20.意味が分かりませんわ(イザベラ視点)
まったく、看守たちは馬鹿しか居ませんの?
魔力を封じられて、足枷と手錠まで付けられて、牢獄を破壊することなど出来るはずがありません。
「こんなことも分からないなんて、王宮の看守たちの常識を疑いますわ」
「カーテンの裏で接吻しとった奴が何を言うとるか!」
「お、お父様……、それは、だって、アルヴィン様が……」
看守たちに呼ばれた憲兵たちが私を再び拘束して事情聴取。
途中で伯爵である父が訪れて、聴取に加わります。
嫌なことを言わないでくださいな。
シルエットで外から見えていたことは想定外なのですから。
このイザベラ・ノーマン、一生の不覚ですわ。
「ノーマン伯爵、ご息女の話では、賊は赤い目をした“破壊魔法”の使い手。十中八九、あの男ではないのかと」
「黒魔術師ニック・ノルアーニ。国王陛下の弟君にして、国家反逆罪で大監獄に幽閉された男が脱獄したとでもいうのか――」
ニック・ノルアーニ?
ああ、居ましたね……、そんな人も。
わたくしが幼い頃にこの国を乗っ取ろうとして、祖父に捕まったんでしたっけ。
で、危険人物ですが、王族の血を引いているからその血を穢すことになるという理由で死刑に出来ないと幽閉されていたとは聞き及んでいます。
「聞いていたよりも随分とお若い方でしたのね。そのニックさんとやら。私とさほど年齢が離れているように見えませんでしたが」
「「――っ!?」」
「お、お前、犯人の顔を見たのか?」
わたくしがニックとやらの顔が若かったと話しますと、お父様は驚いてこちらの顔を覗き込みます。
そりゃあ、わたくしはあの気に入らない黒フードに向かって火球を放ちましたからね。
顔くらいは見ていますよ。少々病的にも見えましたが、ギリギリ美男子と言っても良いのではありませんか。
「ええ、見ましたよ。好みのタイプではありませんでしたが」
「馬鹿者! そんなことはどうでもいい! ニックは陛下と一つ違いだ。その話が本当なら若返っていた事になる!」
「まさか、再生魔法を? いや、あれは人間には使えないはず……」
何を言っているのか全く分かりません。
確かにニックという人物、わたくしが幼少の頃に国家転覆を企んでいたのだとしたら、年齢的におかしなことになりそうですね。
若返る魔法――そんなのお祖父様もあの生意気なシルヴィアも使えなかった気がしますが。
「とにかく、だ。ニックがライラ殿下の命を狙っているのならば、その目的は一つだ。ナルトリアを刺激して、このノルアーニ王国に戦争を仕掛けさせること」
「ふーん。あの、黒フードの男はそんな大層なことを考えていましたの。で、わたくしにその片棒を担がせようとしたと。バカにしていますわね」
「お前のことをバカだと思っていたのは間違いあるまい。それに自分を捕まえた恨みがある父上の孫娘だからな。お前は」
なるほど。
お祖父様に捕まった恨みがあるので、わたくしを利用して濡れ衣を着せようとした。
やっぱり腹が立ちますわね。ちょっとキスしただけで、ここまでバカにされますか。
「至急、陛下に伝えてナルトリアに援軍を出しましょう」
「うむ。ワシが伝えに行こう……!」
「その必要はない!」
「「へ、陛下!?」」
おや、国王陛下自らがこのようなところに足を運ばれるなんて。
どうやらニックという者が現れたのは余程の事態みたいです。
「イザベラよ、ニックの顔を見たというのは本当か?」
「ニックという方かどうか分かりませんが、黒フードの男性の顔は見ましたわ」
「うむ。ならば、お前に最後のチャンスをやろう。ライラ殿下の命をその男を捕まえることに協力することで守りきり、彼女に誠意をもって謝罪するのだ」
「「――っ!?」」
まさか陛下がそのようなことを仰るなんて。
本当に緊急事態なのですね。
普通ならこんな特例は出しませんから。
でも、まぁ。チャンスですわね。こんな辛気臭いところから出るための。
「へ、陛下! 娘に寛大な措置を取ってくださることには感謝しますが、イザベラは――」
「わかっておる。だから、ラストチャンスだ。何かやらかしたとき、お前の命はないと忘れるなよ」
「……もちろんですわ。陛下の仰るとおりライラ殿下はお守りしましょう」
「ついでにシルヴィアにも謝りなさい。あの子にも危険が迫っているのだから、きちんと情報は伝えておくのだぞ」
ふふふふ、良いですねぇ。いい状況ですよ。この状況は。
誰がシルヴィアなんかに謝りますか。
あの女は黒フードの男に殺されてしまえばよろしいのです。
ライラ殿下はどうでもいいから、お守りするとして……これはあのムカつく妹への復讐のチャンスですわ――。
さらなるトラブルの予感……!
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