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十二話


「ニャ! アーマリア様、あのような態度を許して良いのですかニャ? 凄く怠慢な対応だったのニャ」

「しょうがないわよ。犯罪者になんか本来は関わりたくないって普通は思うわ」

「フシャー!」


 怒りを露わにするメイを宥めつつ、移動を開始しようと歩き出す。


「しかし……いきなり階層主に挑めなんてハードルが高過ぎだニャ。階層主に挑むなんて装備が潤沢なパーティーが必要であるはずだニャ」

「ちなみにドリイームの迷宮10階の階層主って、どれくらいの冒険者が挑むのかしら?」

「中級冒険者ニャ。いくら初級と言っても階層主はそう簡単に倒せる相手じゃないのニャ。その分、倒した際に得られる報酬は破格だって話ニャ」

「つまり中級冒険者なら勝てるって事なのね」

「連携の取れた中級冒険者という言葉が付くニャ……アーマリア様とメイじゃ足元にも及ばないし、戦死するのが目に見えているニャ」


 確かに……言っては何だけど迷宮都市二日目でいきなりボス討伐をしろと言っている様な物だ。

 物資は心許ない。

 しかも金銭は九割持っていかれる酷い状況なので補給もままならない。

 仲間も得られないし、九割も報酬でもっていかれる相手をパーティーに入れる冒険者なんて皆無。


 ……完全に殺しに掛っている酷い状況だ。

 家柄の力で支えるとかも許可……されているはずないだろう。

 メイが個人で私に力添えをしているってだけで見逃されているのは容易く想像できる。


「そう悲観するのはよくないわ。まずは行けるか確認しましょう。家宝の鎧があるじゃない」


 この家宝の鎧さえあれば階層主の討伐が出来る可能性だってない訳じゃない。

 何せ5階まで遭遇した魔物をパンチやキック一発でミンチにしてしまった凶悪な鎧だ。

 10階程度のボスなんて一人でだって戦えるかもしれない。

 そう思う事にしよう。


「確かにアーマリア様はとても強いですニャ。ですが危険なのは変わりないニャ」

「これが私の罪……素直に償う為に行動するのみですわ。例え貴族でなくなったとしても高貴でいなければいけないのよ」


 なんか良い事を言った様な気がする。

 悪役の癖に多少の美学はある様だ。


「アーマリア様……」


 一番の不安は勝てないと判断した後の退却方法……メイさえ生き残れれば良いわ。

 絶対に、メイだけでも生き残らせて見せないと。


「それじゃあ早速行きましょう。じゃないと日が暮れてしまうわ」


 今日は飛びきりの重労働をしなくちゃいけない。

 そんな予感がヒシヒシと感じるのだった。




 昨日と同じくドリイームの迷宮に私達は入った。

 警備の兵士にカードを提出しての侵入だ。


 もちろん遭遇する魔物を倒して魔石などの回収も義務として存在するので、戦闘も避けられない。

 出てくる魔物はローラーによる高速接近からのパンチなどのひき逃げ戦法になっている様な気もしなくもないけれど。


「アーマリア様、この先で談笑が聞こえるニャ。他の冒険者ニャ」

「わかったわ」


 他の冒険者に遭遇した場合はローラーを使用せずに、メイを乗せてゆっくりと歩いて通り過ぎる。

 私が屈強な全身甲冑を着ているお陰か通り過ぎる冒険者達は絡んでくる事もなく、道を開けてくれる。


「おい、今の見たか? すっげー全身甲冑……」

「なんか猛者感あるな」

「熟練冒険者って感じ……俺達も早くああなりたいもんだ」


 なんて話が後方から聞こえてくる。

 まあ……確かに威圧感は果てしないかもしれない。

 全身を覆える位の鎧=金属が沢山使われている=高価な物、ですもの。

 その正体は迷宮都市二日目の令嬢だなんて想像できないでしょう。


 当然ね。私も知らなきゃそう思う。

 肩にちょんと乗っかっているメイが良いアクセントとなるのは間違いない。

 庇護対象と屈強な戦士と言うのは絵になるのだ。


「行くわよ!」

「はいニャ!」


 冒険者達が遠くに行った事を確認した私はローラーで更に加速して迷宮内を進んで行った。

 そうこうしている内に5階のカプセルの所まで来てしまったわ。


 もちろん道中の魔物を全て倒して来たわよ。

 魔石も回収済み。

 ただ、メイは昨日の様に魔石をホクホクした顔で回収してくれない。

 九割没収がわかっていると、淡々としたモノになるのはしょうがない。

 それに……この先で何が待ち受けているか分からないからそんなに荷物を持っていたくないのだろう。

 まあ、大きくなってきたら私の腰に下げようとは決めてあるけどね。


「順調ね」

「そうですニャ。アーマリア様のお力のお陰ニャ!」

「私じゃなくて家宝の鎧のお陰だけれどね」


 ほぼ戦闘は一瞬で終わるので、むしろ魔石の回収とかのほうが面倒ね。


「アーマリア様、止まってほしいニャ」

「どうしたの?」

「この先……罠があるのニャ……ちょっと待ってほしいニャ」


 メイの肩から降りて目を凝らしながら通路の先へと進み、地面にロッドの先端を光らせて円を描き踏まない様にとばかりに書き込む。

 それから壁沿いに引っ付いてワイヤーみたいな物を切っていたりした。


「こっちは毒矢ニャ。こっちは爆発の罠が生成されていたニャ。十分注意するのニャ」

「わかったわ。メイ、罠を見抜けるなんてすごいわ。何でも知っているし、何でも出来るのね」

「ニャアン! 褒めて下さりありがとうですニャ」


 私はメイの導くままに罠を避けて進んだわ。




 そうして6階……。

 金属音や爆発音の様な音が聞こえてきた。


「くっ……数が多くてキリがない」


 何やら戦っている様な声が聞こえてくる。


「誰か戦っているニャ」

「そうね」


 戦闘をする音がいつまでも聞こえている。

 これは苦戦していると見て間違いないわね。


「どうしますかニャ?」

「確認に行きましょう。こういう時こそ、助け合いの精神が大事なのよ」


 前世を思い出す前のアーマリアだったら自業自得とか身の程を知らない者が勝手に死ぬだけと切り捨てただろう。

 けれど、ここで手助けした結果、窮地を脱する機会に恵まれるという可能性だって無い訳じゃない。

 そう、今の私にメイが居てくれるのはアーマリアの数少ない善意に寄る物なのだから。


「了解ですニャ!」


 そうして私達は戦っていると思わしき場所へと向かった。

 するとそこには二人のリープッド族の冒険者が四匹のキラーマンティスと呼ばれる大きなカマキリの様な魔物を相手に戦っていた。


 ただ、戦況は芳しくない。

 剣士らしきリープッドが杖を持ったリープッドを守るように前に立ってじりじりと少しずつ包囲の輪が狭まっている状況だった。


「ギィイイ!」


 近付いてきた一匹のキラーマンティスを相手に剣を持ったリープッドが応戦し、後方で魔法を詠唱しているリープッドを守るように鍔迫り合いになった所を突き飛ばして距離を取ろうとするのだけれど、隙と判断した残りのキラーマンティスが一斉に飛びかかる。


「フラーニャ!」


 仲間だけでも守ろうと剣士のリープッドが後方のリープッドをその身を盾にして守ろうとする。


「危ない!」


 私は咄嗟に手を伸ばすように意識して駆け出す。

 が、その伸ばした手……前腕部分から先が射出されてキラーマンティス達を一直線にぶち抜いた。

 キラーマンティス達はそのまま吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。


「「「「ギィイ――!?」」」」


 壁に叩きつけられたキラーマンティス達は今までと同様の末路を辿っている。

 うわぁ……またミンチだぁ。


 それから何事も無かったかの様に手というか、前腕部分……ヴァンブレイスが私の手元に戻ってきて元の形になった。


「へ?」

「ニャ?」


 おいおい家宝の鎧。

 貴方はどれだけの性能を宿しているの?

 まさかロケットパンチが放てるなんて夢にも思わないわよ。

 まあ……鎧を着ると言うよりも搭乗しているって点でまるでロボットみたいだとは思っていたけれど。


「い、一体何が……」

「ま、まあ……」


 来るべき敵の攻撃が来ずに助かった事で辺りを見渡していた二人のリープッドがこちらに気付き、そしてキラーマンティス達のぶち抜かれた死体を見て把握する。


「どうやら貴殿達が私達を助けてくれたのだな」

「え、ええ」


 あら、なんか高貴な言葉遣いのリープッドね。

 歩き方でも品が良いのがわかるわ。


「助太刀に感謝する。私の名はアルリウス。彼女の名はフラーニャだ」


 お、おお……剣を持った青い毛色のロシアンブルーみたいなリープッドがアルリウスと言うらしい。

 そして後ろにいるオレンジ色の毛色をしたスコティッシュフォールドみたいなリープッドはフラーニャと言うのね。


「メイ、この子達夫婦かしら? とってもお似合いね」


 恋人でも良いけど、なんとなく素敵な組み合わせ。

 ここまで夫婦や恋人という単語の似合う組み合わせは珍しい。

 なんせ青色の男の子と橙色の女の子よ。

 どうやら二人で迷宮に挑んでいたみたいね。


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