プロペラ
『プロペラ』
プロペラが好きになったのは、いつの頃からだったのだろう。しょぼい見た目の、竹製のプロペラ。こんなものに乗って自分が飛べるなどと思っていたのだろうか。どうせ青空をめざしても、すぐに回転力を失って、落ちてくるのに
なんとなく出会った彼と、カフェで退屈な時を過ごした。お尻はなかなか椅子にくっつかなくて、柔らかいクッションでも飛べるわけはなくて。会話が続かないので遂に彼が言い出した
「木星に行ってくるね」
太陽系を脱出するのにはどれほどのお金と燃料がいるのだろう。高野山へ行くにしてもわたしの持ち金では無理だった。人間の妄想というものは実現不可能であるほどに魅力的なものだ。たかがトイレに行くのにも、大袈裟に言えば言うほど夢がある
帰ってこない彼を待ちながら、わたしはプロペラのことを想っていた。華奢で細長いあの草きれを、今ここでアイスコーヒーに差し入れてかき回したい。きっと竹とナイフさえあれば実現は容易だろう
ひとりの帰り道、夕焼けを見て思った。おばあちゃんはこの世を去る時、どんな気持ちだったんだろう。壮大な世界を冒険中のおじいちゃんに会いに行く夢を見ただろうか。自分の翼で飛んで、自分の足で前に進むおじいちゃんの頭には
けっしてプロペラなんて生えてなかったに違いない




