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老人と魚
『老人と魚』
進む一人の老人
魚の小さな群れを引き連れて
日常のアスファルトの上を
巫山戯た魚の一匹が
腹鰭を強く勃てて
老人を突こうとする
軽くいなす老人
魚の小さなその一撃に
厳しい笑いでこう言った
いいな、おまえは
太くて長い腹鰭をもっていて
小便をするのも長さがあって
まるで消防ホースじゃないか
私にはもう、火を消すことはできない
それでいて、水を途中で止めることもできない
しかし、まだまだ進まなければいけないのだ
おまえたちを水の中に還すため
まだまだ先を行かねばならぬのだ
弾かれた一匹の魚
小さな群れがすべて腹鰭を立てて
老人穴だらけ
斃れて浮かべる苦い笑いのアスファルトの上




