第4章-1 許されざる行い
第4章開始です。
でだしは毎度お馴染みのマーリンのすれ違いからです。
「なんじゃとーーー!テンマは王都に行ったじゃとーーー!」
昼のセイゲンの街中に、マーリンの大声が響き渡る。
マーリン達がセイゲンに着いたのは、テンマ達が王都に向かってから1週間後の昼の事であった。
国王の書状を門番に見せ、貴族専用の入口から特別に入ったマーリン一行は、すぐさま情報収集の為にギルドにやってきて、そこにいた2羽のロックバードをテイムしている少女から得た情報の内容に、思わずマーリンは叫んでしまったのだ。
「ひいぃ、ご、ごめんなさい!」
わしは反射的に謝ってしまった少女を見て、周りが見えていなかった事に気づいた。
「す、すまんのう、思わず大声を出してしまった……」
「どうした!エイミィちゃん!」
「そのジジイがなにかしたのか!」
この子の声を聞きつけた男達が二階からドタバタと降りてきて、少女を守るように立ちふさがった。
「おい、じいさん!エイミィに何の用だ!」
「と言うより、エイミィに何をした!」
四人の男達が威嚇するかのように声を荒げるが、正直、わしに挑むには役者不足ではある。
しかしながら、この子を怯えさせてしまったのはわしなので、正直に謝るしかない。
「この子がわしの孫を知っておるそうなので居場所を聞いたのじゃが、すでに出発した後じゃったので、ついつい大声を出してしもうた……誤解させてすまんかったのう。お嬢ちゃんも本当にすまんかったのう」
そう謝っていると、2階からわしと同年代くらいの男が降りてきた。
「双方に誤解があったようなので、ここらで落ち着きませんか?私はこの者達のまとめ役のような事をしている、アグリ・モナカートと言う者です。お会いできて光栄です、賢者マーリン殿。以後、お見知りおきを」
そう言いながらアグリと名乗った男は、丁寧な挨拶をしてきた。
「いや、騒がせてすまんかった。賢者はつけんで良いぞアグリ殿。こちらこそよろしく頼む」
そう言ってアグリと握手を交わしたのだが、気が付くとギルドは静まり返っている。
特に先程の四人は、人形のように動きを止めて固まっていた。
不思議に思っていると、アグリ殿が笑いながら、
「どうやらこやつらは、誰を相手にもめていたのか知らなかったようですな……こりゃ、そろそろ動かんか」
とアグリは四人に対して、手に持っていた杖でそれぞれの頭を軽く小突いた。
「ももももも、申し訳ありません!」
「まさかあなた様が、かの有名な賢者様だったとは露にも知らずに!」
「どうかお許し下さい!」
「申し訳ございませんでしたーーー!」
といきなり動き出した男達は、素晴らしい程の速さで土下座をして謝りだした。
「いや、この件はわしに非があるのじゃから、むしろこの子を守ろうとした事は当然のことじゃから、どうか立っては貰えんか?」
こんな事で土下座をされても、わしの方が困ってしまう。そんなわし達を見かねたアグリ殿が間に入ってくれた。
「これ、お前達がさらに騒ぎを大きくしてどうする!さっさと立ちなさい」
その一言で男達は立ち上がったが、それでも気まずそうな顔は変わらなかった。
とりあえずはアグリ殿の薦めで二階のテーブル席に行き、この街でのテンマの話を聞いてみることにした。
「なぬ!テンマがドラゴンを眷属にしたと言うのはホントの事ですかな!」
アグリ殿達はいろいろな事を話してくれた。テンマのダンジョンの攻略速度や、貴族の子息をぶん殴り、オーガを怯えさせた事などあったのだが、ドラゴンの一件はそれらが霞んでしまうほどの衝撃であった。
「はい!先生のドラゴンは、ソロモンって言う名前の可愛い子です」
とエイミィは教えてくれたが、
「先生とな?」
思いがけない言葉に、わしはエイミィの顔をまじまじと見てしまった。
「はい。先生にテイムの基礎を教えてもらって、この子達を眷属にする事が出来ました」
と言って、バッグから2羽のロックバードの雛を呼び出し、テーブルに乗せて撫で始める。
「ほぉ~、あのテンマがのう……ん?この子達は普通より魔力が高そうなんじゃが」
この雛達から感じる魔力が雛にしては大きく感じるのでアグリ殿に聞いてみたが、アグリ殿は首を横に振り、
「それが私達にも不思議なんですよ。うちのメンバーの一人が言うには、自分のサンダーバードの雛の時よりも魔力が高そうだ、とまで言うのですよ……もしかしたら、孵化させたのがテンマである、というのが関係しているのかもしれません」
その言葉を聞いてわしは、
「テンマだし、そんな不思議な事があってもおかしくはないのう……」
と呟いたが、周りの者も納得していた。それだけで、テンマが常識はずれの事をしてきた、と言うのが理解できそうだ。
「しかし、孫を探しに来て、まさか孫弟子ができていたとは思いもしなかった」
と言ってエイミィを見ていると、
「ははは、そう言えばテンマの弟子ならば、マーリン殿にとっては孫弟子になりますな!」
とアグリ殿は笑っておったが、近くで聞き耳を立てていた魔法使い達は羨ましそうな視線をエイミィに向けていた。
「マーリン様、テンマを追いかけるなら早めに出発したほうがいいのでは?」
と、それまでわしの後ろで控えていたエドガーが遠慮がちに進言してきた。
「そうじゃの、今から追いかければ王都に着く頃に会えるかもしれんの」
そう思い、その場にいたテイマーズギルドの面々に挨拶をして、テンマを追いかける為に外に向かう。
ギルドから出ると、すぐ目の前に見覚えのあるオーガがおった。たしか、サモンス侯爵のところのガリバーだったか……
ガリバーはわしの視線に気付くとこちらの方に体を向けた。
そして驚くことに頭を下げて挨拶をしてきたのだ!
正直、オーガにここまでの知能と礼儀が備わっているとは思わなかった。
その為、ガリバーの影にサモンス侯爵がいた事に気が付くのが遅れた。サモンス侯爵の後ろには彼の息子もいる。
「おお!マーリン様、なぜここに?」
サモンス侯爵はわしの所に早足で近寄ってきた。その時、護衛の騎士達が警戒をしたが、相手がわしだと分かると警戒を解き、周囲へ意識を向け直した。
「サモンス侯爵か……いや、実はグンジョー市まで孫に会いに行ったのじゃが、生憎とすれ違ってしまっての。それで今度はこの街におると聞いたのじゃが、またも一歩遅くてのぅ……今から王都に向かうところなのじゃよ」
「それはなんと言っていいやら……もしかして、お孫さんは冒険者なのですか?」
すれ違い続きの旅に、侯爵は言葉がとっさに思いつかなかったのか、少し強引に話を変えてきた。
「ああ、テンマと言うてな。どうやらそれなりの活躍をしておるようじゃ」
「テンマですって!」
サモンス侯爵はテンマの名前を聞くとひどく驚いた。そして、その後ろでおとなしくしていた息子の方も驚いて……いや、怯えていた……何故かガリバーも同様に怯えているようなのじゃが……
「孫が何か迷惑をかけたのかのぅ?」
テンマが何かしたのかと、少し不安になったのでそう訊ねてみると、
「いえいえ、その逆です。実は私達の方がテンマ殿に迷惑をかけてしまって……」
とサモンス侯爵は申し訳なさそうに、彼の息子……ゲイリーとテンマの間に起きた出来事と、その後の事件の事を話し始めた。
「そういう訳で、テンマ殿には迷惑をかけた上に助けてもらったのですよ」
言い終わるとサモンス侯爵はゲイリーをちらりと見て、恥ずかしそうにしていた。
「あやつは誰が相手でも容赦がないのぅ……」
「いえ、息子がしでかしたことは、たとえ死刑になったとしても文句は言えますまい。しかも、それを許してもらった上に、再度命を救ってもらったのですから……なので息子は現在、性根を叩き直しているところなのですよ」
道理でゲイリーがやつれているように見えていたのか……
「ほどほどにの……とにかくこれから出発じゃから、これで失礼するよ」
「お引き止めして申し訳ありませんでした。道中お気をつけて」
今度こそわしらは王都に向けて出発した……途中で4人組の冒険者らしき者達から、テンマが~、とか、テンマに~、とか聞こえたが無視をして街の外に急いだ。
「今度こそ、絶対に、テンマと、再会、するんじゃ~~~」
「マーリン様!危ないですから、馬車から身を乗り出さないで~~~」
興奮しすぎて馬車の外に向かって吠えておったら、必死な表情をしたクリスに馬車の中に押し戻されてしまった……反省、反省。
「へっくしゅん!」
「テンマ、大丈夫?」
王都に向かう道中、俺は急に鼻がムズムズしだして盛大なくしゃみが出た。
その音を聞こえたようで、御者席にいる俺を心配したジャンヌが声をかけてきた。
「ああ、平気だ。急に鼻がムズムズしただけだから」
今日は天気がいいので、いつもの魔法を付与した馬車では無く、普通の荷馬車を使っている。
なので、俺のすぐ後ろからジャンヌが体を乗り出すようにして心配していた。
「ああ、まるでそうしていると恋人のようですね」
アウラは毎度のごとくからかってきているが、
「アウラの言葉にはもう慣れたわよ!」
ジャンヌには免疫が出来つつあった。そんなジャンヌを見たアウラはつまらなさそうな顔をしていたが、何かを思いついたようで急に下品な顔になり、
「テンマ様~、夜寝る時は、お二人で魔法の馬車をご利用ください。もちろん私は外で寝ますから~……あっ、ご安心ください。なにがあっても、中を覗いたり聞き耳を立てたりはしませんか、へぶっ!」
言い切る前に、アウラの額めがけて小石を指で弾いて命中させた。
大分手加減はしたが、油断していたところに思わぬ攻撃を受けて、アウラは後ろに仰け反っている。
「アウラ!いい加減にしなさい!変な事を言わないでっ!」
そんなアウラに、ジャンヌは顔を真っ赤にして追撃を加えていく……最も、追撃と言ってもせいぜい、馬車に積んであった薪を投げつけるだけであったが……
しかし、最近の訓練で力の強くなってきているジャンヌの投擲は、アウラをノックダウンさせるには十分だったようだ。
外に薪が飛び散り、アウラも目を回してしまったので、ここらへんで食事休憩をする事にした……ちなみに薪の回収は、シロウマルとソロモンが遊びながら集めたので時間はかからなかった。
「さてと、今日は肉でも焼くか!」
近くに落ちている石で土台を組み、薪を燃やして鉄板を乗せた。
鉄板が熱くなるまでの間に肉を切り分けていると、俺の横にはこういう時だけ行儀よく座る食いしん坊達が、口からヨダレを垂らして待っている。
仕方がないので生の肉をレタスに包んで食べさせると、器用にレタスだけを吐き出して次の肉をねだってきた。
「キャンッ!」
「ピキュッ!」
二匹とも同じ事をしていたので、愛のムチを与えてやると、渋々といった感じでレタスをかじり始める。
「テンマ、アウラ気がついたわよ!」
「じゃあ、昼飯にするか!」
丁度肉も焼けて、あたりには食欲をそそる香りが漂っていた。
肉に付けるものは塩とタレを用意しており、そのほかにはサラダやパン、牛乳を用意した。
目を覚ましたアウラは辺りの状況を確かめて、ジャンヌの隣りに座った。
「では、いただきます」
「「いただきます」」
「ワンッ」
「キュイッ」
実際にはこの世界には食事の前に手を合わせることは少なく、教会関係者や敬虔な信徒が食事の前に祈りを捧げる時くらいで、他は貴族などのように乾杯の音頭をとるか、それぞれで簡単な祈りを口頭で済ませるくらいだ。
俺のように手を合わせて、いただきます、というのは珍しいのだが、同じような習慣は無いと言う訳ではないので、俺がやっているのを見て自然とジャンヌとアウラもやるようになった。
「そう言えばテンマ、王都への道を間違っていない?さっきの立札には、王都は右、って書いてあったようだけど」
「何か目的でもあるんですか?」
食事が終わりかけの頃、ジャンヌとアウラがそう聞いてきた。
「ああ、少し遠回りになるけど、この先の草原に野生の牛が生息しているみたいなんだ。だったらついでに二~三頭狩って、牛肉を仕入れようかと思ってね」
牛肉に反応してシロウマルとソロモンは急に落ち着かなくなっていた。一刻も早く牛肉が食べたいようだ。
「……シロウマル、ソロモン、念の為言っておくが、相手は害獣じゃないんだから狩り過ぎはダメだぞ!」
その言葉を聞いて二匹は真剣な顔で頷いていたが、その口からはヨダレが垂れていたので、いざとなったらバッグに閉じ込めておこう、と心に決めた。
「牛肉美味しいもんね、シロウマル」
「ここのところ豚ばかりでしたから、久々に食べたいですね、牛」
俺の考えなど知らないジャンヌはシロウマルを撫でながら、アウラは調理法を考えながら答えていた。
二人も賛成したところで後片付けをして、牛狩りに向かうことにした。
そのまま1時間も進むと川が流れており、目的の草原はその川沿いに1時間程進んだ所にある。
「テンマ、牛いる?」
「近くにはいないようですが、本当にこの辺りなんでしょうか?」
目的の草原に入ったところで、ジャンヌ達は目を凝らして牛を探し始めたが、見える範囲では牛はいないようだ。
「ソロモン、上空から牛を探してみてくれ。シロウマルは牛の臭いがしたら俺に知らせてくれ」
「ウォッフ」
「キューイ」
二匹に指示を出して、しばらくの間草原を王都の方角へ進んでいると、急にソロモンが俺の横に降りてきて体を動かしながら何かを伝えようとしてきた。
「テンマ、牛見つかったって?」
ジャンヌが俺に聞いてくるがソロモンは他の事を伝えたいらしく、首を横に振った後、俺を見つめてきた。
「何だソロモン?……ふん、ふん……何だって!わかった、すぐに向かおう!」
「えっ!今のでわかったの?」
「何となく、ね!」
俺はソロモンが知らせた方向にタニカゼを向けて走らせ始めた。
「ソロモンはなんて言ってたの?」
「この先の川原で、子供達が牛の群れに襲われているらしい!」
しかし、馬車を引いたままでは思うように速度が上がらなかったので、
「悪いが先に行く!馬車はゴーレムを出すからそいつらに引かせてくれ!シロウマルはジャンヌ達の護衛だ!ソロモンは道案内を頼む!」
そう言って、バッグからゴーレムの核を4つ取り出して地面に投げた。
「命令権は二人に移したから後は頼む!」
俺はタニカゼから留め具を外して飛び乗り、ゴーレムが現れたのを確認してからソロモンの後を追いかけた。
流石に馬車を外したらそれまでの倍以上のスピードが出始め、振動も大きくなってきたので、自然と乗り方が競馬の騎手のようになっていた。
久々の全力疾走だったので、振動が少し辛いが弱音を吐いている暇はない。
それから10分もしないうちに、襲われていると言う子供達が見えて来た。
子供は二人おり、同い年くらいの男女である。
その子らは貴族のようで、装飾の入った服を着ていて、数人の護衛らしき男達もいた。
男達は奮戦していたが牛の勢いに完全に負けており、数の差もあって押されている。
「せいやっ!」
俺は護衛達と牛達に聞こえるように気合を発して、牛を蹴散らしながら双方の間を割るようにして突進し、強引に距離を空けさせた。
突然の乱入者に護衛達と牛達は一瞬気を取られ動きが止まった。
「ストーンウォール!」
その隙に俺は双方の間に壁を出現させて分断することに成功した。
しかし、我にかえった牛達は壁を破壊しようと体当たりを始めた。
なにがそこまでさせるのかは分からないが、牛達の中には角が折れ、脳震盪を起こしてふらつくものもいたが、それでも牛達は体当たりを止めない……外にいる三十数頭の牛達全部が、同様に怒り狂っていた。
「一体何が……」
あまりにも異様なその光景に俺は驚き、襲われていた子供達の方を振り向いた。
そして、牛達の怒りの原因を見つけてしまった。
「どなたかは知りませんがお願いします!力をお貸しください!」
俺の視線に気づいた子供達が頭を下げながら近寄ってきたが、
パシンッ、パシンッ
と、俺はその子供達の頬を叩いた。
突然の事に混乱し尻餅をついた子供達の代わりに、周りにいた護衛達が騒ぎ出す。
「貴様!何をする!この方達が何方か知らないのか!」
「その蛮行、許すわけにはいかん!」
と二人の護衛が剣を抜き、俺に切りかかろうとしてきたが、二人が剣を振るうよりも早く俺の魔法が直撃をして、護衛は後ろに吹き飛び意識を失った。
その他の護衛は怪我や疲労が激しかったが、俺の行動を見て立ち上がり剣を抜いた。
「お前達が何故叩かれたかわかるか?」
俺は護衛を無視して尻餅をついている二人に訪ねた。
「「……」」
二人は黙って首を横に振る。俺は仕方がないので、子供のうち男の子の方の首を強引に向けさせて、
「どんな生き物でも、愛しい我が子が無残に殺されたら怒るに決まっているだろう」
俺が向けさせた方角には、十数頭の仔牛が体を魔法で貫かれ、あるいは剣で切り裂かれて死んでいた。
外にいる牛の群れの数からして、恐らくは群れの全ての仔牛が犠牲になったのであろう。
「そして、こんな事になった以上。外の牛達は人間を見ればこれからも襲って来るだろう……可愛そうだが、外の牛達も殺さなければならない」
そこで言葉を区切り、俺は子供達をもう一度見た。
「俺は狩りをするのを否定はしない……冒険者だからな。だが自分の身を危険に晒さずに、安全な位置から遊び半分で殺すのは許さない。そんな人間が国のトップになったなら、この国は滅びるだろう」
あの仔牛の死体の周りには、魔法で壁を作った跡が残っていた。恐らくは何らかの方法で親達……特にオスを引き離して、その隙に仔牛達を閉じ込めて殺したのであろう。
これが食べるためにやった事ならここまでの怒りはわかなかっただろうが、あの死体には魔法を乱発した跡や、剣で何度も切りつけた跡が残っている。
仔牛達の死体を見ていると、壁が牛達の突進に耐え切れず崩壊した。
俺達の目の前に現れた牛達の多くは、角が折れ頭部からは血を流しながらふらついており、いつ倒れてもおかしくないように見えるが、その目は血走っており、こちらにものすごい殺気と憎悪をぶつけている。
「すまない……」
俺はそう呟いてから、牛達に向けて光魔法を放った。魔法は牛達の前面で弾け、辺りを光で埋め尽くし視界を奪っていく。
光が弾ける一瞬前に俺は目を閉じて、バッグから刀を抜き出して群れの中へと走り込み、牛の放つ殺気を頼りに刀を振るった。
一頭につきひと振り、そしてそのひと振りで牛達の苦しみが少なくて済むように首を落としていく。
光が収まり辺りがうっすらと見え出すと、そこには首が落ちた牛の死体が全部で三十一も転がっている。
俺はゴーレムを召喚して、牛達の頭部を残して全ての胴体を集めさせ、バッグにしまい込んだ。
子供達と護衛達は、俺がゴーレムを召喚したのを見て驚き警戒したが、それを無視して地面に魔法をつかって穴を掘り、ゴーレムに命じて仔牛達の死体と牛達の頭部を穴の中に入れていった。
その後は穴の中に向かって火魔法を放ち、死体が骨まで灰になるように燃やし続けた。
俺がここに着いてから30分以上が経過した頃、ようやくジャンヌ達も到着した。
「テンマ、何焼いてるの?それにこの人たちは?」
ゴーレム達に馬車を引かせて登場したジャンヌ達に、またも護衛達は警戒していたが、ジャンヌ達は護衛を無視して俺に近づいてきた。
「ああ、この騒ぎを起こした愚か者達だ」
俺の言葉にジャンヌ達は子供達と護衛達を一瞥したが、どういった意味かは分かっていないようだった。
当の護衛達は、俺の言葉に腹を立てたようで、何か文句でも言おうとしたみたいだったが、シロウマルのひと睨みで怯み、口を閉ざした。
「埋葬も終わったし、王都に向かおうか」
骨まで灰になった牛達を埋めてからジャンヌ達にそう告げて、ゴーレム達の核を回収しバッグにしまい、タニカゼを馬車に繋ぎ直した。
その間にシロウマルとソロモンは、壁のあった所で何か必死になって探しているようだ。。
「何かあるのか?」
俺の言葉に反応して顔を上げたシロウマルの口には、先程の牛達の角が咥えられている。
シロウマルだけでなく、ソロモンも同様に口に角を咥えていたが、ソロモンはシロウマルがやっとの事で角を2本咥えているのに対し、口に1本、両手に2本、足に1本と合計で4本もの角を獲得していた。
それを見たシロウマルがあまりにも悔しそうな顔をするので、二匹の角を俺が預かり、その辺りに落ちていた角も集めさせてバッグに保管することにした。
二匹は、全部の角を持って帰ってもいい、という事を理解したらしく、嬉しそうな顔をしながら角集めに奔走した。
「あの……その……」
シロウマル達を見ていたら、背後から男の子が声をかけてきた。
「……何か用でも?」
俺の無愛想な言葉に男の子は一瞬ひるんだが、すぐに持ち直したみたいだ。
「申し訳ありませんでした!そして、ありがとうございました!」
そう言って、勢いよく頭を下げてきた。
そばにいた女の子は男の子の行動に驚いていたが、すぐに男の子と同じように頭を下げた。
二人の行動に驚いたのは護衛達だ。すぐに止めようと動き出したが、シロウマルがその動きを読んでいたかのように立ち塞がり威嚇した。
「グルルルルルゥ」
護衛達はシロウマルが立ち塞がった時、とっさに腰の剣に手をかけていたが、シロウマルの唸り声に直ぐ様剣から手を離し、両手を上げて降参した。
男の子と女の子は、シロウマルの唸り声に一瞬怯えたようだが、すぐに俺の目を見つめ直した。
正直言って、護衛達よりも肝が据わっている。流れている血の力であろうか。
「要件がそれだけならば失礼させていただきます。王子様」
俺の言葉に、二人の子供と護衛達は驚愕の表情を浮かべて静まりかえった。




