十九話
えー……つまり段位。
わかりやすく言うとレベルとかそう言った代物が大昔に失われていて、みんなレベル1でどうにかこうにか生活していたけれど、それが解禁される事となった、と。
そりゃあ、興奮もするか。
これまで苦戦しながらやっと倒していた外敵を容易く屠れる技術が見つかった様な物で、世界基準で配布されているのだし。
「しかし、この様な技術がいきなり広まった際には世界情勢が混乱しそうな問題であるが……」
アルリウスがここで難色を示すように呟く。
確かにそうね。
アルリウス、広い視野を持っているわね。
「確かにそのような問題がないとは言いません。ですが、邪神の復活が囁かれ、魔物によって多くの村や町が脅威に曝されている今の時代には余計な心配事……貴族や王はこの現状に目を逸らしていたにすぎません」
「そういう物か……確かに争うべき時ではないのであろうな」
納得しちゃったよ。
まあ利点の方が多いでしょうし、良いんじゃないかしら?
「それでは現在……」
「はい。迷宮は戸惑いを見せると同時に活気づいております。段位がほんの1つ違うだけの僅かながらでも力の違いを把握する者が出て来ています。人類の未来は開かれました。新時代の幕開けなのです。各地の迷宮の攻略最深階層も更新されるのは時間の問題でしょう」
確かメイの話だとドリイームの迷宮の10階の階層主は中級冒険者が準備しないと無理って話だったはず。
これが初心者冒険者でもがんばれば倒せるって相手になったら……当然驚くべき進歩になるわよねぇ。
私達ったら凄い事をしちゃったのね。
「そもそもアーマリア様の罪状に関しても再調査が現在行われており、その罪に関して疑問視されている箇所が確認されております」
大司教が何やら羊皮紙を広げて私の罪科の確認を行っている。
「私は自身の欲望と衝動の赴くままに罪を犯したのは事実ですわ」
「そう自らを戒めるのは素晴らしい想いであるのは認めます。ですが、善行を罪と断じてしまうのは裁いた側の罪となる事をご理解してください」
「はあ……」
どうもピンとこない返事ね。
「アーマリア様の罪として数えられる数々の者達を誘拐し監禁、人身売買を行ったとの件なのですが、この人身売買をされた被害者である者達からの異議申し立てが段位神ヴィヌムス様を解放する以前から寄せられていたのです。それを国やギルド等の関係者は握りつぶしていた様です。これは許し難い罪なのですよ」
それってつまり、私が保護して治療してから人手を求める方々に保護したリープッド族を売った事……かしら。
「ニャー! アーマリア様はお優しい方なのですニャ! みんなアーマリア様をお助けしたいと思っていたのニャ!」
「このように被害者であるはずの者の声が正しく届かずに、不相応な罰を下された事実を、教会は重く見ているのです」
「あー……いえ、強引な手段に講じ、監禁して売ったのは事実ですわ」
「ですが……アーマリア様の行動によって救われた命があったのも事実なのです。これは減刑に相当するはず。なのに罪として数える等、言語道断。現在、告発者の声を大きく発した首謀者の炙りだしを行っている最中です」
「告発者は……一体誰だったのかしら?」
「どうやらアーマリア様の保護活動から逃げ出した者が国に報告をしていた様ですが、アルミュール家の権力を恐れて握りつぶされたのを拾って来た様です。告発者を捕えて罰を下さいますか?」
「……いいえ、生きているなら罰してはいけないわ。どうか許してちょうだい」
「承知いたしました」
この話から考えるに、私が保護……捕えたけれど脱走をしたリープッドが逃げた先で国に報告した案件ね。
アーマリアの記憶の中でもあるわ。
リープッドの中には治療中に隙を見て逃げてしまった子が何名か……。
おそらく生き残りでしょう。
生きているなら安心よ。出来れば幸せになっていてほしいわ。
「神は許す為に試練を授け、アーマリア様はそれを乗り越えたのですよ」
「私の罪が償われたという事なのはわかったわ」
「ええ……それとギルドに関しても監査が入る事になりました」
「何かあるのかしら?」
「はい。まず犯罪服役者が支払う労働報酬の徴収量に問題がありましてな……徴収量9割は幾らなんでも法外であり、その実態ですね」
なんとも手の早い話ね。
「本来、どれだけ罪深い者であろうとも、限界徴収量は5割であるはずなのです。そうでなければ償いを出来る余裕さえないのですから」
あらま……確かに酷い量を取るなぁとは思いはしたけれど、これが常識なんだって思っていたわ。
要するにバレない様に中抜きしていたと。
「迷宮都市近隣から出る事は叶わず、奉仕活動として命の危険のある迷宮に挑み、人々の生活が豊かになる物資を献上する。これだけの労働をしているのにも関わらず、更なる賠償を要求していたのは……ギルドの者達でした。特に元貴族からの徴収は苛烈だったようですね」
大司教の話では権力を持つ貴族への個人的な恨みをギルドの者は持っており、所属を余儀なくされた元貴族の罪人から、家からの持ち出しの品を売却した際の金銭を得るため、その徴収量を増額していた、という慣習が明るみになったんだとか何とか。
いや、正確には見過ごされていたに違いないわね。
私達の功績でここにメスを入れざるを得なくなったに違いない。
現在、ギルドは桶をひっくり返したみたいに目を白黒させてそうね。
あの横柄な態度を思い出すに胸がスッとする様な心境よ。
「それじゃあ、アーマリア様のお仕事の報酬はどうなったニャ?」
メイがワクワクした様な顔で尋ねると大司教は微笑む。
「もちろん全物資をご自身の好きなようにお使いになって結構です。アーマリア様の罪はもう償われたのですから」
「やったニャー! アーマリア様はこれで放免されたのニャー!」
メイがピョンピョンと喜びを身体で表している。
罪が放免されたのは良いけれど、まだ償いの仕事をし始めて僅か二日だからピンとこないわね……。
とにかく、可愛らしいメイの姿に心を癒されておきましょう。
自然と笑みがこぼれるわ。
「じゃあ今回の報酬は山分けになりそうね。アルリウス、その剣は貴方が使ってちょうだい……と私は思うのだけれど、みんなはどうしたいのかしら?」
「メイはアーマリア様の仰る通りで良いと思うニャ」
「私も異論はないです」
メイとフラーニャが揃って同意してくれた。
アルリウスは風斬りの剣を取りだして私達を見る。
「わかった……みんなの気持ちに感謝をする。その代わり他の品々に関して私は辞退しよう」
という訳で、ギルドに献上するのが惜しかった風斬りの剣を正式に入手する事が出来たわ。
他にも銀貨とかも取られる事無く手にした。
結構な大金よね。
いえ、公爵令嬢からすればはした金だけれど。
「更に聖女の称号を教会はアーマリア様に授ける事が決定しております。カードを……」
言われるままに私は大司教にカードを差し出す。
すると大司教はカードを受け取り、祭壇に掲げてから祈る。
パァアアア……っとカードになんか光が差し込んだみたい。
それから大司教は祭壇から私のカードを取って、私に返却された。
念のため確認。
―ランク 段位4 アーマリア 聖女
聖女って項目が追加されているー!
露骨すぎませんかね?
こんなのを身元説明に提出するのってなんか恥ずかしい気がする。
免許証の顔写真がプリクラみたいな感じ。
ただ、聖女って項目……称号に悪い気はしないわね。
何故って?
私が神聖な存在だってアピール出来るからよ。
と、なんかアーマリアとしての思考が満更でもないと気に入っている。
もっと謙虚な姿勢でいた方が良い様な気もするから悩ましいわね。
「後はそうですね。ギルドに所属していた聖女様の監視役を務めていたジェイドが邪神の使徒……世界の敵であったので聖女様の罪にはならないでしょう。むしろジェイドは邪神の力を使っていたからこそ、ギルド内で権力を持っていたと思ってよろしい。ギルドの改革の時代になりました」
いろんな所が変わっていく事が確定しちゃったんだなぁ。
こういう状況って滅茶苦茶恨みを買ってそうで怖い。
「それと……アーマリア様に不埒な対応をした騎士、ギルド職員がおりましたので連行しております」
大司教がそう言うと教会の関係者らしき者達が、私にきつい言葉を投げかけた者達を連れてくる。
全員顔が真っ青で、今から処刑される死刑囚みたいな顔をしてるわ。
あ、迷宮前の見張りをしていた兵士も一緒ね。




