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67.謁見

 フェルナンド様の計らいによって、一時間ほどで国王陛下との謁見は叶いました。

 

「面を上げよ。マークランド辺境伯から、至急にと言われたが、昨日の妖者の件か?」


 初対面のときは豪快な方というイメージであったナルトリア国王はよく通る低い威厳のある声で私たちに語りかけます。

  

「陛下の仰るとおりでございます。賊の正体は妖者の王、イムロス。我が父、アーヴァイン・ノーマンが三日三晩の死闘の末ようやく討伐したという化物でありまして……」


「なんと! ノーマン伯爵は賊の正体を知っておったのか! だが、あの大賢者と死闘を繰り広げた妖者の王。なんとも逸話じみた話よのう……」


「はっ! この話は他言無用とされた話ゆえ、内密に願いたいのですが――」


 そこからお父様は先ほど私たちにしたのと同様のお話をしました。


 妖者の王、イムロスがとある国を滅ぼしかけており、それをお祖父様が阻止したという話をしたのです。


 国王陛下は黙ってお話を聞いておられました。


「――と、いうわけでして。イムロスは非常に危険な男なのです。ですからして、私共はノルアーニへと迅速に帰還する必要があります。イムロスが本気でシルヴィアを狙いました場合、さらに被害が甚大になることは目に見えていますゆえ」


 お父様は故郷であるノルアーニ王国へ帰還すべきだと言及されました。


 ナルトリア王国に迷惑をかけることは避けたいですが、今からノルアーニに戻るのも中々大変でしょう。


「被害が甚大だと? それでお主らはノルアーニへと帰国したい。そう申すのか? ノーマン伯爵」


「はっ! 仰せのとおりでございます」 


「笑わせるでない!」

「――っ!?」


 お父様がノルアーニへと帰国する旨を伝えると、陛下は大声で一喝しました。


 呆気にとられるお父様、私もフェルナンド様も陛下のあまりの迫力に顔を見合わせます。

 帰りたいという話の何が陛下の気分を悪くさせたのでしょうか……。


「お主らは我らを見縊っておるのか!?」


「はて、見縊っている? 恐れながら陛下。私めの卑小な想像力では陛下の心のうちが読めませぬ。それはどのような意味なのか教えてくだされ」


「ノーマン伯爵、よく聞くが良い! 国家の恩人を危険に晒すなどナルトリア王家の恥である! そのような話を聞いて、はいそうですかと受け入れられるものか!」


 これがナルトリア王家のプライドなのか私たちを帰すことが恥だと仰る陛下。

 つまりそれって、私たちを帰さないって言っているようなものですよね。


「父上、いえ陛下の意見に私も賛成です! シルヴィア・ノーマンはナルトリアの英雄! 彼女の安全が確保されるまで手厚く保護すべきかと!」 


「ライラよ! よく言った! 引き続きお前に警護の全責任を委ねる! 妖者の王だか、なんだか知らんが、シルヴィア殿には指一本触れさせるな!」 


「はっ! 万事、お任せあれ!」


 これは、ええーっと、このままライラ様の監視のもと私たちはこの国で守られながら生活する方向に既に「決まっている」のですかね。

 

「ぬぅ、どうすれば陛下は分かってくれるのであろうか……」


 お父様はうんざりしたような顔をしています。

 今までこんなにも困ったようなお顔を見たことはないかもしれません。


「ノーマン伯爵、ここは陛下のご厚意を受け入れるべきだ。両国の外交に関しては私に任せよ。シルヴィアの件でノルアーニに不利益は起こさせない」


「フェルナンド殿……。そうですな、せっかくの陛下のご厚意を無下にするわけにはいきませぬ。陛下の温情を慎んでお受けいたします」


「うむ。ノーマン伯爵、ご息女は大賢者アーヴァインの後継者となる器。ノルアーニ王国の至宝となるべき人材なのはわかっておる。丁重に扱うゆえ、安心して任されよ」


 過大評価がすぎますよ。ノルアーニ王国の至宝とは「辺境の聖女」以上に恥ずかしい呼び名です。


 ノーマン家の跡継ぎというか、魔術師といえばお姉様でしたし、私は無名もいいところでした。


 お父様にもそんな期待はされていませんでしたし、お祖父様の後継者だなんてとんでもないことです。


「よろしくお願いいたします。陛下の仰るとおり、イザベラを勘当した今、ノルアーニ王国としてもシルヴィアを将来の筆頭魔術師として扱うことになるのは間違いありませぬ」


「えっ?」


「だろうな。辺境伯家に嫁ぐとなれば、外交的にも強力なカードになりうる人材。ノルアーニ王国の将来を背負う姿が見える」


 なんか聞き捨てならない会話を続けているので、段々とお腹が痛くなりました。


 お姉様がいなくなったことで、お姉様の身代わりでフェルナンド様のところに嫁ぐことになったことで、ノーマン家に課せられた使命が全部私にかかるのですね……。

 

 私は自分の想像力のなさを嘆きます。


「大丈夫だよ、シルヴィア。私がついている。君が背負う荷物は私も共に背負う覚悟はできている」


「フェルナンド様……。ありがとうございます」


 たったの一言で私の憂いは霧散しました。

 フェルナンド様が一緒にいてくれるのです。こんなにも頼りになる方は他にいません。


 きっと私が困ったことになっても助けてくれるはずです。

 こうして私たちはこの国にまだ留まることになりました。


「ところで、シルヴィア殿。イムロスとやらの狙いはお主だけでなく、ニックやティルミナと同じく宝剣だと言っていたのは真か?」


「仰せのとおりです。陛下」


 私たちの処遇について決まったのち、国王陛下は宝剣について言及しました。


 フェルナンド様から宝剣には「大いなる力」とやらが宿っていると聞いています。 


 それが何なのかよくわかりませんが、悪用される可能性がある力だということは容易に想像がつきました。


「ふむ、なるほどのう。ならばお主らは知る権利があるかもしれん。ナルトリア王家に伝わる宝剣の秘密を」

「「――っ!?」」


 宝剣の秘密? それって、他国の人間である私たちが知ってもいい情報なんですか。


 いえ、この国の人間すらほとんど知らないらしいですし、そういった秘密まで知ってしまうのは憚れるのですが……。


「国王陛下、ノルアーニ王国の辺境伯として忠告します。国家の最重要機密を他国の者に教えようとするという行為は些か軽率ではありませんか?」


 フェルナンド様もそう感じたのか陛下に対して、進言をします。


 下手をすると一生この国から出てはダメだと言われかねませんから、やはりそういう話は慎重にしていただきたいです。


「フェルナンド殿、心配せずともよい。これはワシからお主らへの信頼の証だ。秘密を知ったとて口外はせんと信じておる。それが理由でお主たちを縛ったりはせんよ」 


「……そうですか。分かりました。ナルトリア国王陛下には二言無しと信じましょう」


 ナルトリア国王は曲がったことが大嫌いな方です。

 ここで私たちに嘘をつくようなことはしないでしょう。


 フェルナンド様がこちらを向いたので私は頷き、お父様もまた彼に同意します。

 私が再生魔法で直した宝剣。果たしてその剣にはどんな秘密が隠されているのでしょうか……。


「では話そう。宝剣には神が封じられている。その名は破壊の神“エミリオン”」


「は、破壊の神ですか?」


「左様。“エミリオン”の力は一瞬で地形を変えてしまうほど強力だ。大陸最大の湖“マール海”は知っておるだろう? あそこにはかつてマール皇国という国があった。エミリオンの怒りを買った結果、たったの一日で消えてしまったのだ」


 なんというスケールの話をしているんですか。

 マール海は大陸北部にあるので見たことはありませんが、地図で見て大きさは知っております。


 海だと見紛うほどの大きさでナルトリア王国とまではいきませんが、ノルアーニ王国よりも大きくて、国一つが確かに入る大きさです。


 ですが、だからといってですよ。国がたったの一日で消えてしまったというような恐ろしい話、とても信じられません。


「と言っても、その話は古の時代の話だがな。ワシも絶対にそうだと思えるほど信じとるわけではない」


「そ、そうですよね。そんな神様がいたら今ごろこの大陸はなくなっていそうです……」


「そのとおりだ。古代人もそう考えたのだろう。当時の発達した魔法文明のすべてを集約してなんと宝剣に神の魂を封じ込めることに成功したのだ。そして体を聖なる布で包んで砂漠の遺跡に何重もの封印を施した」


 再生魔法に破壊魔法、そして傀儡魔法や変身魔法といった禁術。その他にも数々の自然の摂理を超えた魔法を生み出した古代人たち。 


 彼らならその破壊の神とやらを封印できても不思議ではありません。


「ティルミナとニックの狙いはおそらく宝剣を利用して、“エミリオン”を復活させ、傀儡魔法で操り、この世に混乱を再び巻き起こすことだったのだろうとワシは推測しとる」


 な、なんという恐ろしい計画……。そんなことが叶ってしまっていたら、本当にこの大陸は二人の手に落ちていたかもしれません。


「神の体を復活させるための術式はワシの知っとる範囲では再生魔法のみ。だからこそティルミナはニックと組んでいたのであろう」


「宝剣を直させるためだけではなかったということか」


 さらに再生魔法がエミリオン復活に大きく関係しているという話を聞いて、フェルナンド様は私の顔を見ながら納得したような声を出します。


 そして、イムロスが私をまず確保しようとした理由というのもそのためですか。


 再生魔法がないと宝剣が直せないから、ではなくて神を復活させることができないから、私を狙ったということでしょう。


「ゆえにティルミナたちがことを急いだのはイムロスを出し抜くことが目的なのではないかとワシは推測しとる」


 なんだかすべてが一本の線につながったような気がします。 


 とにかく絶対に捕まってはダメですね。私が再生魔法を使った結果、大陸が破壊されるなどあって良いはずがありません……!

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