つかまえそこなったチャンス
『つかまえそこなったチャンス』
手がすべっただけだった
なるほどねえ
チャンスの神様には前髪しかないって
誰かは上手にいったものだ
光の玉をプロペラに乗せて飛ばそうと思ったのに
光の玉だけキラキラして、なくなってしまった
もう、どこにもない
次のチャンスはたぶん、ない
ディスコへ行ったことがない
そのチャンスは人生で一度だけ、あった
わたしは膝を抱えて、駅の地下へ下りる階段で
膝を抱えて、埃まみれで、ひっついていたのだった
「ディスコへ行かないか?」
後ろから話しかけてきたひとは、顔立ちの整った、ホームレスのおじさんだった
「ぼくらみたいなはぐれものでも楽しく踊れるディスコへ行かないか?」
「そこにはキラキラした光の玉があって、プロペラで空へ舞い上がれるんだ」
知らないおじさんだった
わたしは不機嫌になって、首を横に振っただけだった
するとおじさんは天使の姿を現して
輝きながら、駅の階段を舞い上がっていったのだった
待って
やっぱり行く
そんな言葉も言う暇がなかった
確かに天使の禿げあがった頭には、長い前髪だけあった
あれを掴めというのか
無理だ
あんなもの




