二十七話
そんな訳で一人一人別室に呼ばれて個人面談をする事になったわ。
その間は暇だろうとの事で鉢植えに入れられた見本を観察する事になった。
つまりこれを見つけたら採取して来いって事なんだとは思うのだけれどねぇ……。
持ち去られない様に教官以外で見張りの人が待機している。
こんな見本を見せる位なら採取の講習とかすればいいと思うのだけど……例えば安全な場所に連れて行って実戦形式の採取させるとか。
……この辺りは栽培とか出来そうだけど、どうなっているのかしらね?
「アマリリス、来い」
なんて疑問に思っている間に私が呼ばれたので個人面談をする為に隣の部屋に入る。
「座れ」
「ええ」
個人面談用の小さな部屋には椅子が置かれていて、私は椅子に腰かける。
「さて……先ほども言ったから理解しているだろうから聞く。お前はこれからどうやって迷宮に挑もうと考えている? どんな特技や武器を使うか、聞けば答えるぞ」
うーん……ロボットみたいな家宝の鎧で魔物を蹂躙していきます!
なんて言っても参考になる様な言葉が帰って来るとは思えないのよね。
私以外であんな鎧を着ている方を見た事ありませんし。
仮に居たとしても、それは屈強な戦士とかであって上級者のポジションよ。
全身甲冑を着て戦いたいです! が正解?
いえ、ここは別の……近接だったらどんな武器を使うのかかしら?
魔法だったらどの魔法を使うか。
レンジャーみたいに罠を解除するとか……そんな感じの事よね。
そういえば……メイって迷宮で罠を見つけて解除出来たわね。
気配察知も敏感だったし、リープッドって資格が無くてもレンジャーの資質が高いのかもしれないわ。
考えてみれば私に出来る事って鎧で戦う以外何もないわ。
……本格的に武器や魔法で戦う術を覚えないといけないわね。
「今すぐ出来る事は……ありませんの。ただ、何か出来るようになりたいと考えていますわ」
非常に申し訳なく、私は教官に相談する。
すると教官は何度も頷いた。
「うむ。そんな華奢な体じゃ剣もまともに長く振る事は出来なかっただろう。だが、今は段位の力がある。段位をどうにかして上げれば剣を振う事も容易くなり、習得も早くなるだろう。まずはどこかのパーティーに所属して、お前なりに段位を上げてもらうようにがんばれ」
おお……親身な対応をしてくれるのね。
何もできない女がパーティーにどうやって所属して段位を上げるのかは全く考えていないみたいだけど。
「そもそも段位4に至っているみたいだしな。何事も交流が大事だぞ」
「は、はあ……」
「まあ……問題は現在、お前等みたいなやつらが多くて迷宮の浅い所はどこも混雑していて、段位を上げるのも採取もままならん所だがな。ガハハハハ!」
ガハハハ、じゃないわ!
ここに落ちるの?
ちょっと問題ありすぎじゃない?
なんて割と適当な感じで個人面談は終わり、初日の訓練講習は終わったわ。
期待よりも遥かに酷い講習内容に疲れを感じてしまっている。
自動車講習の酷い教官に当たる事例なんかよりも酷くて適当な仕事をしてるわ。
聖女の役職を使って抜本的な改革を進言すべきなのかしら……と考えが脳裏を過るわね。
初日なんてこんな物か……あと二日もあるし。
……あと二日もこんな講習を受けないといけないの?
メイやアルリウス達が凄いんじゃないかと思えてきたわ。
「アマリリス様ー!」
講習を終えてギルドの受付のある場所に戻って来ると、メイが私を見つけて声を掛けに来てくれた。
「初級冒険者訓練課程はどうでしたかニャ?」
「時代は大冒険者時代! だそうよ。コソコソと地上で採取するくらいなら迷宮に行けって言われたわ」
「ニャー……」
あ、さすがのメイも酷い内容なんだってわかっているみたい。
「メイの時とは内容が変わっているようですニャー……ただ、メイの所も似たような事を言われたニャ。今まで行けなかった迷宮の深い所で採れる薬草を段位の力で採れるようになった。入手難易度の高い、本にのみ記された薬草が実在するか探せ! って言われたニャ」
時代の改革期って初心者や学ぶ姿勢のある者にとってはあまり良い時代じゃないのかもしれないわね。
上手くすれば簡単に昇り詰められるのでしょうけど、既存の知識が役に立たないのに学ばないと基礎が無いからわからないって段階……。
絶妙に学び辛い状況だわ。
前世を思い出す前のアーマリアだったら余裕で投げ出していたわね。
ただ、今の私は役に立たないかもしれないけれど、資格と最低限の知識がほしいの。
知識は力よ。役に立たないかもしれないけれど、覚えて損はない。
一応、薬草に関してわかったものもあるしね。
「それじゃ……帰ってアルリウス達と合流しましょう」
「はいですニャー……」
とまあ、メイと微妙な空気を纏ったまま、私達はギルドから宿へと帰ったわ。
宿に戻って待っているとアルリウス達もなんだかぐったりした様子で戻ってきたわ。
「おかえりなさい」
「ただいま。アーマリア殿、メイ殿」
「調査はどうだったのかしら?」
「うむ……実の所、かなり面倒な状況だと言うのが正しい。いや、これも活気があると言えば良いのかもしれないが」
アルリウス達の様子から私とメイは非常に嫌な予感染みた物を感じたわ。
だから先に尋ねる事にした。
「段位の力で活気づいていて、迷宮が人でごった返しているって話かしら?」
「アーマリア殿までもが知っているとなると、そちらも似たような状況だったという事か」
私の問いにアルリウス達も察したのか頷いた。
「段位の力の影響で無理が効く様になった、と今は人々が迷宮に集まり過ぎている。試しにドリイームの迷宮を調査しようとしたら入り口で長蛇の列が出来ていた。近隣で出現する魔物は魔素が凝縮するのを確認するなりそこに人が群がり誰が倒すか争うほどだ」
何そのサービスが始まったばかりのネットゲームみたいな状況。
いろんな意味で懐かしく思えてしまうわね。
「採集物の確保も似たように人々が所構わず毟って行ってしまって、簡単に見つからなくなっていますわ」
これはいろんな意味で面倒な状況になったわね。
命の危険がある迷宮って認識はどこにいったのよ?
段位を上げて物理で殴れとでも言う気?
思考停止して突撃する姿が容易く思い浮かぶわ。
「明日は他の迷宮の調査をしてみるが、あまり結果は期待しないでほしい」
「ニャー……」
「聖女アーマリア様に続けって階層主に挑むパーティーが争ったなんて話も出ていますわ」
うーん……確かにこれは大冒険者時代としか言いようがない。
あの教官も間違った事を言っていた訳じゃないみたいね。
「誰も居ない迷宮とか探して挑みなさいよ」
なんでこんなにも群がるのよ。
今までは命惜しさに安全第一だったんでしょ?
どうなっているのよ、世の中は!
「誰がこんな世の中にしたの!? 責任者は出てきなさい!」
「それはアーマリア殿だ」
……そうだったわね。
段位神ヴィムヌスを解放した功績は私だった!
「この話はやめましょう。不毛だわ」
「話題を強引に逸らそうとしている」
あー聞こえなーい聞こえなーい。
でも、ジト目のアルリウスはかわいい。
リープット特有の『見~た~ぞ~』って顔ね。
「とはいえ、怖いと恐れられ、魔物が出てくるのを抑えるための戦いをしていたギリギリの状態から人々が有利になったのですから、良い事だと思いますわ」
フラーニャは前向きね。
現状を考えると良いとは言っても私達にはあまり良くはないわよ。
「時代は大冒険者時代! とか言って、初心者訓練講習で教える事は大して役に立たないと教官が笑いながらぶっ放して来たわよ」
「それは……ギルドの者に問題があると思うのだが……」
「今までの常識が役に立たなくなっているって事でやけくそになっているんじゃないの? 一応、参考に出来そうな物はありそうだけれど」
私の結論にフラーニャが苦笑いをしながら答える。
「今まではドリイームの迷宮10階に潜れれば中級者以上、上級者を名乗ってもバカにされなかったそうですよ」
あそこって結構バカに出来ない難易度だったのね……。
初心者向け迷宮の割に難易度高いとか……いえ、階層主を抜けばそうでもないらしいけど。
ジェイドの奴、邪神の使徒だったからか本気で私達を殺しに来ていたのね。
「ですが、今はその上級者は15階層まで散歩感覚で簡単に行けるようになり、現在、より上に行く為に段位を上げて新たに入手した素材などで装備を新調している段階だとか」




