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一歳の誕生日を過ぎた頃、弟が生まれた。そうか、此処でも俺は“兄なんだな”って思った。
覗き込んだベビーベッドには真っ黒な毛玉がいた。
思わず自分とは違う姿に驚いたが普通に可愛いと思った。
可愛い子犬だと思ったら子狐だった。柔らかくて掌は肉球見たいにぷにぷにだった。
年の終わり近くにまた弟が出来た。弟の存在は嬉しいから、また会いに行った。またふわふわの毛玉かなって思ったら艶々の鱗を持つ蜥蜴の赤ちゃんでマジビックリした。
この時点であれっ?って改めて思った。ここは、なんだ?
ふと俺を抱き上げている母さんを見る。美人な母さん。ちゃんと、人だ。弟を生んだ母さん達も人だ。
んっ?母さん達?
頭の中に沢山の情報が流れ混んでくる。頭が、痛いっ!
「ショーン!ど、どうした?!ショーン!」
母さんの慌てる声が遠ざかっていく。母さん……、違う、俺の母さんは、こんな美人じゃなかった!
俺の名前は「しょう」。日本人だった。名字とか、どんな漢字だったかは思い出せない。
いつまで生きたのか、なんで死んだのかは忘れた。
そうか、生まれ変わったのか。思ってたよりすんなり受け入れた。
回りを見回すと淡いグレーの毛並みのでっかいウサギがいた。
服着てて、○ーターラ○ットの絵本を思い出した。彼女はウサギ獣人のサリー。
「まぁまぁ、目を覚まされましたね、ミライヤ様にお知らせしてきましょうね。」
彼女がウサギ獣人だと知っているけど、いつものサリーじゃない。
「しゃりー、」
どうしてだろうとジッと見つめる。
「あぁ、この姿のことでございますか?もう少しいたしましたら、戻りますよ。」
獣人には姿変容が三つあると後に聞いた。
第一の姿は、今のサリーのような着ぐるみ形態。
第二の姿は耳や尾、爪など何かしら獣の名残を残す形態。
第三の姿は人型だ。
どの姿を取るかは個人の自由だ。
俺は父母の容姿を強く受け継いでいるらしく、人型で妖精族の姿と言っていい尖った長い耳をしていた。
父に似た顔立ちに母の色合いに近い肌色だ。
だからと言って純粋な妖精族ではなく、父も母も色々な魔力因子を持っている。
妖精族の因子だけを持って生まれた純血種なんて妖精界の秘境しかいないんじゃないかな。
で、話は戻るが中途半端にだが倒れたことで自分には違う世界で生まれ生きていた記憶があると気付いた。
気付いた瞬間、幼児として普通に育つことが出来ないんだなって、ちょっと残念に思ったけれど。
優しい家族がいる現実は嬉しい。父に妻が四人いることにはビックリしたが、新しい人生はちょったとばかりファンタジーな世界で、その系統の本はあまり読んで来なかったからなぁ、と思ったりもしたけど、まぁ、なんとかなるかなとも思ったりしてる。
考えこんでたら何かが腕に当たった。
何だろうと思って視線を向けると赤、オレンジ、黄色、黄緑、緑、深緑と派手だけど綺麗なグラデーションの卵。
(でかい。)
俺の頭くらいある。
コンコンと叩いてみたらあっさりとヒビが入ってビビった。
『にゃー!』
生まれたのは猫だった。金色のトラジマ。
猫って、卵から生まれたっけ?
『あるじぃ!』
ゴロゴロと喉を鳴らしてすり寄ってくる子猫。
素直に可愛いなと思った。そんな戯れを楽しんでいると白い鹿が現れた。
何か言ってるけど分かんないや。白鹿は慌てたように姿を消した。
『あれは、主の母様の使い魔だよ。』
子猫が言う。
そう言えば喋ってるな、この子猫。
使い魔ってなんだ?
元の世界で読んだ物語の中で得た知識と近い存在かな?
パタパタと廊下が騒がしくなった。母様を先頭に他の母様、サリーもいた。
「ショーン!」
子猫と一緒に抱き締められた。
訳が分からない。母様の顔には安堵が浮かんでいる。
「使い魔を得てこそラーネポリアの国民と認められんねん、ミライア姉様はショーンに使い魔が現れたことが嬉しいんやで。」
前世の俺がアヤ母様の言葉を理解してもこの世界の知識がない俺は「?」が一杯だ。
「シルーシカ、ショーンの使い魔のこと、間違いないのね?」
母様の顔が真剣なものに変わるとポンっと現れた先程の白鹿が出てきて母様と話をしていた。
サヤカ、アヤカ、マルティナ母様達の近くにも其々の使い魔が現れている。彼らは順々に子猫に挨拶をしていく。
子猫は使い魔達に甘えているようだった。
自分の使い魔以外とは会話が出来ないのか。
「この使い魔が名を得るのはショーンが言葉を理解してからでしょう。それまでは、神獣だとしても力の発露はほぼない。」
なんか、色々と覚えていかなきゃならないことがあるみたいだ。
まぁ、なんとかなるか。




