59.再生魔法の継承者
「辺境の聖女、君はそう呼ばれている」
「そ、そうですね。えへへ、何とも恥ずかしい話ですけどフェルナンド様の領地ではそんな渾名が付いてしまいましたね」
急に私のことを“辺境の聖女”などと真剣な顔をして仰るフェルナンド様のせいで私はワインを吹き出しそうになりました。
その名前で呼ぶのは勘弁して頂きたいところなのですが……。
辺境の地で過ごした短い時間で私が再生魔法を張り切って使ったが為に、過剰に持ち上げられてしまって、私は参ってしまいました。
こんなに恥ずかしいと思ったことはありません。
「だが、それは領民が勝手に呼び出した訳じゃないだろう?」
「ええ、そうですね。伐採された御神木を治したときに、山の主である神獣白狐がいきなりテレパシーをその場にいた全員に送ったことがそもそもの始まりですけど……」
辺境の地に着いてすぐの私は小さな事件に巻き込まれています。
御神木から力を得ている神獣によって、魔獣たちが大人しくなっている山が荒らされて、御神木が伐採された事件が起こったのです。
私とフェルナンド様はその山に登って、御神木と神獣白狐を狙った盗賊を捕えて、切られてしまった御神木を治しました。
すると、何故か白狐は御神木を復活させた私のことを“聖女”と呼び、それを聞いていた人たちが物凄い勢いで私のことを“辺境の聖女”だと広め回ってしまったのです。
「知っているかい? 辺境の聖女の噂は今、大陸中に広まっている」
「ええっ!?」
今、フェルナンド様の口からとんでもない事が聞こえたような気がします。
いえ、聞き間違いに決まっていますよね。あれは、ノルアーニ王国の辺境だけの呼び名で、まぁこちらの人もフェルナンド様の従者の方などに聞いてちょっと知っていますが、あくまでもローカルな話というか何というか。
そんな分不相応すぎる渾名が知らない間に大陸中に伝わるなんてあり得ません。
「前にも言っただろう? 再生魔法を使いこなして、大賢者アーヴァインにも勝るとも劣らない活躍をした君のことを世界は見逃さないって」
「それは聞きましたけど、私の中ではまだ先の未来の話というか何というか。実感のない話でしたので」
あの大きな戦いのあと、フェルナンド様に色々と大袈裟に褒められた事は覚えています。
私の力を求めて、世界中から声がかかるとか言われていましたが、今から目立たないようにしていれば間に合うかもとか思っていました。
退屈しない生活も良いと言ったのは本音ですけど、あくまでも適度にって意味ですし。
「君は御神木を治し、更に宝剣を直した。大賢者アーヴァインの代名詞とも言える再生魔法の継承者としての実力を二つの国で示したんだ」
「魔法を使って物を直しただけですよ?」
「だが、公式には再生魔法を使えるのはアーヴァインのみだったからね。どこの国の為政者も彼の力を欲していた。だから晩年の彼は王宮に身を寄せていたんだよ。国王陛下の命令によって。他国に取られないように」
そういうものなんですね。
だから祖父は王宮の魔術師として後進の育成などをされていたのか。父もイザベラお姉様もその事情を知っていたのでしょうか……。
「イザベラが君に大いに嫉妬した理由も恐らく君が再生魔法の使い手になったからだ。彼女はノーマン家の魔術師であることにこだわっていたし、何よりも大賢者の孫であることにプライドを持っていた」
「イザベラお姉様……」
そうかもしれませんね。
イザベラお姉様との距離を感じるようになったのは私が再生魔法を使えるようになってからでしたし。
「まぁ、イザベラの話は置いておいて。再生魔法の継承者として“辺境の聖女”シルヴィア・ノーマンの名前は広がり、さっそく君のことを欲する為政者たちがノルアーニ王国に使者を派遣し始めたのさ。陛下から転送してもらった書状を見るかい?」
フェルナンド様が懐から取り出されたのは何通もの手紙。
しかも王室や皇室など、その国の紋章が刻まれた大仰な書状ばかりです。
「この国に留まる理由はほとぼりが冷めるまでこちらに居たほうが君も精神的に疲弊しなくて済むってことだよ」
「ほとぼりが冷めるまで、ですか?」
「今、ノルアーニに帰ったら各国の大使や私と同じ辺境伯など、外交のプロフェッショナルと対話なりしなくてはいかなくなる。幸い、ナルトリアにまで、君を求めて使者を送るような図々しい者はまだ現れていないが」
それは嫌すぎますね。
まさか、こんなことになるとは思っていませんでした。
確かに再生魔法をこんなに使うようになったのは最近ですけど。
大騒ぎになるのでしたら、自重していたほうが良かったかもしれません。
「そして、ここからが大事な話だ。ニックの完全再生魔法が死者を蘇生させたという話も少しずつ広まってしまってな。良からぬことを企む連中も君を狙う可能性があるんだ」
「よ、良からぬ連中が私を? ええーっと、それって私も完全再生魔法が使えると思われているってことですか?」
「使える、もしくは使えるようになる資質があるってことかな。だから軽々にこちらを動けないんだよ。ノルアーニ王国に戻る道中に危険が伴うかもしれないからね」
「えー、そんなぁ」
そ、そんなのってありますか。
それじゃあ、私は得体の知れない人に狙われているかもしれないから、この国に実質軟禁されてしまったってことですか。
思ってもみない話を聞いて私は思わず不満そうな声を出してしまいました。




