抱きしめたい
二話同時公開の為、前話を読まれてない方は一話前からご覧ください。
二人きりになり俺は璃青さんの手の感触を強く意識する。二人という事で何故かドキドキしてくる。
「あの、ごめんなさい、今日は。
もう、こんな騒ぎ起こさせませんから。凛にも言い聞かせますから。
今度は俺が守ります」
そう言ってから抱きしめようとしたけどキーボくんのボディーが邪魔して璃青さんお肩に少し手を回すまでが精一杯だった。身体が少し揺れキーボくんの身体が温かいものに包まれた感触がする。璃青さんがキーボくんを抱きしめてくれたようだ。その事に璃青さんへの愛しさを感じるものの、抱きしめ返せない事がもどかしい。
「璃青さん、貴女を直で抱きしめたい」
そう言うと、さらに強く璃青さんが俺を抱きしめてくれた気配がする。俺は璃青さんを感じたくて椅子から立ち上がり、璃青さんに近づくようにキーボくんの中で身体を寄せる。キーボくん越しに必死に璃青さんの気配を求める。
「なんかキスをしたいですね」
思わずポロっとそう囁くと、璃青さんの小さい『ん』という声がかえってくる。しかしこの状態でキスする事が出来る訳もなくそのままの恰好で抱きしめあっていた。
カラン
Blue Mallowの入り口の開く音が聞こえる。見えないけれど誰か入ってきたようだ。
「璃青さーん、こんにちは〜!
……あれぇ? 何でこんな所にキーボくんが?
ていうか璃青さん何してんの?」
先のマンションに住む高校生の七海ちゃんの声が聞こえ、俺と璃青さんは慌てて離れる。そして今更だけど俺は入り口の方を向き手を振る。
「あの、キーボくんお買い物に来てくれたんだよね、ねっ? わたし、キーボくん大好きだから嬉しくて思わず抱きついちゃったの。キーボくんてほら、抱きつきたいほど可愛いと思わない?」
璃青さんの言葉に俺は必死に頷くが七海ちゃんはニヤリと笑う。
「みーてーなーいーみーてーなーい! 私はくーうーき♪」
と楽しげに歌うようなフレーズを発し、軽やかにターンして出ていってしまった。
若い七海ちゃんにとんだ所を見せてしまいこっ恥ずかしい。Blue Mallowに突入してきたときたは別の意味で顔が熱い。俺は恥ずかしさのあまり、曖昧な挨拶だけをして、逃げてしてしまった。俺はスゴスゴと根小山ビルヂングに入り、部屋でキーボくんを脱いでハァとため息をつく。
シャワーを浴びて身体はスッキリするもののなんか心がスッキリしない。さっきまで抱きしめていた璃青さんの感触を手が思い出す。リビングに置いてあるキーボくんの身体を撫でてみる。璃青さんが触れていたであろう所に璃青さんの跡を求めて。こんな事でドキドキしてくる俺は変なのだろうか?
俺はテーブルに置かれた携帯を手にとる。
『今日、黒猫が終わったら、会いませんか?』
そうメールを送ってしまう。別にオカシナ事書いていないのにドキドキが止まらない。
『はい、ならばそのくらいの時間に伺いますね』
すぐにそんなメールが来て、俺は思わずガッツポーズを小さくしてしまった。落ち着く為に大きく深呼吸する。さてと、午後からの仕事をしないといけない。黒猫の開店準備を始めることにした。今日は小野くんが来られない日なので忙しいから頑張らないといけない。俺は気合いを入れて仕事に戻る事にした。璃青さんは黒猫にも来てくれるかなとは思ったものの、クリスマス前なのでアクセサリー作りとかもあり彼女も忙しいのだろうお店にはその姿は見えなかった。その事に若干の寂しさを感じたものの、いつも以上に動かねばならない店での仕事に没頭しているとアッという間に閉店時間となった。そして心地良い仕事の疲れを感じながら部屋に戻る。あえて玄関のドアは鍵をかけずにおく。
璃青さんが来る前に、シャワーで汗を流しておくことにした。
濡れた髪をタオルで乾かしていると、控えめなチャイムの音がする。勝手に入ってきてもいいのにいつもそうして訪問を璃青さんは告げてくる。俺は玄関に小走りで走りドアを開けると、璃青さんがビックリした顔で見上げてくる。フワリと感じる璃青さんの清潔感ある石鹸の香りか鼻腔を擽る。俺はその小さな身体を思わず抱きしめてしまう、やはり直で抱きしめる方が璃青さんを強く感じられる。求めていたモノが腕の中にある事が嬉しくてさらに力を込めて抱きしめる。
「え! っちょ、 透くん」
赤くなってそう声を上げる璃青さんが可愛らしすぎた。俺はその唇に深くキスをする。璃青さんは最初戸惑う仕草を見せたものの、すぐに俺のキスに応えてきてきたのでそのままその行為を楽しむ。そして一旦離れて見つめ合うと、また体温が少し上がるのを感じた、少し潤んだ瞳とキスしていたことで濡れた唇がなんとも色っぽくて、俺の鼓動がより高まる。
「いきなりすいません。
でも心も身体も璃青さんを求めてしまって。
……いいですか? 抱いても」
再び抱きしめながら、そう尋ねる。少し声が上ずって掠れてしまって恥ずかしい。腕の中で璃青さんが頷くのを感じた。
「いいよ、私も透くんが欲しい……」
そして俺の身体をギュウを抱きしめてくる。そんな事言われて、そんな事されたら、男として耐えきれる筈はない。俺は玄関の扉に璃青さんを押し付けて貪るようにキスをする。
「ユ、ュキくん……」
息を切らせ、切なげに璃青さんが俺の名前を呼ぶ。火照って朱のさした顔を俺に押し付け、凭れるようにしてくる璃青さんを俺は抱きあげて寝室へと向かった。そしてそこで璃青さんを深く求めあった。
一気に燃え上がった想いを昇華しきった後に残るのは心地良い脱力感と幸福感。腕の中で眠る璃青さんの小さな身体を抱きしめながら俺は言葉にどう表現して良いのかわからない悦びと愛しさを覚えていた。その寝顔がまた可愛らしくてそのおでこにキスを落とす。その刺激で璃青さんを起こしてしまったようだ。瞳がゆっくりと開かれて、俺を見つめ細められる。
「すいません、起こしてしまいましたね」
そう言うと、恥ずかしそうに璃青さんは視線を逸らす。
「寝ちゃっていたのね」
そう恥ずかしそうに言う璃青さんの姿に思わず笑みが漏れてしまう。
「見つめて楽しんでいました」
璃青さんは俺の胸に頭を押し付けたことで、その表情が見れなくなった。
「やだ、恥ずかしいから寝顔なんて見ないで!」
俺は髪を撫で、その柔らかい髪の感触を楽しむ。
「抱き合っている時もいいですが、俺はその後のそういう璃青さんとの時間も好きなんですよ。すごく穏やかで幸せで」
璃青さんが顔をあげることでその顎と髪が俺の胸を擽りくすぐったい。
「わたしも好き。こうしていると、心臓の音とか体温に、すごく安心できるの」
璃青さんの小さな手が俺の腰を優しくなでてきたので身体がゾクゾクする。あの璃青さん、そんな事をされたら穏やかでノンビリって訳にいかなくなりますよ。俺は璃青さんにキスをしかけ、その頬を指で撫でて返すと、何故か璃青さんがバタバタと慌て出す!
「もう、これ以上は無理よ!今日だって二人ともお仕事なのよ? 貴女は兎も角わたし、お仕事できなくなっちゃう!」
こうして必死な様子で言う姿がまたカワイイと思ってしまう。
「キスしたらダメですか?
璃青さんが可愛らしすぎて」
そう問いかけると、璃青さんは悩んだ様子で、上目遣いで俺を見つめてくる。
「………ほんとにキスだけ………?」
照れたように唇を突き出しそう呟く璃青さん。俺はニッコリ笑い頷き、そのおいしそうな唇を味わう事にした。でも璃青さんが俺の背中に手を回し、その胸を俺に寄せて抱きついてきたことで、キスだけという訳にはいかなくなってしまった。次の日、プンプンと怒る璃青さんに申し訳なかったという気持ちはなるものの、璃青さんも責任の半分はあると思う。
そう言うと、すごく拗ねられてしまった。でも前よりもそういった表情を見せてくれるようになったのが嬉しかった。無理させてしまった分、隣の分までお店の掃除を手伝ってフォローすることにした。
コチラ同じ状況を同時公開で「黒猫のスキャット」、たかはし葵様の「Blue Mallowへようこそ〜希望が丘駅前商店街」でも視点違いで語られています。璃青さん、小野くんの視点だとどうこの光景が見えていたのか、ご興味のある方はそちらも良かったら読まれて見てください。




