ヒーローの背中に翼はなかった
『ヒーローの背中に翼はなかった』
ずっとヒーローになりたかった
小学生の男の子だった頃からだ
思い描くヒーローには翼があった
毎晩寝る前に
眠りに入るまで夢想した
誰かを助けるわけではない
悪いやつらをやっつけるわけでもない
そんな悪の組織など実在するかどうかわからないからだ
翼を広げてヒーローは空を高く飛んだ
私を抱いてランデヴー飛行をした
小学生の男の子は私に恋をしてくれていた
私のためだけのヒーローだった
私がパチスロで大負けすると
悪のパチスロ店を破壊してくれた
私が上司にパワハラを受けると
悪の上司をやっつけてくれた
そんな私が
小学生の男の子を胸の奥に抱いて
ある日道を歩いていると
車に轢かれた
轢かれた
だが死ななかった
そんなものだ現実は
「大丈夫ですか!」
「怪我は?」
「す……、すみません!」
「救急車!」
その場にいたみんなが私を助けるヒーローだった
ヒーローの背中に翼はなかった
翼なんかなくてもヒーローだった
私はその時思ったんだ
私もヒーローになろうって
現実に
人はヒーローになれるんだって




