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愛のさかむけ
『愛のさかむけ』
左の中指
爪の手前の
皮がパッツン
膨らむくらいに
お肉がはちきれそうなところに
愛のさかむけ
私に剥がされるのを待っている
人差し指と
親指でそっと
つまみ食いする
悪い子供のように
バナナを盗むようにひっぱると
愛のさかむけ
私に剥がされて泣いてしまった
そのむこうから覗く
悲しそうな目をした美しき三十男
グラムロックの薫り
黄色い麦に包まれた顔が
私をじっと見ている
私は急いでさかむけを戻した
唾をいっぱいつけて接着した
もうこの世にはいないはずの
彼を起こしてはならなかった
私の肉は薄い皮で守られて
私の愛はさかむけで隠されていた
からだ中にさかむけができた気分に
けっしてそれらを剥がしてはいけないのだと
思いながらも
私のいけない指は
そこへ




