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80.恩返し

 緊迫感が立ち込める中、私とフェルナンド様が昨夜の話を詳細に語って、会議はお開きとなりました。


 偉い人たちがジッと見つめる中でお話するのは中々緊張しますね。

 何度か言葉を詰まらせましたが、フェルナンド様がフォローしてくださったので滞りなく報告ができました。


「すみません。私、こういうところで話すことに慣れていなくて」

「誰だってそうだよ。シルヴィアはよく話せていたほうだ。気にしなくても大丈夫」

「随分と甘やかしますのね。あまりにも拙くて、わたくしのほうが恥ずかしくなりましたのに」


 私とフェルナンド様、そしてイザベラお姉様は会議室から退室しました。

 このあとお昼をいただいて、しばらくはお姉様に魔法の特訓に付き合ってもらって、それから……。


「貴様ら、昼食に付き合え。こっちだ」

「ライラ様……?」


 有無を言わせぬ口ぶりで昼食にお誘いするライラ様。通路の真ん中で仁王立ちして腕を組んでいらっしゃる。


 私たちに断れるべくもなく彼女の後ろをついていきました。

 まだ何か話足りないことでもあるのでしょうか。


「すまんな。貴様らは私などとはそう何度も食事などしたくないかもしれんが」

「そうですわね。わたくしは――」

「イザベラ、口を慎むんだ」


 席についてイザベラお姉様がまた余計なことを言おうとしたのを察知したフェルナンド様はそれを咎めます。


 ここで言い争っては話が先に進みませんからね。お姉様には少し自重してもらいましょう。


「ライラ様、あのう。何か私たちに話したいことでもおありなのでしょうか?」

「なんだ、シルヴィア・ノーマン。用もなく食事に誘われるのは迷惑か?」

「い、いえ、滅相もありません」


 怖いですね。慣れたとはいえ、なんでしょうか。この胃を締め付けるような威圧感。

 ピリピリとしたオーラが突き刺さるみたいな、そんな感じ。

 ライラ様がお怒りだと聞いてアルヴィンさんが吐き気を催した理由も今ならよくわかります。


「殿下、シルヴィアの発言に他意はありません。他国の王族にお食事に誘われれば、何かあるのだと想像するのは無理なからぬことかと」

「うむ。そうだな、貴様の言うとおりかもしれん。シルヴィア、すまなかった。脅かすつもりではないのだ。ただ、この緊迫感が私を好戦的にさせて、な」


 確かに今のこの状況はナルトリア王国にとっても臨戦態勢というか、まるで宣戦布告でもされたかのようなムードに包まれています。


 幼い頃にノルアーニ王国は陛下の弟であるニックがクーデターを起こそうとしたことがありますが、そのときと似たような空気で、私はそれを思い出していました。


「貴様らの国では国王の弟がクーデターを起こして、それが未遂になったのだったな」

「ええ、そのとおりです。ご存じのとおり、あのニック・ノルアーニが国の乗っ取りを企み、シルヴィアとイザベラの祖父である大賢者アーヴァインが命と引き替えにそれを阻止しました」


 フェルナンド様はライラ様の質問に答えます。

 ニックは先日、ティルミナとともにこの国で騒動を起こしていますし、彼女もそのことは承知しているでしょう。


 お父様の話によればニックはあと一歩、お祖父様がいなかったら確実に国の中枢を支配してノルアーニ王国の実権を握っていたみたいです。


 当時はニックの協力者もかなりの数がおり一斉に奇襲を仕掛けたので次々と国内の要所を占領されたと聞いています。 


 クーデターが成功していたら我が家やフェルナンド様の辺境伯家はどうなっていたかわかりません。


 王家と懇意にしている両家でしたから、家が潰されて領地を没収される可能性は高かったでしょう。


 ノルアーニ国王がアルヴィンさんを勘当だけでなく、国家追放処分にしたのはこうした反抗勢力のトップとして利用されるのを忌避したからという部分も大きかったとフェルナンド様は言っていました。


 しかし、なんでまたライラ様は我が国のクーデターのことを口にされたのでしょう。確かに私もこの緊迫感によってそれを思い出しはしたのですが、意図がわかりません。


「我が国は、そのクーデターが成功した……!」

「ティルミナの奸計よって暴君と化した前国王との戦いですね。存じております」 


 こちらの国でもクーデターが起きて成功した。当然、私たちも承知していますが改めて聞くと歴史の皮肉さを感じます。

 もちろん、ナルトリア国王には正義がありました。ティルミナによって国は荒れ放題で、何もしなかったら国が滅びた、とまで言われていたので……。


 ただ、私たちはクーデターが失敗したからここでこうして生きており、ライラ様は成功したからこうして生きていらっしゃる。

 因果なものだと、どうしても考えてしまったのです。


「この感じは、父上、いや陛下が前王とティルミナを追いつめたときに似ていてな。強く、そして気を抜かず、常に張り詰めておらねば足元をすくわれる。そんな気がしてならないのだ」


 ライラ様は自分の父親である陛下が中心となって、クーデターを起こしています。

 つまり失敗してしまったら主犯の家族として処刑されてしまうのは確実。その緊迫感は私たちが感じたものと比較にならないでしょう。


 彼女が常にピリッとした空気を纏っているのはそういった経験だからかもしれません。


「前王の妻が亡くなってしばらくして、ティルミナを新たな妻として迎えたい。いや当時は別の名を名乗っていたが、そう発表した日からこの国は少しずつ壊れ始めた」


 ティルミナは前王の後妻だったんですね。そのへんの歴史というか、事情はざっくりとしたところしか知らないのです。


 ナルトリア王国としても隠しておきたい部分もあると思いますし。


「ティルミナは王宮を絢爛豪華なものにしたいと、国家予算を倍増させるように前王に進言すると、彼は税の徴収に軍隊まで動かすようになってな。役人はあの女に珍しい贈り物をする者を優先的に出世させ、国の中枢から国家全土に及んで一気に腐らせた」


 傾国の魔女ティルミナは国が滅びる様子を見ることが何よりもの楽しみだとする、大陸でも最も悪名を馳せた人物の一人。


 ナルトリア王国の前王は軍神とまで言われた方でした。リーダーシップに長けており、国を大きくしたという実績もあり、国民からも慕われていたと聞いています。


 そんな彼をも思いのままに変えてしまうとは、やはり彼女は恐ろしい人なのだと改めて思いました。


「陛下がティルミナの正体を傾国の魔女だと突き止め、国を立て直すために兄に挑んだ内乱。あのときあの女はそれすらも楽しんでいた。争いごとが好きな奴だったからな。その趣向によって陛下を放置しすぎたために大怪我を負って逃げ出したのだが……」


 クーデターも考えてみればティルミナにとっては歓迎すべきことだったのかもしれませんね。

 滅びゆく様がみたいのでしたら、内部で争っている様子もまた彼女にとってはその趣向を満足させる景色でしょう。


「私にとってあのときの経験はトラウマに近くてな。あの女の存在は恐怖の対象でもあったのだ」


「ライラ様……」


「シルヴィア、貴様はあの女の二度目の企みを見事に退けた。貴様のことは尊敬すらしている。だからこそ、此度のこの状況は貴様を失うのだけは絶対に避けたい。怯えさせて悪いと思っているが、私は貴様をなんとしてでも守りたいと思っている」


 ティルミナに対しての畏怖。そしてこの国の血なまぐさい歴史を目の当たりにした経験。


 ライラ様がこのように張り詰めているのにも理由があったみたいです。


 正直言って、とても怖いと何度も思いましたが彼女の心のうちを知って、ライラ様の優しさも知れたような気がしました。


「ライラ様、差し出がましいようですがティルミナを仕留めたのはわたくしですが」


 私がライラ様の言葉に返事をする前にイザベラお姉様が待ったをかけました。


 確かにティルミナに雷鳥の爪(ターミガン)を放って討伐したのは確かにイザベラお姉様です

 お姉様は私だけに感謝しているというライラ様に反発されているのでしょう。


「それがどうした? 貴様とアルヴィンの浮気を許した。それで十分に謝意は伝わったと思うが?」

「わたくしの功績に対する恩賞は確かにいただきました。ですが、その後も恩人としての敬意を払ってもよろしくなくて?」

「……ふん。貴様が国にさらなる貢献をすれば考えてやっても良い」


 挑発的なイザベラお姉様の言動ですが、ライラ様は大人の対応をされて受け流します。

 どうやら先程の国王陛下の言葉が刺さっているみたいです。

 そんなライラ様をお姉様にも見習っていただきたいと思いました。


「しかし、ティルミナを仕留めたと思っていたが、あのフードの女は何だったのだろうか?」

「イムロスの逃亡を手助けしたというティルミナと同じ顔をした女か?」

「双子、でしょうかね……。シーザーという妖者も双子みたいでしたし」


 死んだ者を蘇生させる方法は今のところニックの使っていた完全再生魔法しかありません。

 しかしながら、完全再生魔法はお祖父様ですら使えなかった特殊な魔法。再生魔法に古代人が敢えて施した枷を壊した、この世の理を超えた力なのです。


 それにイムロスに再生魔法が使える仲間がいるならば私に執着する理由もありませんので、その可能性は限りなくゼロに近いでしょう。

 だとすると、やはり別人だと考えるのが自然かもしれません。


「私としては死んだと思いたいな。あの女狐にこれ以上引っかき回されるのは我慢ならん」


 手をプルプルと震わせながら怒りを顕にするライラ様。

 もしもあの人がティルミナ本人ならイムロスよりもある意味では厄介でしょう。


 変身魔法や傀儡魔法は殺傷能力こそ小さいですが、悪巧みするにはもってこいの力です。

 きっとまた良からぬことに使われて私たちを苦しめることになるでしょう。


「仮説ですがイムロスはティルミナに出し抜かれていたのでございましょう? そのような信用ならぬ者を下に置くでしょうか?」


「それは分からんさ。力で屈服させた可能性もある。あの男からは異様な執着心を感じた。シルヴィアに対する、な。敵対していたとしても、利害関係が成立したなら協力くらいするかもしれない」


 フェルナンド様はイムロスの私への執着について語りましたが、あれは何なのか本当に理解できません。


 なんせあの人と私はほとんど初対面。勝手に愛など語られても困るのです。

 しかも私は自分を殺しかけた人間の孫です。普通なら憎んでいそうなものなのですが……。


「どちらにしろ、ティルミナ本人だと想定して動くくらいで丁度いい。楽観的に考えて足元をすくわれるというのはなんとも間が抜けた話だからね」


 フェルナンド様の仰るとおり、最悪を想定して動いたほうが何かあったときに冷静になれますよね。

 それにしても、この国に来てから休まるときがありません。増えるのは自作のパペットの数ばかりです。


 しかしライラ様は私に恩があると仰ってくれましたが、私も彼女には恩があります。

 お姉様の件を許してくれて、勘当になってしまった彼女を王宮で雇うように話をまとめてくれたライラ様に私は感謝しているのです。


 ですから、私もなんとか彼女の憂いを晴らして故郷に帰りたいと思っています。それが私なりの恩返しです。

いつの間にか連載開始して1年が経過していました。

展開やらキャラクターやらがの癖が凄いので

まさか書籍化するとは思っていなかったというのが正直なところです。

本当に皆さんの応援に助けられたと思っています。


4/15に第2巻が出ます!

正直、次が出せるかどうかは売上次第なので

何卒、よろしくお願いいたしますm(_ _)m

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