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二十四話


「ともかく早く迷宮都市に入りましょう。正直、私は二日しかこの都市を堪能しておりませんの」

「冷静に考えると凄い話だ。わかった。では行こう」


 という訳で私達はその足で迷宮都市に入ったわ。

 そうして前に泊った宿屋に戻って来たのですわ。

 メイが交渉をすると宿屋の店主は快く部屋を提供してくれました。

 金銭に関しては家からそこそこ持ち出せたので、数カ月は借りる事が出来ますわね。


 ここは良い宿ですわ。

 何せリープッドが多く泊っていますもの。

 家宝の鎧を前と同じく裏の馬小屋に設置して、メイの部屋で皆で休む事にしたわ。

 少し昼寝とばかりに休んでからの行動ね。

 ちなみにリープッド族は夜目が効くから夜間でも平気で出歩いたりする。


「どうにか二部屋確保出来ましたニャ。やっぱり現在、冒険者が増えて活気づいているそうニャ」


 段位神ヴィヌムス様々って訳ね。

 冒険者達の乗り遅れない様にしたいって考えはわかる気もするわ。

 けれど……。


「冒険者って今までどんな扱いだったのかしら? 正直、ピンとこないのよね。犯罪服役者として私はやらされていただけだもの」

「ニャー……」


 メイがここで少し視線を逸らし気味にアルリウスとフラーニャに助けを求める視線を向ける。

 まあ確かにこの二人に聞くのが無難でしょうね。


「正直に言えば……命の危険に対して対価はあまり良くない職種であるだろう、というのは経験が浅い私でもわかる事だった。その職務に従事させて9割も没収など、間違いなく殺しに来ている程、アーマリア殿の立場は酷い物であった」


 そう言われていたわね。


「それが現在、段位を上げることで今まで難しかった仕事が簡単に出来るようになって来ているのニャ。浮浪者も食べるに困らないかもしれない、と夢を抱く程度には生活が豊かになってきたのニャ」


 段位神ヴィヌムスの恩恵って大きいのね。

 だからこそ、私が聖女として持て囃されて評価の一人歩きまで始まっているのでしょうけど。


「なるほどね……」

「私達はアーマリア殿の偉業でランクもそれなりに上げてもらえたので依頼自体は受けられるだろう。金銭の調達には困らないと思いたいが……」

「さっき武器の売買の金額を見て目玉が飛び出るかと思ったニャ。高騰が凄くて装備を揃えるのに苦労するはずニャよ」

「大変ですわね」


 と三人のリープッド達の相談する姿に心を癒されつつ、考える。


「お金の事なら私に任せなさい」


 ほとんどアーマリアの人格で言った。

 そう、悪役ではあるがアーマリアは公爵令嬢である。

 金銭なんてあって当たり前。

 欲しい物があれば手元にあるのが自然であり、金銭を数えるという工程すら必要ない地位なのである。


 更に今回は聖女の地位まであるわ。

 メイ達にお金の苦労をさせる事なんてありえませんの


「お店で一番良い装備を買っていきましょう」

「ニャア……」


 メイが若干引いている。

 ちょっと悪役感出し過ぎたかしら?


「それは助かるが……」

「アーマリア様、輝いていますね」


 アルリウスは困った顔をして、フラーニャはよくわからない事を言っているわ。

 そこで、ふと……ある事実に気づいてしまった。


「ところで皆、色々とカードに記されているわよね」


 そう、メイにしても何にしても資格を取っているのか、カードの経歴には色々と記載されているにも関わらず、私のカードは聖女って称号をもらった以外は碌な物が書かれていない。

 ランクなんて数字すらない。


「どうやったらその記載は増えるのかしら? メイ、知っているかしら?」

「ニャ? メイの場合は使い魔の学校での資格を実技で証明して示してもらったのと、講習と試験を受けて冒険者の試験を修了させたのニャ」

「私も剣術に関してはギルドで証明した」

「ええ、魔法を使える事を証明したらカードに記して貰えましたわ」


 なんでしょうね。

 みんな特に気にする事なく記載する方法を教えてくれるけど、私は剣も魔法も碌に使えない、家柄だけが取り柄の女よ。

 まあ、さっきみたいにお金でなんでも解決出来そうだとは思うけれど、お金で解決出来ない事をしようとしている訳だし……悩ましいわね。


「じゃあ私がギルドに赴いたとして、どう資格を記してもらえるかメイはわかるかしら? 鎧を使う資格ってある?」

「ニャー……」


 メイが困った様に俯いて考え始めてしまう。

 うん。改めて思うけれど、私……そう言ったわかりやすい物が何もないですわね。

 鎧は確かに強力ではあるけれどカードに記してパッとわかる資格とは思えない。

 何より、私以外にあのような鎧を所持している者は見た事がない。


「あまり気にしなくていいのではないか? メイや私達が間に入れば問題も無い。ただ……アーマリア殿が他の冒険者とパーティーを組む際には困りそうではある」

「確かにそうね。でも、私、あなた達以外とパーティーを組む気はありませんの」


 可愛いリープッド達三人とは別のパーティー? 考えられませんわね。

 いえ、他にリープッドの冒険者が居るのなら考えても良いかもしれないわね。

 でも当面はメイとアルリウス、フラーニャと一緒に行動したいですわ。


「なら気にしなくて良いだろう。アーマリア殿は特別なのだ」


 元々特別よ、というフレーズが浮かんできますわ。

 アーマリアの自尊心の高さがわかる瞬間ね。


「でも、ちょっと悔しいですわ」


 これも貴族のプライドという奴ですわね。

 前世を思い出す前のアーマリアからしたら、何もしない、出来ない、カードが真っ白である事が貴族としての誇りだったのでしょうが、今は違うわ。

 武術にしろ魔法にしろ、私も何か資格が欲しいのですわ。


「この真っ白なカードに何か記しておきたいですわ。じゃないといたずら書きをしますわよ」

「……アーマリア殿は子供か何かなのか?」


 アルリウスが内緒話をフラーニャばかりに話していますが聞こえてますわよ!


「ニャー……」

「初級冒険者訓練課程なら数日で取れますので、まずはここから始めるのはどうですか?」


 フラーニャがここで提案するとメイがハッとした様な顔をしてフラーニャの方を見る。


「そんニャ……冒険者の知識はメイがアーマリア様に教えて褒めてもらう事ニャ……」


 ああ、困った時に私がメイに尋ねる事が、メイに取っての誇りだったのね。


「メイ、落ち込まないで。私も最低限の知識はほしいのですわ。いつまでもメイにばかり甘えてはいけない。メイの手を煩わせるのは私が私を許せないわ」

「ニャー……」

「メイにはもっと難しい事で、困った時に教えてほしいの。それじゃダメ? いつまでも私が世間に疎いと、いつか皆に迷惑が掛るから嫌なの」


 そう諭すとメイは顔を上げて言った。


「わかりましたニャ。じゃあメイももっと勉強して上級冒険者訓練課程をしっかりと修得するニャ! 使い魔学校の卒業資格という中身のない履修課程とは違う資格を取るニャ!」


 メイもやる気を見せている。

 何をするにしても知識や技術は必要だもの。

 資格はあるに越した事はないはずだわ。


「それではアーマリア殿達が訓練をしている間に私達は街で噂などを集めてくるとしよう。段位神ヴィヌムスが解放された影響で近隣の状況がどうなっているのかがわからない。それに邪神の使徒の動きも調べねばならない」

「二人とも大丈夫? 記憶喪失なんでしょう?」

「もちろん手探りではあるが、何もせずにいるよりはマシだ。メイ殿の知識や顔の広さには負けるかもしれないが、私達も冒険者としての経験と心構えを学ばねばならないのだ」

「とは言いますが、メイさんが修了している中級試験の勉強を兼ねた行動ですわ」


 フラーニャがアルリウスを話を噛み砕いて答える。

 結局みんな資格……知識を手に入れた方がこの先、効率的に動けるのがわかっているって事ね。

 金銭に関しては余裕があるし、良いと思うわ。


「それじゃあこれから私達はより躍進をする為に知識を集めに行くわよ!」

「ニャー!」

「うむ!」

「はい」


 なんて感じに迷宮に挑む前の準備を十分に私達はする事にしたのだった。


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