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鹿
『鹿』
鹿は立っている
雄々しい角を空に向けて
重たい首をまっすぐに伸ばして
赤い大地の上を
車行き交うアスファルトの上を
光ふりつむ新雪の中で
崖沿いのガードレール 飛び越えて
鹿は立っているのだ
いつまでもそこに
目を開いたままで
『愛してくれる誰か』
愛してくれる誰かを心に描いたら
心がほっこり緩んでいった
それは母ではなく
もちろん父でもなく
兄でも友人でもなく
どこにもいない人だった
『馬』
馬と鹿が出会っても
けっしてそんなものにはならないのに
莫迦がどうしてそうなった
馬は途方に暮れている
草を食みながら
途方に暮れた顔をしている
後ろからそっと近づいた
鹿がパカンといい音を立てて飛んでいった




