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二十五話

「さて……これからどうするべきか。ギルドに行く前に、まずはアーマリア殿が迷宮都市に舞い戻った事を伝える為に教会の方へ行くべきか」

「あまり気乗りしないけど、挨拶はしておくべきよね……」

「随分とアーマリア殿は否定的なのだな」

「まあ……色々とキナ臭い事柄が渦巻いているのがわかっているもの」


 良い様に利用されない様にしないと、食い物にされるのはアーマリアとしての私が理解している。

 上手い事立ちまわらないとね。


「後はそうね。この際、公の場以外では別の名で呼んでもらった方がいいかもしれないわ」


 我ながら名案ですわ。

 貴族がお忍びで迷宮都市で冒険者をしているなんて、ちょっとした英雄譚で語られそうな話じゃない?


「それじゃあメイ、みんな、私の名を語るのに困りそうな時、私の事はアマリリスと呼びなさい」


 なんとなくパッと思い浮かんだフレーズね。

 アーマリアって確かスピナーハンドが神聖な意味を込めて名付けたはずだったから、その反対に、邪悪……性根は腐っている女という側面を意識してリリスからアマリリスと名付けたわ。


 アーマリアは前世的に、マリアに鎧を付けた様にも感じる。

 前世でマリアというと聖母様を思い浮かべるから、悪役令嬢である私には似合わない様な気がしていたの。

 しかし、アルミュール家は本当に鎧って単語、好きよね。


「わ、わかりましたニャ」

「アルリウスと似た名でごっちゃになりそうですわ」


 そうですわね。

 ただ、これほどぴったりとアーマリアの性根を現した名はないと思うの。


「確かに似てるわね。じゃあアルリウス、改名なさい」

「私の方が名を変えないといけないのか!? 悪いが断る!」


 あら? アルリウスは私の提案を迷いなく断ったわ。

 貴族だし聖女として認定されている私の命令を断るとは……とても勇気があるわ。

 いえ、身の程知らずね。


 でも、だからこそ気に入ったわ。

 下手に顔色を伺って改名を受け入れられるよりはるかにマシよ。

 スピナーハンドみたいに!

 リープッドという点で全てを許してしまえるわ。


「ならしょうがないわね。偽名はそのままに混乱しない様、努力しましょう」

「何故上からの物言いで妥協されたのか理解に苦しむが……」

「アーマリア様はそれだけ偉いのニャ。感謝するのニャ」

「偉いのは理解できるが……」

「そういえば私達はアーマリア様と一緒に神様を解放したのに栄誉はそこそこでしたね」


 ここでフラーニャが真理を言ってしまったわね。

 私が代表して聖女という地位を独占してしまっているのも問題があるのは事実。


「教会側も従者として私達を認識していました」

「そこはしょうがない。事実、邪神の使徒を倒したのはアーマリア殿なのだ。私達は同行していたにすぎない」


 アルリウスはこの辺りは謙虚ね。

 前世を思い出す前の私がそんな状況で助けられて、その相手だけが利益を得たら文句を言うわよ。

 潔くて好感が持てるわ。


「むしろ私達はアーマリア殿の仲間だからとカードに優遇特典を記載されている。文句など言えん」

「あら? そうだったの?」

「そうニャ! メイが使い魔学校の卒業資格とエリート資格を得たのと同じニャ」


 一応報酬はもらっているのね。


「とにかく、あんまり聖女聖女と騒がれてはこれからの活動に支障が出る場合もありますの。時と場合によって名前を使って行く方がこの先、効率的に動けると思いません?」

「一理ある。わかった。ではアーマリア殿が聖女だとバレたら困りそうな時はアマリリス殿と呼ぶとしようではないか」

「ニャー」

「わかりましたわ」


 そんな訳で私は場合によってアマリリスと名乗る事にしましたわ。


 なんて話をしながら私は教会に出向いて挨拶に行ったのですわ。

 すると大司教の姿はなく、その配下っぽい司祭が相手をしてくれた。

 教会にある応接間で座ったまま対談をする感じで話をする事になりましたわ。


「教会にようこそ、聖女様。大司教様はまだ外交に出ております。大司教様に御用であるなら急便で召還致しますがどういたしましょうか?」


 これはチャンスね。

 今のうちに色々と提案してみましょう。


「迷宮都市でこれから私も冒険者として活動したいのですわ。ただ、自由に行動もしたいので教会での聖女のお役はお断りしたのだけれど、良いかしら?」

「承知いたしました。聖女様がご自由に活動したいとの意思、教会はしかと受け取りました」

「それとですわ。ギルドで私が聖女として無駄にあがめられて妙な期待をされても面倒だから、私のカードを他にも発行出来ないかしら?」


 無理かもしれない提案をしてみるわ。

 偽造ってわけじゃないけど、お忍びの貴族としてもう一枚カードが欲しいのよ。

 出来る技能は同じようにして、一般人やカード提示に誤魔化せる奴。


「少々お待ちを……はい、出来ますね。段位は神々の加護なので誤魔化す事は推奨出来ませんが他は問題ありません」


 言ってみる物ね。出来るみたい。

 聖女の立場って本当に便利だわ。


「ではカードに記す名前はどのような物にしておきましょうか?」

「アマリリスでお願いするわ。それと、聖女として持ち上げるのは良いけれど、私に迷惑が掛らない様に広報は十分に注意してほしいわ。発行するカードも、一番低いランクで良いわ」

「当然でございます……カードのランクが低くてよろしいので?」

「ええ、私は運よく段位神ヴィヌムスを解放したに過ぎないわ。何より迷宮への経験が薄いもの。偽装にもそれくらいが丁度良いと思わなくて? それに一緒にいる者達が補佐してくれるもの」


 なんて感じでしばらく待っていると、司祭っぽい者の所にカードが届けられて私に手渡されましたわ。


「こちらでよろしいでしょうか?」



 Fランク 段位4 アマリリス



「ええ、これで良いわ」


 良い感じに立場を偽装出来るカードを発行してもらえたわ。

 しかも公式に偽装を許可されているのだから犯罪者が誤魔化しそうなカードとは完全に別のはずよ。


「何かあったら遣いの者を出しなさい。出来る事なら協力は惜しまないわ」

「聖女様の慈悲に感謝を……」


 なんてやり取りをしてから私は教会を後にして外で行動していたメイ達と合流しましたわ。



「もう一枚、カードを発行してもらえたわ。これで私は聖女ではなく、冒険者ね」


 みんなにアマリリスのカードを見せながら言った。


「ではこれからギルドの方に行き、講習の手続きをするのだな」

「ええ、少なくともこの真っ白なカードに出来る事を記していかないと悔しいですわ」

「では案内するのニャ! ア……マリリス様ニャ!」


 今はどっちの名前で呼んでも良いけどメイは素直で良いわね。

 その反応だけで暖かな気持ちになれる。


 という訳で私達はギルドに向かった。

 ギルド内は、私が犯罪流刑者として入った時よりも賑わいを見せている。

 掲示板には色々と依頼が掛れているみたいね。

 どんな依頼があるのかわからないから、ちょっと確認してみましょう。


 ……


 …………


 ………………


 魔法が使える者、大募集!

 アットホームなパーティーです! 最低段位10 二名募集中!

 強固な守りが出来る者募集中! 皆を守るパーティーの要です! 段位が低くても育てます。要強固な鎧を持参している者、面接あり。

 罠を解除できる者を求む! 君の手がパーティーを救う! 中級以上のレンジャー修了課程所持者のみ。



 求人広告か!

 なんというか、アルバイトとか会社の求人みたいな募集ね。

 どこの世界でもここは変わらないの?

 なんて感じで薬草や素材を採ってこいって依頼は少なくて人員募集の張り紙ばかり。


「依頼よりパーティー募集ばかりであるな」

「それだけ賑わいを見せているという事なのかもしれないですが……ハードルが高そうです」

「確かにそうね」


 私は家宝の鎧があるから守りを募集している所には厄介になれそうだけど……随分と入念なパーティーを組む方向で進んでいるのね。

 効率の良い魔物退治で段位を稼ごうとか、そんな考えなのかしら?

 一人でコツコツするよりも良いって事なのかもしれないわね。


 ちなみに私は家宝の鎧を脱いで来ているわ。

 あの鎧を着ていると無駄に目立ち過ぎるもの。

 別人としてギルドに来ているのだし。


「アマリリス様、こっちニャ!」


 なんて賑わいを見せる掲示板を見ている私達を無視してメイが行くべき場所へと案内しようとしてくれる。


「ではアマリリス殿、私達は情報収集と学習の為に別行動をする」

「ええ、よろしくね」


 アルリウスとフラーニャが私とメイを見送り、別行動に行ってしまった。


「じゃあ案内してちょうだい、メイ」

「はいですニャ!」


 という訳で私はギルドの建物の入り口から少し外れたカウンターに案内されたわ。

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