悪への憧れ
『悪への憧れ』
私達には悪への憧れがあります。ロックで悪魔的なものを歌ったり、シド・ヴィシャスがステージ上から観客を撃ち殺すのを見て『イカス!』と思ったり
映画や漫画で悪役をカッコいいと感じたり、ゲームで現実には出来ない悪いことを楽しんだりと、もはや誤魔化すことが出来ません。
正しいことをしたいと強く思うのは、そう強く思っておかないと、悪いことをしてしまうからです。素直じゃないひとは自分の暗黒面をけっして認めませんが。
素直なひとは憧れに従順に悪いことをしますが、チョイ悪どまりです。勇気がないのか、悪魔のように悪いことが出来るひとなど滅多にいません。
人間は悪魔と天使の中間に位置する中途半端な存在といいますね。ええ、もちろん私にもありますよ、悪への憧れ。
うちのフェレットくんを捕まえて、耳掃除をしてやります。彼はこれがとても嫌いで、『やめてください』みたいな格好をして、ギュッと目を瞑って抵抗します。抵抗しているのに、噛んだり引っ掻いたりはしません。
そんな、されるがままになっている彼の耳に、液を2滴垂らし、綿棒を突っ込むのです。
ひひひ。
なんて悪いやつなんだろう、私。
こんなに弱いものを、好きなように弄んで。
ひひひ。
ほんとうは
彼のほうが強いんです。
彼の鋭い牙は、人間の指なんて簡単に噛みちぎるんです。
それなのに、嫌なのに、ギュッと目を瞑って
されるがままになっている。
なんて良い子なの。
なんて優しいの。
悪への憧れが
どこかへ飛んでいきました。
ただひたすらに、彼を抱きしめます。
『やめろー!』
引っ掻かれて、脱出されました。




