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二十六話

「ここが登録カウンターなのですニャ」


 メイの案内を受けた後、私はカウンターに近づいて受付の人と視線を合わせるわ。

 客とわかったのか笑顔で対応されるわね。


「いらっしゃいませ。ギルドにようこそ。ギルドの利用は初めてでしょうか?」

「いいえ、カードは発行してもらったのだけど、初級冒険者訓練課程は取っていなかったら受けたいのですわ」

「ではカードを提示してください」


 言われて私はアマリリスとしてのカードを受付に渡すわ。


「では初級冒険者訓練課程ですね……はい。定員も満員では無い様ですし、大丈夫ですね。では受講料を」


 しっかりとお金は取るのね。

 そこまで高額ではないので、まあ良いのかしら。


「これで良いニャ」


 メイが私の財布係なので、そのまま受講料を払ってくれる。

 もちろんアルミュール家が出していますわよ?


「受講料……確かに頂きました。カードをお返しします。では定められた日時に、ギルド1階右手奥の教室に行ってください」


 と講習のある日時が記された板を受付の人が見せてくれるわ。

 ふむ……どうやら初級冒険者訓練課程は三日あれば最低限は取得出来るみたいね。


 追加で細かい事柄まで教えてくれるオプションなんかもあるみたい。

 こっちの課程を習得した数によって中級冒険者訓練課程を受講する事が出来ると……。

 中級って割には薬草採取とか調合とか、所属している学校の口添えとかでも取れるみたいだけど。

 メイの場合はこっちで取得したのでしょう。


 で……ああ、初級冒険者訓練課程が開催される時間はすぐね。

 丁度良いから行きましょ。


「じゃあメイ、行ってくるわね」

「アマリリス様、メイが居なくて大丈夫ニャ?」

「ここはギルドよ? 危ない所を出歩く訳じゃないんだから、絡まれたって問題ないわよ」


 前に来た時は雑な対応をされたけれど、今なら問題ないでしょう。

 腐ってもアーマリアは美女なんだし、最悪色仕掛けでもしてどさくさにまぎれて逃げるわ。


「何かあったらメイを呼ぶわ。合流時刻は今日の訓練課程が終わったらで良いわね?」

「わかりましたニャ!」


 なんて感じでメイとも別れて私は初級冒険者訓練課程が行われる部屋に来たわ。

 室内には何人か冒険を夢見た子達って雰囲気の子供や若者が椅子に腰かけて、今か今かと待っているわ。

 きっと私もあの子達みたいな顔をしているのでしょう。

 とりあえず輪に混ざるのは……やめましょう。私にはメイ達がいるもの。


「うわぁ……すげー美少女。さすが迷宮都市は違うな!」

「おい、声を掛けに行けよ」

「待てよ。あれだけスゲーと逆に声を掛け辛いっての」

「勇気を出さなきゃ冒険なんて出来ねえだろ」


 なんて様子で夢見る初心者たちは私を見て噂話をしているわ。

 学園に入学した当初のアーマリアを思い出すわね。

 こんな感じで顔だけは綺麗だからみんなにヨイショされるのよ。

 悪い気持ちじゃないけどね。


「ちょっと! なに鼻の下伸ばしてんのよ!」

「いって! 良いだろこれくらい!」

「よくない!」


 まあ、この手の連中の中に混じる女子が注意して声を掛ける事が無かったりするのは良い所ね。

 ここで前世を思い出す前のアーマリアだったらその女子にトドメを差す為に雑談をしていた男子に向かって色目を放つ訳だけど、無意味な騒動を起こして何があると言うのか。

 得られる物なんて一時の優越感くらいなもの。


 なので面倒だからしない。

 だって……メイ達がいるから!

 私にはかわいいかわいいリープット達がいるのよ!


 なんて自己陶酔していると初級冒険者訓練課程が始まるのか教官みたいな人がやってくる。


「えー……これから初級冒険者訓練課程を始めるが、部屋を間違えた者がいるならすぐに退室するように」


 教官っぽい人がそう言ってしばらく待つが誰も出て行く事はなかった。


「誰も間違えていないんだな。ではこれから初級冒険者訓練課程を行う」


 カカっと黒板らしき壁に炭で文字を書きだす。

 この世界の識字率ってどんなものなのかしら?

 最低限文字は読めなきゃ依頼を受けるのも難しいから、ある程度読めなきゃ始まらないわよね?

 もしくは学がある者がリーダーをするのかしら?


「さて……まずは自己紹介だな。私はここのギルドで教官をしているルーノコールという者だ。ルーノ教官と呼べ。返事は?」

「「「はーい」」」


 みんなに返事を求めたので私も合わせては「はい」と答えておく。


「でだ……まずは冒険者としての仕事がなんであるかから始めねばならないな」


 とまあ、ルーノ教官は冒険者は迷宮やその近隣で取れる物資を手に入れて納品する仕事だと軽く概要だけ説明してくれた。

 この辺りはメイが教えてくれたものと同じね。


 迷宮周辺から得られる物資というのは、この世界ではかなり重要な代物で、食料なども賄っているんだとか。

 ただ、迷宮に入るのはハードルが高く、もっぱら迷宮周辺での採取業が今までの常識だったみたいね。


「新米冒険者が行う簡単な依頼は採取だな。主に薬草や木の実などを定められた量を探して納品する事だ。装備が揃うまでむやみやたら魔物と戦うんじゃない。で……もっとも簡単な薬草はこのトーンと、グリドンという木の実の採取だ」


 なんて言いながら教官が見本として鉢植えになった薬草とどんぐりみたいな木の実を見せてくれる。


「他にもあるが、わかりやすい物だとコレだという事を覚えろ。大体探せば見つかる」


 それだけどこでも生えているって事なのね。

 しかし……新人には懇切丁寧に教えてくれるのね……犯罪流刑者とは扱いの違いにめまいがしそう。

 やっぱり迷宮に入って死ねって事だったのね。


 とにかく、あの薬草は知っているわ。

 迷宮でメイが採取していたし。

 安いからって数本しか持っていかなかったのを覚えている。

 きっとほかにも使える物があるのでしょうけど、今回の講習では教えてくれなさそうね。


「むやみやたら引っこ抜いて持ってくれば良いってわけじゃないぞ? 正しく処理しないと買い取れない物も多いからな。新米だからこそ、ここは意識しないといけない。これこそが新米冒険者が行う下積みなんだからな」


 なんて感じで採集物は大事にしろと教官は熱く語っていく。

 後は陣形やパーティーでの役割なんかの確認ね。

 前衛中衛後衛でしっかりと役割を認識し、生きて戻って来る事を視野に入れた情報収集を心がけするようにって感じだったわ。


「と……まあ、前置きは置いておいて」


 ん?

 なんか教官の様子が何か変わった様な気がする。


「ここまでは段位神ヴィヌムス様が解放されるまでの初心者達への講習だった訳だがな」


 バン! っと教官は机を叩いて興奮冷めやらぬといった目を輝かせてから息を荒くして喋り出した。


「神様が解放され、古に失われた段位の力が世界を圧巻しており、全てが手探りな状況だ。だから役に立つか分からん!」


 わからないの!?

 いや、きっとこの程度で段位の影響はないと思いたいわ。

 割と普遍的な常識みたいな基礎だった様に思えたもの。

 段位神ヴィヌムスが解放されて段位があるからと言って、ここまで変わったらおかしいじゃない。


「時代は今! 大冒険者時代! より良い物が迷宮で採取できる! 地上でこそこそするくらいなら迷宮の浅い所で段位上げのついでに魔物の素材や迷宮内で見つかる良い薬草を探せ!」


 この世の全てでも置いてきたのかしら!?

 なんでそこまで極端な!


 なんて激しいツッコミを入れたい衝動を堪えておく。

 まだ何か言いたいみたいだしね。


「それでだ。お前等はそれぞれ自身の特技や持っている武器なんかがあるだろう。各自で相談に乗ってやるから順番に隣の部屋に来るように」


 個人面談になる訳ね。

 何だろう。

 非常に長い前置きをされた後、この前置きは役に立たないと本人に言われた気分。


 ……この講習はなんだったの?

 依頼の受け方とか素材の採取とかに関しては無駄じゃないと思いたいけれど。

 よくわからない植物とかは根毎持ち帰った方が良いとか、自らで地図なんかを記しておくと良いとか色々と為になる知識は知れたし。


 マッピングとかは重要よね。

 メイの話だと迷宮の地図自体は売っていたりするみたいだけど、自分でやるのも重要よね。

 ……あれ? メイって確かマッピングやっていた気がするわ。

 フラーニャもその辺りを迷宮に潜った際にメイと情報交換していたし……私がやるより正確そうよね。


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