちはそこまで足を運びました。

 燃えるような赤い髪をした兄弟。長髪の方が第一王子のネルソン殿下、短髪の方が第二王子のロレンス殿下とのことです。


 お二人とも背が高く、目つきはライラ様以上に鋭くて、睨まれただけで腰を抜かしてしまいそうになる、想像以上に怖そうな方たちでした。

 なんせ、あのライラ様が平身低頭でひたすら謝っているのです。それだけでもどれほどの方なのか容易に推し量ることができました。


「これは付いてきて良かったかもしれませんね。見物ですわ」


 もう。イザベラお姉様ったら、ライラ様が怒られているのを見て楽しそうにしないでください。

 このあと私たちもこの方々とお話せねばならないんですよ。ここは震え上がるのが普通のリアクションではありませんか。


「んっ? おおっ! 来たか、来たか。あなたがシルヴィア・ノーマンだな。我はナルトリア第一王子、ネルソンだ。あなたの武勇伝は聞いている」


「俺は第二王子のロレンスだ。なるほど、なるほど。良い顔をしているな。大器を感じさせられる。我らが留守の間、この国の危機を孤軍奮闘し、救ってくれたと聞いた。礼を言わせてもらうぞ」


 こちらの存在に気付いた両殿下は私に握手を求められました。

 ガシッと手を握られるとその力強さに思わず声が出そうになります。


 しかし、思ったよりも歓迎されているような気がしますね。英雄などと過分な評価をされるのはなんとも言えぬ気恥ずかしさがありますが、今は怖いという印象が少しでも拭うことができたので安堵の思いのほうが強いです。


「妹からあなたが身の程知らずの悪漢に狙われていると聞いた。不安もあるだろうが安心なされるがよい。昨日よりこの王都は大陸随一の規模を誇るナルトリア軍が守っておる」


「は、はい。ありがとうございます」


「俺たちは蟻一匹だろうが大事なものに迫りくる悪意を躊躇わずに踏み潰す。あなたは陛下や妹の恩人。ならば俺たちにとっても大事な方だ。部屋でくつろいでいる間にすべてを終わらせよう」


 圧が、圧がものすごいです。ライラ様や陛下と出会ったときにも感じましたが、この国の王族の方々は自信に満ち溢れており、覇気が強すぎて尻込みしたくなります。

 良い方々なのは理解ができましたが、どうもこのような扱いには慣れることができませんでした。


「ネルソン殿下、ロレンス殿下、ご無沙汰しております。ノルアーニ王国、辺境伯フェルナンド・マークランドです」


「うむ。久しいな、フェルナンド。いい婚約者を見つけたではないか」

「大賢者アーヴァインの後継者と呼ばれるほどの傑物を嫁にもらえるなど、なんとも運が良いな」


 両殿下からフェルナンド様は私との婚約を祝福されているみたいです。

 運が良いという言い回しには引っかかりますが、彼が笑顔で流しているので私も何も言うことはありません。


「だが、もったいなきことよのう。フェルナンドが婚約者でなければ、シルヴィアを我が国の公爵家に嫁がせぬかとノーマン伯爵に打診したかったが」

「まったくだ。ノーマン家の魔術師の中でも最高の才能と呼ばれる女性。俺たちの国に是非ともほしい人材だ」


 え、え、えーーっ!? そんな人のことを貴重な宝石みたいに言わないでください。

 目が本気なので冗談を言われていないことはわかります。ですが、私はフェルナンド様のものですから、何を言われてもこの国の人と結婚するつもりはありません。


「それは残念でしたね。私は彼女とともに人生を歩めるという事実だけで一生分の幸運は使い果たしましたが、何ら後悔はしていません」


 お二人が私について言及してもフェルナンド様は微笑みながらそれを躱します。

 やっぱり見惚れてしまいました。私の前で理想的な姿でありたいという心情を吐露したあとでも、フェルナンド様に対する憧れの気持ちは変わりません。


 両殿下は彼の立ち振る舞いに対して何も言い返しませんでした。


「とにかく、だ。我らが帰ったからにはあなた方の出る幕はない。恐怖で眠れぬ夜をすごしていたかもしれんが、今日からは安眠できる。食事も存分に楽しんでくれ!」

「は、はい。両殿下のお気遣い、感謝いたします」


 お姉様のおかげで眠れない日はなかったのですが、ありがたいお言葉です。

 こうして私たちは二人の王子様とともに食事を取り、部屋へと戻りました。

 それにしても、イムロスは本当にこの満月の夜にやってくるのでしょうか……。

なんども宣伝して恐縮ですが

4/15、つまり今週の金曜日に辺境聖女2巻が発売します!

クライマックスは書籍限定のキャラクターが活躍していますし、序盤にはWEB版にはなかったイムロスとのファーストコンタクトシーンなどが描かれています!

とっても、面白いので是非ともご覧になってください!


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