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十一話


「ここがメイの泊っているお部屋なのニャ。洗面具とか歯磨きの道具は既に準備しているニャ!」


 メイが先に部屋に入り、ランプに魔法で灯りを灯して室内を見せてくれる。

 ワンルームの……ちょっと狭い部屋ね。

 4畳くらいの……小柄なメイからすると丁度良いかもしれないけれど、私は少し窮屈になりそう。

 だけど文句は言っていられないわ。


 メイも私を泊める為に精一杯の工夫をしてくれているのがわかる。

 クッションをベッドに敷き詰めて補強しているわ。

 寝る事はそんなに難しくない。

 ただ、問題はベッドが一つしかない。

 他にクッションが部屋に置いてあるけれど……。


「ベッドが一つしかないわね……」

「そこがアーマリア様のお休みする所ですニャ……メイではこれが限界でしたニャ……」

「メイ、貴方はどこで寝るの?」

「メイはこれニャ」


 そう言ってメイはクッションに箱座りをして見せる。

 可愛いけれど、それはリープッドとして正しい寝方だったかしら?

 アーマリアとしての人格が否と唱える。


「お昼寝するなら良いけれど、いつもその寝方じゃダメよ」

「でも……ベッドは一つしか確保できなかったニャ……」

「大丈夫よ、メイ。一緒に寝ればいいの」


 前世で保護した野良猫は寝ていると私の布団にもぐりこんで来たりして、一緒に寝た事は幾らでもある。

 だからメイと一緒に寝ても良いわよね。

 むしろアーマリアとしての人格は、メイと寝れる事に喜びを覚えている。


「お、恐れ多いのニャ!」

「メイ、私はあなたの善意に甘えているの。だから貴方が気を使う状況はとても心苦しい……一緒のベッドで、寝てくれないかしら?」


 じゃないと私はベッドで寝る事は出来ず野宿をするか、固い床で寝る羽目になってしまう。

 これまでの道のりで似たような環境だったから出来なくはないけれど、メイと一緒に寝たいとアーマリアの人格から来る欲求が駄々をこねる。


「そうした方が温かいわ。してくれないの?」

「あ、アーマリア様のお願いとあらば、メイは全力で応えるニャ!」

「ありがとう」


 ヨッシャ! と、アーマリアの人格部分がガッツポーズを取る。

 私もガッツポーズ!

 そうして寝る為に準備……就寝前の歯磨きとか、軽く体を布で拭いたりしてさっぱりする。


「それじゃあ寝る前に……」


 メイの部屋にあるブラシを私は手に取り、手招きする。

 これは前にもやった事のある催促で、メイもすぐに察してくれるだろう。


「メイ、来なさい」

「は、はいですニャ。うう……メイはアーマリア様にやさしくされて大満足ですニャー!」


 恐る恐ると言った様子でメイは私の膝の上に乗るので、ブラシで丁寧にブラッシングしていく。

 メイは長毛種なので出来るだけ多くブラッシングをしてあげるのが良い。


「今日は徹底的にするわよ。服も脱いで」

「ニャ……ニャアア……ン」


 メイの服を一枚一枚脱がして行き、丁寧に……丁寧にブラシで毛を整えていく。

 ウフフフ……良いわ。

 至高の時間よ。

 他のリープッド族を拉致監禁して撫で回した時もこんな気分だったわ。


「あ、アーマリア様……そこ……アア。ニャアア……」


 メイの甘い声が聞こえてくる。

 自然とドキドキして意識がメイへと集中していく。

 更にメイの為にと私はメイの尻尾の付け根をポンポンと定期的に軽く叩きながらブラシを掛ける。


「あああああああ……にゃあああああん……」


 ゴロゴロとメイは気持ち良さそうに寝転がる。


「うふふふふふ……」


 自然と私も声が漏れてしまう。

 ここか? ここを撫でてほしいのか?


「ニャ……ニャン……ニャアアアんっ!」


 こうして私とメイの熱い夜は更けて行ったのだった。




 鳥の囀りと日の光が私の顔に当たり……朝が来た事を告げる。


「んむ……」


 ムクリと起き上がり、周囲を確認する。

 ああ……そういえばメイの部屋に厄介になっていたんだっけ。

 隣ではメイが気持ち良さそうに寝息を立てている。


 これはアレね。

 タバコとか吸ったら良いのかしらね。

 思わず動作をしてみる。


「プハー」


 朝チュン……なんちゃって!

 ともかく、昨夜はとても素敵な夜で私の肌もツヤツヤよ。

 今までの護送によるストレスが飛んだ所為ね!


 寝ているメイの毛並みもサラサラ。

 入念に手入れをした成果よ。

 うふふ……良いわ。この仕事を終えた充実感は。


 メイの寝顔を見ていたらいつまでも見ていられそうだけど、ここはぐっと堪えてベッドから出て、井戸の水を汲んでから顔を洗う。

 そうこうしている内に……。


「ニャアアア……アーマリア様、おはようございますニャ」

「おはよう、メイ」

「アーマリア様より後に起きて申し訳ないですニャ……」


 朝からメイは申し訳なさそうにしている。


「メイ、リープッド族は寝る時間が多いのだからしょうがないわよ。それよりメイ、体調は大丈夫なのかしら?」

「もちろんですニャ!」

「なら良いわ。今日は……ギルドで監視役が来るみたいだからご挨拶をしなくちゃね」


 どんな指示が来るのかわからないけれど、やって行くしかない。

 ……本当、明日が見えないわ。

 悔いのないように生きて行かないとね。


「それじゃあ早速行きましょうか」


 メイが買い置きにしていたクッキー……というかカリカリと水を分けてもらって朝食を終えた私はギルドに行こうとメイに提案する。


「はいですニャ! どこまでもご一緒しますのニャ!」


 汚された責任を取れと言わないメイは凄く良い子ね。

 この宿の隣の部屋のリープッド族の方と店主が朝に私を見てヒソヒソ話をしていたわ。

 メイの喘ぎ声が漏れていたのね。

 でも後悔は無いわ!


「さあ! 出発よー!」


 という訳で清々しい朝に私達は宿を飛び出してギルドへと向かったのだった。




 ギルドの地下の受付に行く。

 もちろん鎧は地下入り口の脇でポーズを取らせているわよ。


 相変わらず受付の人はぞんざいな態度で私に接客してくれたわ。

 監視役が来るまで待ってろと言うので、若干肌寒い地下受け付け近くの椅子でメイを撫でながら待つ。

 そうして……2時間くらい待たされたかしらね。


 逆毛の、ガラの悪いヤンキーみたいな人がやってきたわ。

 私と同じ犯罪服役者かしら?


 なんて思っていると受付の人が私を指差している。

 振り返って私の元にやってきたから立ちあがって見つめる。


「……お前が今回の罪人か。名前は……アーマリアだったな」

「はい。アーマリアです」


 カードを提示しながら答える。


「監視役のジェイドだ」


 この人が私の監視役ね……監視役って何をするのかしら?

 監視役の導くままどこかのパーティーに所属して肉の壁でもするのがお仕事?

 けれど、あの鎧があればそれ位なら余裕な気がする。


「ふん……その軟弱な体では盾にもならないな。魔法も使えるとは聞いていないし……何処のパーティーでも使えなさそうだ」

「ニャ! アーマ――」


 メイが抗議しようとしたので、そっと口元に手を当てさせて黙らせる。

 この反応を見るにこちらの手の内を明かす必要はないはずよ。


「なんだコイツは」

「えー……私の友人ですわ。罪を償う手伝いをしたいとワザワザ来てくれたのです」

「ふん……」


 わかっているけど上から目線で、侮辱の眼差しを向けられるのは苦痛ね。

 私の事はともかくメイをバカにされるのは本当に辛い。


「まあ良い。今日のノルマはドリイームの迷宮10階の階層主を討伐しろ。命令は以上だ。ああ、逃げようとしたって無駄だぞ。紋様がお前の居場所を俺に教えるからな。ノルマを達成出来なかったら……罰の時間だ。先に行っている」


 激しく面倒くさそうにジェイドと名乗った監視役は去っていった。

 完全に姿が見えなくなってから堪えていた息を吐く。


「はぁ……」


 かなり大雑把と言うか、相手をするのも煩わしいって態度だったわ。


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