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俺は七歳になった。
驚くことに弟が十人出来た。
いやぁ、父上がんばったよね。生まれたのが全員男だったせいで面白いくらいに賑やかだ。一人くらい姫がいても良いのでは?と誰もが思っていたはずだ。五歳ほど年の離れた同腹の弟は双子だった。生まれた日に一週間のズレがあって、母上は早く生まれてくれと若干荒れてたな。
元の世界の双子事情とは違うみたいだ。マルティナ母様のところの双子は生まれるのに数ヶ月の差があったし。
元々父上の兄上の婚約者だった母上。厄災で婚約者を亡くした母上は遺言に則り、最終的に同い年の父上の妃となった。兄として随分慕われていた伯父上の名の一部をとって俺達兄弟の名を決めたと父上は言っていた。その現象は他の母上達から生まれた弟達にも採用されている。幼い頃からの幼馴染みでもあるマルティナ母様のとこの弟達は違うけど。
まぁ、七年の内に色々あった。新しい知識を得ることは嬉しいことでもあったけど俺としてはもう少し自由が欲しかった。
卵から生まれた使い魔の子猫は年々大きくなった。
光の具合で緑に見えなくもない体毛と金色の鬣の獅子。
俺は使い魔にヤーヌと名付けた。何となくで深い意味はない。
ヤーヌは時によって子猫にも変化出来るらしく常に一緒だ。ヤーヌは太陽神の加護を持つ神獣らしい。七歳の俺くらいなら余裕で背に乗せてくれる。ただまだまだ子供ってことで母上達の使い魔に甘え過ぎて怒られているのを良く見る。端から見ると獅子に襲われてる白鹿なんだけど、年の功か白鹿の方が上手で俺もヤーヌも日々成長してるってことだね。
ラーネポリア王国は、前世の先入観で考えると、国の成り立ちとかがちょっと特異だと思った。ラーネポリア王国は多種族国家で色んな血統が混在した人々の住む国だ。
種族は分けると人族、魔族、妖精族、亜人族、獣人族に分かれていて、北の方には、魔界と繋がるでっかい門、南には妖精界と繋がるでっかい門があって交流をしている。
前世のゲームなんかでは、人と魔族、魔王との戦いなんてのが筋としてあったけど、此方の世界では違う。
ラーネポリア王国、魔界、妖精界には共通の問題が存在していて、その問題を解決するためには三世界が協力する必要があるんだ。
そして、共通の問題と言うのが“厄災”と呼ばれる魔物の行軍だ。
厄災は、神々の簡単に言えば鬱憤で出来ている。
神々の鬱憤は、大小様々な魔物の姿を形どり集合体となる。そのモノによっては大群が、突然(予兆はある)現世に現れて行軍するんだ。行軍の距離は区々だけど、出口と呼ばれるA地点から入口と言われるB地点までを一心不乱に駆け抜ける魔物の集団って怖くない?前世で言うところの百鬼夜行だ。走り抜けることで神々の鬱憤は晴らされると言う謎も迷惑極まりないものだ。此方としては堪ったもんじゃない。A地点とB地点に挟まれた場所は多大なる被害を被るからだ。厄災が通った後の大地は暫く身体に影響を及ぼす瘴気が充満する。
瘴気が危険のない魔素に薄まる期間も厄災の大きさによって違ってる。
魔素の濃度だって濃ければ毒だ。その魔素が人が生活するのに支障ないまで落ち着くと大地は実りあるものとなるんだけど、神様だって溜め息くらい吐く訳で、小規模なものなら案外日常茶飯事だ。
ラーネポリア王国の何代目かの王妃が厄災発生の共通点を統計にとり、発生確立法を編み出したのは全ての民にとって良いことだった。
さて、神々の鬱憤の権化である魔物達の行軍からたまに自我を持ち行軍から外れるものがいる。通称“はぐれモノ”はそこら辺の魔物より強力で魔物によっては、Sランクの討伐対象だ。
確率を産み出した王妃の夫、つまり王様は英雄王と言われてて、魔界と妖精界と協力して“過去一”と呼ばれる厄災で現れたはぐれモノを退治した。三世界の同時攻撃なしでは倒すことの出来なかった魔物は其々の世界に巨大な魔石をもたらした。
巨大魔石は、大厄の時に出来た瘴気が世界を抑え込む魔力の源として活躍した。
千年の時を経て、瘴気は漸く小規模範囲にまで収まったらしい。その場所が俺達が住む王城を中心とした王都、王城の直ぐ横にある王立公園の立ち入り禁止区域である。
瘴気の強いその場所に入ることが出来るのは王族の直径だけ。成人したら俺も弟達も儀式を行うらしい。
禁止区域の瘴気は向こう千年を経ても消えないってことだから、神々の鬱憤ってのは溜まりに溜まらせるのは良くない、適度に吐かせるのが良いのだなと思った。
俺は基本、悩んでも仕方ないってポジティブマインドだけど、気を付けよっと。
で、ラーネポリア王国ってのは、王都を中心に北の方には魔族の因子の強い貴族が治める領地が多く、南の方には、妖精族の因子の強い貴族が治める領地が多い。一応北と南になるけど辺境とは呼ばれていない。ラーネポリア王国での辺境とは東と西地域を指す。東西には瘴気、魔素の強い森が広がっていて東には亜人族、西には獣人族の因子の強い貴族が治める領地がある。王都と西の獣人族の治める地域の間には広大な砂漠があってその砂漠地帯を人族の因子の強い貴族が治めている。砂漠地帯と言っても地下水が豊富なので、工夫によっては住み良い地域なんだけど人族と言うのは隣の芝生ほど良く見えるようで常にクレームを寄越してくるし、実り豊かな獣人族の地域を妬んでいるらしい。曾祖父時代は本当に酷くてラーネポリア王国にとってその地域は頭痛の種だったらしい。父上が即位した頃は、大規模厄災が連続で起きたこともあって種族間の争いなんかしてる暇がなかったから幾分マシになってたけど平和になると欲が出てくるヤツっているわけ。
で、獣人VS人族の小競合いが再開した。




