決死線を越えろ(1)
笙川には舟橋が掛けられている。
20隻ほどの舟が、荒縄に連結され、岸から岸までをずらり。
つながった舟に分厚い板をのせていけば、ここが織田勢の退却路だった。
木曽川の主ともいえる、蜂須賀小六がうそぶくようにして言う。
「川は雪解け水で深くなっているわ。腰まで浸かる」
鉄砲隊を防備する柵は、土方要員とともに、徹夜でこしらえたそうだ。
「上流から回り込まれることはないんかえ」
と、サル。
「ここがもっとも浅いんだわ。たしかに、ほかの地点に舟を並べて橋を作られたら回り込まれるだろう。だか、近在の舟は我らが接収、すべて燃やしているわい」
「ほんだら、あとは牛殿次第だぎゃあ」
サルとクマ六が視線の先を寄越してくる。
と、小一郎が駆け寄ってきた。
「兄さんっ、森三左衛門様が放っていた疋田からの物見の数名が戻ってき、浅井勢の出陣は今朝方ということっ」
サルも、クマ六も、おれも、顔を見合わせる。
つまり、浅井方が敦賀に到着するのは夕方。
おれたちは笙川から引きはらっている段取り。
「藤吉郎殿、それなら、池田勢をこっちに回せる。浅井が来ないんなら、池田築州殿の加勢も得て、朝倉を食い止められる」
「左様。簗田殿の申す通り、今すぐに池田勢に伝令を放つべきだ」
しかし、
「いんや」
サルは首をふる。
「それならそれで、池田勢には最後の切り札になってもらえばいい。ここは、おりゃあらだけで踏ん張るべきなんだがや。わかるかえ? こういったとき、いちいちな、方針を切り替えていたら混乱しかねないんだがや」
そのサルの眼光は、詐欺師の目ではない。
誰よりも背丈のない、この小男が解き放つその気概に、おれも、クマ六も、うなずかざるを得なかった。
「あれもええ、これもええで、二つも三つも退却の逃げ道を作ってもな、それは、自分たちの中にも逃げ道を作っているんじゃないんかえ。そうやろ。小一、池田築州に伝令を放つんだぎゃ。おりゃあらが笙川を退いたときには、おりゃあらを追ってくる朝倉の横腹を叩いてくりゃあと」
「承知しました」
「ほんで、者どもを集めんかえ。最後の評定がね」
小一郎は駆け出していった。
依然として、織田の退却兵たちが舟橋を埋め尽くしている。
頭上は青空に明けきっており、鴎の群れが湾へと飛んでいく。
舟橋は大きく揺らいでいた。人が踏むごとに大小さまざまな波紋を広げて。
サルが柵を揺さぶる。一夜城のときみたいにして点検している。落ち着かないのか、細かい男なのか。
「三段撃ち、だぎゃあかね」
鼻で笑いながら、右拳を柵に叩き置いた。
「法螺もたまには現実かえ」
「あっしは一度たりとも法螺なんか吹いたことはない」
「そういえば、そうかもしんねえ」
川岸を離れる。サルの大将目印のもとにつどう。
長柄の先に金色瓢箪をさかさまに括りつけており、その下で金の切裂幟が風にひらひらとなびいている。
派手に振る舞うだけが表現方法のサルの無教養ぶり、今日もいかんなく輝いている。
瓢箪馬印のもとにつどうのは、サルとクマ六、小一郎の他に、堀尾茂助や中村孫平次と言った昔ながらの家臣の他、与力の木曽川の川並衆、そして、半兵衛が独り言をぶつぶつと呟いており、あとはおれの手下のハンザと早之介。
陣幕は張らず、床几も並べず、サルを真ん中にして十数名の諸将が輪になって向かい合う。
「浅井備前守が織田を裏切ったは、まさに青天のナントカだがや。ここを切り抜けても厳しいいくさは続くだぎゃろうな」
サルは皆の顔つきをゆっくりと見回していく。
「進むも地獄、引くも地獄、どこに行っても地獄なら、鬼のカカアもちっとは菩薩がや」
「よく言いますね」
「なんだぎゃ、牛殿。おみゃあのことを言っているんだぎゃあぞ。どうせ岐阜に帰れても、おみゃあのカカアは菩薩じゃにゃあぞ。ほんだら、ここで死んだほうがええんじゃないんかえ」
「あっしの女房はあっしが死んでも菩薩にはなりゃしねえッスけどもね、藤吉郎殿の女房は藤吉郎殿が死んでくれたら菩薩にでもなるでしょう。天下のためにも藤吉郎殿こそここで死んだほうがいいんじゃないんスかね」
「かあっ! ほんだら、おりゃあもおみゃあも死んだほうがええじゃにゃあか! おみゃあは鬼のいる地獄からおさらばで、おりゃあのカカアは鬼が菩薩になって万々歳じゃ!」
「違いないです」
と、小一郎が笑い、皆がいちようにして破顔した。
「とにかく、おりゃあたちは地獄を突き進まなくちゃならんがや」
柔らかく透明な日差しが誰彼もの鎧兜に溶け込んでいる。
ほぐれた顔つき、それもまた、澄み切った眼差しとともに切りむすばれる。
「金ケ崎城には偽兵が入っておる。流言も回しておる。小六、小一、明智十兵衛と徳川三河が退いてき次第、着陣した朝倉を叩んだがや」
「かしこまった」
「深追いは禁物。牛殿、迎え撃つ手筈に違いはないかえ」
おれが目をやる。と、吉田早之介はうなずく。兜の眉庇から見え隠れするのは、暗殺者の目つき。
「ぬかりなく」
「茂助、孫平次、簗田勢が射撃しているあいだもありったけの矢を放つんだぎゃあぞ。押し寄せてくる敵兵があったら槍で軒並み殺せ」
「承知いっ」
「日が西に傾いたら全軍退却。日の入りまでには関の峠にかからなくちゃならねえし、日の入りまでには引いては押してを繰り返して敵方を塞がねばならにゃあ。峠まで敵方を連れてきたら、終わりだぎゃあからな」
「承知っ!」
「半兵衛--。なんかあるかえ」
皆の視線の先が、狂気をよどませていた半兵衛に集まる。
すると、半兵衛は、なんだか、冷酷かつ、侮蔑するかのようなふてぶてしい眼差しで諸将を眺めやってくる。
ところが、
「古来より!」
突然、瞼を活として開けた。
「おもしろきいくさはっ、負けて勝ついくさぞっ! ゆえに各々方よっ、歴史に刻む将兵たれいっ!」
半兵衛の思わぬ咆哮に、一同の興奮が達した。皆がおうっと吼え立てた。
逆さ瓢箪が、そよぐ切裂とともに燦然と輝く。
織田勢のおのおのすべてが舟橋を渡り終えて、天筒山の山麓からはすっかりなくなった。
舟がゆらゆらとうごめいている。
おれは、柵に張りつく沓掛勢ともども、そのときを待つ。
長い静けさだ。
太鼓の鳴りがかすかに聞こえてきたのは、空の真ん中に太陽が差し掛かったころだった。
笙川沿いも動く。
「行くぞっ!」
蜂須賀クマ六の声が放たれると、一千人が舟橋をぞくぞくと渡っていく。穏やかにして大きな日なたへ、さも、飲み込まれるようにして消えていく。
と、同時に、太鼓の鳴り、半鐘の鳴りも近づいてきた。敵方をさそう偽装工作としての狼煙が金ケ崎山のいただきから昇った。
「旗指し物をよく見さだめろっ!」
半兵衛の声が、柵に張り付く鉄砲隊、それを補う沓掛勢と木下勢に浴びせられていく。
そのうち、土煙が広がって、鎧兜の黒光りが姿となって見えてきて。
先頭に来る「厭離穢土欣求浄土」の大纏は、デブの三河の大将旗――。
騎馬武者は、三つ葉葵の旗指し物を折れ曲がってもなおのこと背負っており、袖壺に矢が突き刺さったままの足軽兵卒もいれば、肩を貸しつつつ貸されつつ、二人三脚のようにして懸命に走ってくる者もいる。
徳川三河守はまた一つ苦労してしまったようだ。
はるばる、太平洋のほうから、日本海のほうまで援軍に来てやった。というのに、信長に置き捨てられて、このざまだ。
それでも。
兵卒たちとともに舟橋を渡ってきたデブ三河は、おれやサルが駆け寄って出迎えると、転げ落ちるように下馬してき、その場に膝をつき、両手をつき、ぼろぼろに疲労困憊の顔つきながらも、
「簗田殿も殿軍ですか――」
汗だくの中から白い歯を覗かせてくるのだった。
「あとはあっしたちに任せてください。あっしと藤吉郎殿がここで敵方をふせいで、三河殿が無事に退却できる時間を稼ぎます」
そこへ、ファイヤー兜の本多平八郎が駆け寄ってきた。
「織田の大将殿っ! 朝倉方は手はずどおりに金ケ崎山へ向かいましたぞっ!」
「ほんだら、貴公たちはここで一息ついたのち、三方へ退くだぎゃ。恥ずかしながら、織田はすっかり引き払ってしまっておるだぎゃ」
「いや――」
三河守がつぶやく。
腰に引っ掛けていた手ぬぐいで汗を拭い始めると、
「我ら三河勢もここに留まるぞ」
と、風呂から上がってきたみたいな、わけもない顔だった。
あわてたのは本多平八郎。
「おやかた様っ! ここは死地ですっ!」
「そうですだぎゃっ。三河殿が岡崎に帰れなかったら、大変なことになりますだぎゃっ」
「三河殿は織田の盟友なんスっ! あっしらは三河殿を失うわけには行かないんスよっ!」
「何を申しておるのやら、皆々方々は」
鼻で笑った三河守。馬廻の者に向けて自分自身のケツの下を指さす。すると、床几の椅子が運ばれてきて、三河守はそこにどっかり落ち着いて、兜の紐(ひもを解き始める。
「平八、皆の者を休ませろ。息が整い次第、我ら三河勢がいかほどのものか、織田の御大将たちに見せつけてやるのだ」
「三河殿っ!」
「心配ご無用。わしはこれまでに一度も死んだ試しはない」
「えっ?」
「ん?」
ぎょろ目を可愛げな点にして、デブの三河はとぼけたツラだった。
おれは口許に笑みを浮かべてしまう。
こいつは駄目な奴だ。
「藤吉郎殿、お言葉に甘えましょう」
サルはむっつりと眉をしかめる。その気持ちはわかる。三河勢を留まらせていたとなると、信長にボコられかねない。
が。
「半兵衛っ!」
サルがそう呼びつける。半兵衛はにやにやと笑いながらやって来た。戦法のあらましを三河勢に説明するようサルに命じられる。
「これはこれは。屈強な三河勢にお味方いただけるとは、八幡神も我らを見捨てていないようだ」
「この偏屈は与力の竹中半兵衛ですだぎゃ」
「貴公が噂の――」
にたにたと笑うままに、半兵衛が戦場を指差しながら説明していけば、三河守は瞠目して手ぬぐいの手を止めていた。
そのうち、織田永楽銭の黄旗を背負った一軍も舟橋を渡ってくる。眼光をほとばしらせながら、明智十兵衛が肩で息をつきつきやって来る。
「木下殿っ、これはっ!」
と、火縄銃の列に驚きを見せた。
半兵衛は依然としてにたにたと笑っている。
「簗田左衛門尉が三段撃ちなるものを披露するようです」
「三段撃ち?」
「十兵衛殿も残りますか」
おれが問いかけると、十兵衛は三河守を見やる。
三河守はどっかりと腰かけている。
「これでは、残れと言っているようなものだ」
と、十兵衛は冗談めいて笑った。
「そんなら、みんな合わさったからには、まともに戦っても、いい勝負なんじゃないんスか」
「いや、簗田殿。三河殿の兵卒はともかく、我らは半数近くを失っておる。疲労もはなはだしい」
「何を言ってんだぎゃあか、牛殿は。日の入りまでには関の峠だぎゃあぞ。五分五分でやり合っても、浅井が着陣したら終わりだぎゃろうが、たわけ。どのみち、おみゃあは腹を括るんだぎゃ」
「括ってますよ。ただ、一つの案として言っただけだ。あんたはいっつも一言多いんだ」
「まあまあ、簗田殿も木下殿も。どちらにせよ、簗田殿の戦法、お手並み拝見といたしましょう」
「腹括れだぎゃ」
「括っているって」
おれは舌打ちすると、その場を立ち去り、鉄砲隊の柵までやって来る。
それまでは静まっていた笙川沿いであったが、先発隊が合流したことにより、一気にいくさめいてきた。負傷者の手当て、陣形を構築するための怒号、すべての兵卒たちが渡り終えてきても、舟は軋みを上げて揺らいでおり、鉄砲隊だけが静かにそのときを待って眼光を磨いている。
抜き身の太刀を握りしめながら、早之介が歩み寄ってきた。
「三河殿と十兵衛殿は退却しないのですか」
「おれたちと一緒に殿軍を務める」
「そうですか」
さゆりんは眉庇を持ち上げて、徳川三河の大将旗を見つめる。
「それは都合がよろしいですね、殿」
「当てにするな。十兵衛殿が連れていた連中は半分に減っちまったらしいんだからな」
「違いますよ。これを見せるにはですよ」
さゆりんはそう言いつつ、柵の前に片膝立ちで並ぶ鉄砲隊を、顎でくいっとしゃくった。
それにしたって、徳川家康に豊臣秀吉に明智光秀が揃うだなんて、ここはとんでもないいくさ場になった。
歴史の将兵たれ、か。
もっとも、木下藤吉郎が豊臣秀吉になるだなんて誰もが思っていないだろうし、本当にそうなるのかもよくわからん。
徳川家康だって、家康というよりデブの三河だし、十兵衛だって、明智光秀の語感がしっくりこない明智十兵衛である。
それに、簗田牛太郎とかいうわけのわからねえ武将も加わっているのだ。
この場におれみたいな正体不明の不審者がいるってことが、唯一、この先どうなるのかまったくわからない原因である。
しかし、今となっちゃどうでもいい。
未来が云々、歴史が云々ではなくて、不審者のおれがどうやって簗田牛太郎として存在するかであって――。
金ケ崎山の頂上から立ち昇っていた狼煙はすでに消えている。
太陽は空の真ん中に差し掛かっていた。
側面を突いたらしき蜂須賀クマ六の部隊が退き太鼓を掻き鳴らして戻ってくる。
おびき寄せてくる。
おれの視界に、街道をびっしりと埋め尽くす白い旗指し物が入ってきた。
――。
ここは越前国敦賀郡。
時は永禄十三年だが、改元されて元亀元年。
桶狭間のときからちょうど十年。
槍一振りを握り締めて、単身敵陣に突っ込んでいった十年前。
あのときから、おれの中身はちっとも変わっていないような気もする。
けれども、おれの目の前にはおれの兵卒たちが鉄の凶器を構え込んでいる。
さゆりんが対岸をじっと見据え、ハンザが槍を握り締めている。
「手柄が来たぞ」
と、足軽組頭の一人がうそぶいた。
簗田勢も木下勢も弓兵が背負った矢筒から矢を抜いてくる。
桶狭間のときであれば、槍を振り回しているだけでよかったかもしれん。
しかし、今、ここにいて、おれは知る必要がある。
者どもを道連れにした殺し合いの果てに何があるのか――。
舟橋が大きく揺れて、太鼓の鳴りのもと、蜂須賀クマ六の部隊が次から次に渡河してくる。
さゆりんが吼えた。
「まだだっ! 火縄を挟むなっ!」
蜂須賀部隊を散り散りになって追い込んできた朝倉方だったが、対岸に並び立っている旗指し物と、ご丁寧に揃っている舟橋を前にして、敵方の兵卒たちは立ちどころに足を止めて困惑し、あるいは視線をしんとさせてこちらを見張ってき、何かの計略と思ったのだろう、蜂須賀部隊を取り逃がすようにして川を渡ってこない。
金ケ崎城がもぬけの殻で、一度は引っかかってしまっているから躊躇しているのだろうか。
敵方が思いがけずに慎重肌であったのは、幸運以外の何ものでもなかった。
敵味方が入り乱れていなければ、射撃の的をよく見定められる。
半兵衛の声がどこからか起こった。
「弓衆っ! 矢を射掛けろっ!」
太鼓が鳴って、鐘が鳴り、一斉に弓を引き絞って矢を放っていく。
波紋を作る川を越えて矢が雨あられに飛んでいく。これに応戦して対岸の敵方も矢を放ってくる。
おれやハンザが矢盾を前にして屈み込むも、さゆりんは太刀を振るって矢を払い捨てていた。
「臆するなっ! 敵方だけを見据えろっ!」
そのうち、矢の応酬の最中で敵方が太鼓を掻き鳴らした。
「織田の者どもおっ! 尋常に勝負いたせいっ!」
こちらの誰もが無視していると、騎馬武者が槍を振り上げながら再び声を放った。
「我に続けいっ!」
と、朝倉勢が団子になって舟橋に差し掛かれば、
さゆりんが太刀の刃先を空に向かって高々と突き立てた。
「一陣、火縄を挟めいっ!」
刃先が陽光を照り返すと、鉄砲隊の一列目が一糸乱れぬ動作で火縄を火挟みに括り、
「二陣、火蓋を落とせいっ!」
「挟みよしっ!」
「構えっ!」
さゆりんの三白眼がいっそう際立つと、柵の目から一斉に銃口が突き出される。
おれは見た。
三十丁余の冷たい鉄が並ぶ。
向かってくるのは、舟橋を叩く足音、太鼓の鳴り、怒号。
朝倉方の者どもは、織田郎党を罵倒しながら突っ込んできたが、息を呑んでそのときを待つおれは、連中が何を叫んでいるのかわからないでいた。
おれが見ているものは、見れているようでいて、真っ白だった。
でも、瞳孔を開きっぱなしにして、鼓動を早くさせているのは、おれだけじゃないはずだ。
くゆるのは火縄の焦げた匂い。
鉄砲隊の連中もさることながら、足軽兵卒たちも、木下勢も、ここにいる皆が皆、汗をつたわらせて待っていったはずだった。
そして、思いを一つに共有していたのだ。
貫け。
「撃ていっ!」
その切っ先に光の丁字を結んだままの太刀が振り下ろされ、
「撃てえっ!」
「撃てっ!」
組頭たちも号令しながら向かう敵へと刀を振り下ろし、
銃口が一斉に火を噴いた。
とともに、空を割らんばかりに銃声が轟き、
一瞬のうちに明滅した火の並びは、何かしらの解答のようにして、
おれがこれまでに受けてきた罵倒や蔑みを、
鮮やかなまでに薙ぎ払い、
噴出された硝煙がひとたびに柵を包み込んでは、
その白いゆらめきは、おれの醜悪な争いがここに終わった余韻と、おれの途方もない戦いがここから始まる予兆めいたものを漂わせ、
その結果は。
おれはおぼつかない呼吸で舟橋に顔を振り向ける。
そこでは、銃弾を浴びた誰かが悶え、あるいは倒れ伏し、あるいは舟橋から川面へと転げ落ちて、銃声に驚いたらしき馬が暴れ回り。
そうして、おれが口を開け放して震えているあいだにも、
すでに二列目の連中が一列目の射撃手と銃を交換しており、
「挟みよしっ!」
「弾込めよおしっ!」
「構えいっ!」
「構えっ!」
さゆりんの刃先が再び振り落とされる。
おれは息を呑む。
「撃ていっ!」
「撃てっ!」
「撃てえっ!」
銃声が轟き、銃弾が風をつんざく。
射撃が一過性の攻撃だと思っていたのだろう、舟橋をぞくぞくと突っ込んできていた敵方は立ちどころに吹き飛び、転落し、
彼らが戸惑っているあいだにも、
「撃てえいっ!」
さゆりんの号令がまた襲いかかる。
三十発余の銃弾が追い立てる。
敵兵は誰もここに辿り着けない。
止むことのない火の明滅と銃声、尽きることなくたなびく硝煙、次々と朽ち果てていく朝倉方の将兵たち。
おれはただただ震える。
これが成果の結晶であるにも関わらず、胸に沸き立つものが、もはやどこの感情から噴き出してきたものなのかわからない。
けたたましい音が引きも切らずに砕け散っているさなか、矢が飛んでくるのも厭わずにおれは立ち上がってしまう。
両の拳を握り締め、口を大きく開け広げ、両目を大きく見開いて、
その声を、さゆりんに向けてか、兵卒たちに向けてか、敵方に向けてか、それとも、どこかとんでもないところに向けて、
「 」
と、言葉ではない叫び――。
おれは絶頂に極まった。




