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第8章-4 デート?

「ジン達も知らなかったか」

「よほど珍しい蜘蛛なのかもしれんのう」


 ジン達と別れた後、戻った俺とじいちゃんはアパートの横に馬車を出し、中で三匹の蜘蛛を見ていた。少し前までアムールとブランカが風呂に入りに来ていたが、今はいない。ブランカ的にはもう少しいるつもりだった様だが、アムールが俺のベッドに潜り込んで眠ろうとしていたので、強制的に連れ出していった。


「ジン達は、セイゲンで一番奥まで潜っているパーティーだから、見た事くらいはあると思ったんだけどな……明日アグリ達に聞いて駄目なら、後は王様達に頼むしかないな」


「そうじゃのう」 


 一応俺だけは、正確な名前が『鑑定』でわかっているのだが、俺が『鑑定』を使える事は、誰にも話していないので、この蜘蛛達の事は、金色を『ゴールデンスパイダー』、銀色を『シルバースパイダー』と名付けている……そろそろ俺が信用できると思う人にだけは、全ては無理だが俺の使える魔法を教えてもいいかも知れない。特に、じいちゃんにいつまでも秘密にするのは辛い。


「それでテンマ、この蜘蛛達は『テイム』出来んのか?」


「もう少しで出来そうなんだけど、この蜘蛛達、今は俺を警戒しているみたいで、パスが繋がりそうで繋がらないんだよ」


 肉の切れ端を餌として与えてると食べるのだが、手でやると食べず、目の前に置いておくと、しばらくして口にするという感じなのだ。 


「まずは警戒を解かないと話にならないみたいだから、バッグの中に放し飼いにしてみるよ。餌をちゃんと入れておけば、共食いする事もないだろうし」


「気長に待つしかないようじゃの」


「そうだね」


 俺は、予備のディメンションバッグの中から少し小さめのやつを選び、その中に蜘蛛達を放した。餌となる肉と水分補給用の野菜を多めに入れておいたので、数日は持つだろう。


「それじゃあ、おやすみ」


 部屋の明かりを消して眠ろうとしたが、今日あまり出番のなかった三匹にベッドに潜り込まれ、ものすごく窮屈だった。 




「それじゃあ、テンマは潜らないんだな。そうなるとマーリン殿も行かないっと……お前もか、アムール?」


 軽めの朝食の後で、ブランカは俺の予定を聞いてじいちゃんとアムールの予定を推測した。じいちゃんは、俺が行かないのにダンジョンに潜っても仕方がないと、俺が朝一で予定を告げた時に言っており、今日はゆっくりと過ごすそうだ。アムールは俺についてくる気の様で、ブランカに予定を告げると、すぐに俺のそばに移動してきた。


「なら俺はどうするかな……一人で潜っても面白くはないしな……そうだ!テンマ、お前の知り合いの鍛冶師を紹介してくれ。王都ではいい武器が見つからなくてな」


「そういう事なら、俺も一緒に行った方がいいだろうな。俺の刀や武具なんかを見てもらった人で、少し気難しいところもあるけど、腕は確かだぞ」


「頼む」 


「それじゃあ行くか。じいちゃん、出かける時は戸締りだけお願いね」 


「おおわかった、気をつけての」


 じいちゃんに見送られ、俺達三人(+スラリン達)はアパートを後にした。まだ朝と言っていい時間帯ではあったが、チラホラと準備を終えている屋台も出てきており、早いところでは販売を始めている屋台もあった。 


「親方の工房までは少し距離があるから、乗合馬車に乗ろうか」


 俺達だと、もしかすると走っていった方が早いかもしれないが、街中で人をかき分けながら走るのは流石に問題があるので、近くに止まっていた乗合の馬車を選んだ。

 馬車に揺られて四十分程で、親方の工房近くの停留場に到着した。ここから十分も歩けばガンツ親方の工房だ。


「ガンツ親方いますか」


「おーう、誰だ……って、テンマか。帰ってきていたんだな。活躍は聞いているぞ。かなりやらかしたそうだな!」


 工房の奥から姿を現した親方は、会って早々に豪快な笑い声をあげた。

 

「かなり暴れたそうだから、装備の手入れもしなければいかんだろ。少し見てやるから、ここに出してみろ」


 俺がブランカを紹介しようとする前に、親方は俺の装備を出す様に言ってきた。親方に逆らっても面倒臭いだけなので、バッグに仕舞ってある装備を大人しく出す事にしたが、手入れはちゃんとやっているし、そもそも新調したものばかりなので、問題はないはずだ。


「ほう、装備を新調したか。なかなかの腕の持ち主の様だな……もしかして、ケリーが作ったものか?」

「ケリーの知り合い?」


「何だこの娘は?でかいのもいるな」


 ケリーに反応したアムールの言葉に、親方はようやくブランカとアムールに気がついた様だ。


「これも、ケリーとテンマに作ってもらった!」


 アムールは、自分の着ていた山賊王装備を、親方の前でひらひらさせている。


「これもか、あいつも腕を上げた様だ。まだまだ甘いがな」


 親方は、俺の革鎧を持ち上げて、軽く叩いて何かを調べている。そしてそれが終わると、アムールを回らせて、装備を見ていた。


「まずテンマの奴だな。革鎧としてみたら、俺が見てきた物の中でもトップクラスの出来だろう。だが、俺なら革鎧という括りに拘らないで、表面と裏地の間に地龍の鱗を加工した物を挟むな。ギリギリまで薄くした物を一枚挟むだけでも、重さはほぼ変える事なく、強度を格段に上げる事ができる。まあ、テンマが使うものなら一枚じゃなく、最低でも二~三枚は挟むけどな。お前なら、多少重くなっても関係ないからな。動きづらいと言うのならば、部分的に調整すればすむ。胸と背中が二枚、腹部が一枚という風にな」


 鎧を置いた親方は、続いてアムールの方を向いた。


「これに関してはあまり言う所はないが、それでも腹部にも気を配った方がいいな。ワイバーンの革で上着やズボンを作れば、多少の攻撃は通さないだろう」


 親方の言葉に、少し凹んでしまう。これらの装備の制作には俺も関わっているので、どこかで妥協してしまったのだろう。


「しかし、鎧の手直しはせんぞ。それは流石にケリーに悪いからな。したかったら、ケリーに一言断ってからだな。ものがダメダメという訳ではないしな。だが、この武器は見事だ。素材もいいが、それに技術が負けていない」


 アダマンティンの剣などは合格の様だ。ただ、親方も『大身槍(の様な物)』は、何と呼べばいいのか迷っていたが、最終的には俺が言った『大身槍』と呼ぶ様になっていた。


「この大身槍は、これまでにない発想の武器だな。似た様な物なら存在しているが、いずれも腰にさげられるくらいの大きさだったし、何より主武器となる様な物ではなかった。だが、これなら使い手によっては、十分主武器となり得るものだ。扱いはかなり難しいがな」


 親方は、「今度俺も作ってみるか」とか呟いて、大身槍を舐める様に見ていたが、このままだとブランカが話ができそうになかったので、バッグになおして本題に入った。

 結論から言うと、ブランカの武器は作ってもらえる事になった。しかも格安でだ。ブランカが武器を注文する前に、親方の方から槍なら安く作ってやると言ってきたのだ。どうやら、俺の見せたケリー作の『大身槍』に対抗心が湧いた様だ。ブランカは元々槍を注文するつもりだったそうなので、親方の条件を聞くなりすぐに承諾し、早速二人だけで話を始めた。すでに俺とアムールは蚊帳の外に置かれる事になった。


「じゃあ、俺達は行くからな」


 俺の言葉に対し、二人から返事はなかったが、俺とアムールは構わずに外へと出て、アグリ達がいると思われるギルドを目指した。


「デート、デート!」


 初めは馬車に乗って行こうとしたがアムールに却下され、ギルドまで歩く事になった。流石にアムールが腕を組もうとしてきた時は断固拒否したが、ならばといった感じで歩かざるを得なくなったのだ。

 ギルドまでの道中、屋台で買い食いしたり店を冷やかしたりと、傍から見たらデートの様に見える事に、アムールはとても満足していた様で、終始機嫌がよかった。ただし、屋台の匂いにつられ、バッグから顔を出したシロウマルとソロモンに対しては、無理やりバッグに押し戻すなどしていた。まあ、アムールは押し戻した後で、屋台の食べ物を大量にバッグに入れていたので、二匹からの抗議はなかった。



「この蜘蛛か……どこかで見た記憶があるが……ちょっと待っておれ」


 ギルドに着くと、一階の隅でなにやら忙しくしていたアグリを発見し、蜘蛛を見せて話をすると、何か思い出す様にアグリは席を離れていった。そしてそこに残された仕事を、アグリの代わりに俺が手伝う事になった。アムールは仕事に関わりたくないらしく、掲示板の依頼書を確認している。


「それで、この書類の山は何なんだ、テッド?」


「これは、テイマーズギルドへの加入希望だ」


 なんでも、王都の大会以降、テイマーズギルドへの加入希望者が、大幅に増えたそうだ。わかりやすく言うと、俺が知り合った時には、加入希望者はゼロだったのが、今は約二百にまで増えたそうだ。ただ、加入希望者の中には、明らかにテイマーとしての適性もないのに、大会で俺が活躍したから入ってみようという者や、俺と近づく為と思われる者が混ざっているので、面接の前に事前に書類を提出させて、ここでふるいにかけているそうだ。

 

「だけど、一般人が相手ならそれでいいかもしれないが、相手が貴族だと厄介な事にならないか?」


「そこらへんは大丈夫だ。一応代表はアグリさんとなっているが、副代表にサモンス侯爵、後見人はオードリー大公閣下となっている。だから、問題が起こればお二人の内どちらかに知らせて、対応して貰う事になっている」


 初めて知る事実だが、おそらくこれは王様達の厚意だろう。サモンス侯爵は、自身がテイマーだから関わっていてもおかしくないし、上位貴族だからあまり来れなくても副代表に収まっていてもおかしくない。アーネスト様に関しては……おそらく警告の意味もあるのだろう。俺と王家の関係を知っている貴族に対して、『変な事は考えるなよ』といった感じの……

 だから、俺と無関係と言えないこの仕事を、アグリの代わりに手伝わなければならないのだ。


「だけど、嫌になるくらいまともそうなのがいないな……なんだこの『テイム経験なしだが、ギルドは俺を入れるべきだ』って……馬鹿なのか?」


 書類の主はある貴族の次男で、四十代半ばの男だ。明らかに俺が目当てと思われる。なぜなら備考欄に、『娘あり、器量よし』とか書かれてあるし……もちろん俺は、この書類を即断でバツの書かれた箱へと投げ入れた。テッドは、一応俺の投げ入れた書類を確認していたが、読んですぐに折り曲げて、再度箱へ放り投げた。ちなみに、今のところ面接へと進む者は十にも満たないそうだ。少し厳しいが、アーネスト様に審査は厳しくする様に言われているらしい。書類審査合格者は、テイム経験がある者とテイム出来そうな予兆を感じた事がある者だそうだ。記念すべき一回目の面接には、サモンス侯爵が面接者に内緒で参加する事が決まっているとの事だ。


「テンマは、書類をガンガン落としているな……ろくに読んでいないが、大丈夫なのか?」


「問題ない。落としているのは、全部貴族のやつで、経験なしと書かれているものばかりだから……しかも、明らかに縁組を狙っているとわかるものだ。さっき捨てたのと同じ様なやつだな」


 俺は、名前と自己紹介欄と備考欄だけを見て、問題がありそうな物にしか手を出していない。貴族以外の書類は、テッドの方に全て回している状態だ。


「あったぞテンマ」


 アグリが資料室から持ってきたのは、古びた一冊の本だった。


「私も一度読んだだけだったから、なかなか思い出す事が出来なかったが、この本に少しだけで書かれていたのだ。ええっと……ここだ」


 アグリが持ってきた本によると、ゴールデンシルクスパイダーとシルバーシルクスパイダーは共にCランクの魔物で、発見の少なさを加味するとSランクにも匹敵する。攻撃方法は主に糸と噛み付きで、毒性は弱いが麻痺毒を持っている。糸は外見に近い色のものを出す事ができ、酸性の水に長時間浸すと粘りを取る事ができる。この蜘蛛の巣に引っかかると、人間であっても身動きがとれなくなる事があり、巣に引っかかったところを他の魔物に襲撃されて、命を落とすケースがある。粘りを取った糸は、普通の絹糸よりも艶、通気性に優れ、強度に関しては、数十~数百倍の頑強さを持つ。巣の発見例は、ここ数十年で百程度あるが、個体の発見例はわずか十程で生きた捕獲例は無く、死んだ個体が一度持ち込まれただけである

 こういう風に、本には書かれている。アグリの持ってきた本は、昔のテイマーが書いた本で、著者が色々な所で見た珍しい魔物を載せている本だった。他にも地龍やユニコーン、バイコーンといったものも書いてあり、今の時代でも十分通用する書物だと思う。


「予想以上に珍しいんだな……ここ数十年って、この本自体古そうだから何十年前になるんだ?」


「少なくとも、六十~七十年は前の話だろうな。ちなみに、この本を私が読んだのは三十年以上前の事だ。その時には、もうだいぶ古びていたな」


「下手すると、百年以上前の事か……ジン達は、あの辺りで蜘蛛の巣など見た事がないとも言っていたから、昔よりもさらに数が減っている可能性が有るな」


「もしくは、蜘蛛達が巣を張らない様になったのかもしれないな。少しでも発見される確率を下げる為に」


 その後、アグリと話し合い、ダンジョンで蜘蛛を見つけたという情報は、ギルド長のみに伝える事になった。セイゲンの冒険者ギルド長は、テイマーズギルドに理解があるそうなので、アグリから話を持っていけば、話くらいは聞いてくれるだろう。ただし、この話を聞いたギルド長がどういった結論を出すのかはわからない。もしかすると、公表した方がいいと判断するかもしれないが、俺達だけで判断するよりもいいだろうという事だ。


「テンマ、これ」


 俺とアグリが話し合っていると、それまで離れていたアムールが、一枚の依頼書を持ってやってきた。内容は、街の外に置いてある木材の移動・搬入の手伝いとなっている。依頼主は職人数名で、木材を運んだ分だけ報酬が出るみたいだが、ダンジョンに潜った方が儲けが出ると判断されたのか、人数が集まっていないそうだ。


「これがどうしたんだ?」


「テンマ、マジックバッグ持ってる。全部運べば、楽して大儲け!」


 確かに俺なら、簡単に儲ける事ができる依頼だろう。しかし、アムールには全くと言っていいほど旨みのない依頼である。


「それで本音は?」


「テンマと郊外デート!」


 少しも悪びれる様子も見せずに、本当の目的を暴露するアムール。確かに普通にデートに行くと言われても、俺は断ると思う。なので、依頼を出しにして、俺を外へと連れ出すつもりの様だ。

 アムールの狙いはともかくとして、確かに旨みの多い依頼ではあるが、別に受けなくてもいい様な依頼でもある。


「行ってくればいいではないか。テンマの様な有名人が、この様な依頼を受けると言う事は、ギルドにとってもセイゲンにとってもいい事だしな。それに職人を味方に付ける事は、テンマにとってもいい事だぞ。なにせ職人というものは、横の繋がりが強いからな。何かとトラブルに巻き込まれやすいテンマにとって、味方は多いに越した事はない」


「まあ、確かにその通りか……暇潰しには丁度いいだろうし」


 アグリの話を聞いて、俺はこの依頼を受ける事に決めた。アグリの後ろで、テッドがニヤニヤしているのは気になるが、受けると決めたからには少し急がないといけない。今からだと、移動時間を含めても五~六時間くらいしか無いだろう。それ以上かかると日が暮れてしまう。


「少し走るぞ」

「おう!」 


 俺とアムールは、依頼を受ける手続きをカウンターでおこない、駆け足で指定された所へと急いだ。

 指定されているのは西門で、木材は西門から東門近くの集積所まで運ばなければならない。ただし、西門を通って東門へ行こうとすると、西門の付近に広がっているスラム街の道がかなり狭い為、加工前の木材のままでは通る事が出来ない。その為、北門か南門まで運び、そこから大通りを通って東門へ行くか、塀に沿って直接東門まで持って行く、三種類のルートが依頼書の説明欄に書かれていた。


「だけど、俺なら西門を通って、そのまま東門を目指せるな。速度重視で行くなら、タニカゼで塀の外を走ってもいいしな」

「そうそう。ちなみに、私はタニカゼの方がいいと思う」


 ギルドから西門までは、大体一時間程で到着した。俺が予定していた時間より早く着いたが、これは道中アムールと並走しているうちに、自然と張り合ってしまった為だ。


「依頼を受けたテンマです。集合場所はここですか?」


 俺は西門のすぐ外で、なにやら唸っていたドワーフの男に話しかけた。どうやらこの依頼主達の代表の様で、彼の前には数人の職人達がいた。


「そうだが……何でお前みたいな大物が引き受けたんだ?」


 ドワーフの男は俺の事を知っている様だ。素直に暇潰しだと答えると、なにやら大笑いしていた。


「それでもいいさ。暇潰しで戦力が増えるのなら大歓迎だ。ただなぁ……」


 なにやら男は言いにくそうにした後で、


「かなりの重さがあるが、大丈夫なのか?かなりの重労働だぞ?」


 男の話だと、俺の前にも何人かの冒険者がやってきたそうだが、冒険者を始めたばかりの新人がほとんどで、そのうちの半数以上が戦力にならなかったそうだ。


「まあ、力持ち向きの依頼ですからね」


 そう言って、俺は目の前に積まれている山を見た。依頼書には、木材(・・)としか書かれていなかったが、目の前にあるのは、建物を壊した時に出たと思われる、柱や板が山積みになっていた。明らかに一軒分二軒分といった量ではなく、明らかに二~三十軒分はありそうだ。


「なんでこんなに?」


 アムールの言葉を聞いて、男は西門を指差した。


「これは、西門の内側に建てられていた違法建築物や、古すぎて倒壊の危険のあった建物を壊した時に出たものだ。それを解体した俺達が引き取る事になったんだが、木材を運ぼうにもスラムの道を通れなくてな。一度外に運び出したというわけだ。だが、使える奴がほとんど来ないもんで、予定より大幅に遅れているんだ」


 そう言った後で、


「それで、お前はこの依頼を受けるのか?」


 と確認してきた。男の後ろにいた職人達も、俺に注目していた。


「大丈夫!テンマなら楽勝!」


「「「おお~~~!!!」」」


 何故か俺の代わりに言い切ったアムールに、職人達は期待する様な声をあげた。


「なら、早速取り掛かってくれ。運び方は任せる。東門の所へ行けば、向こうで待機している奴が重さを量り、依頼完了の証明書に金額を書き込む手はずになっている。一応目安としては、百kgで二千Gだが、運んだ物によっては、多少だが色が付く様になっている。頼んだぞ」


「作業を行う前に質問がある。俺は一度に大量のものを運ぶ手段を持っているが、一人で多く運んだからといって、他の奴らから文句が出る事はないよな?一人のノルマが決まっているとかで」 


 一応他の冒険者達と、どれくらいの量を運ばないといけない、とかいう契約をしていないか聞いてみたが、そんな事はないと言われた。契約条件の一つに、ここから東門まで運ぶ毎に、その都度依頼を一度完遂したという事になるらしく、ここにいない冒険者の事は気にしないでいいと言う事だった。


「それじゃあ遠慮なく……スラリン、手伝ってくれ」


 俺はバッグで休んでいたスラリンに外に出てきてもらい、空いているディメンションバッグに木材を運び入れてもらった。流石にここにある全ての木材を、効率よく運ぼうとすると、ディメンションバッグの端の方まで詰めなくてはならないので、スラリンの手伝いが必要になったのだ。

 スラリンは体内にマジックバッグやディメンションバッグを備えているので、まず最初にスラリンに木材を渡して体内に保存してもらう。続けて俺のバッグに入ってもらい、隅の方から詰める様にして木材を入れていく。スラリンがバッグの中で作業している間に、俺は『巨人の守護者ガーディアン・ギガント』を使って、木材を仕分けていく。アムールは俺の近くで応援を担当していた。

 これを何度も繰り返すと、数個あった空のディメンションバッグが全部埋まった。


「それじゃあ行ってきます。一応俺が使ったバッグの数を覚えておいてください。向こうでも数を数えてもらうので、後で確認してください」


 驚いている職人達にそう言って、俺はマジックバッグからタニカゼを出して起動させて、スラリンが入り込んだのを確認してからまたがった。タニカゼの上から残りの木材を確認すると、最初来た時の半分以下にまで減っていた。後一回で全て運べそうだ。


「とうっ!」


 アムールは、俺がまたがるのを待ってから飛び上がり、俺の後ろへと着地した。そして、俺の腰に手を回してくる。


「計算通り」


 アムールがタニカゼを押していたのはこの為だったのかと、今になって気付いたが、ここでアムールだけを置いていくのもかわいそうなので、このままタニカゼを走らせた。走るルートは北と南のどちらでも良かったのだが、何となく南門を通るルートで走り始めた。セイゲンの外周がおよそ百km程らしいので、単純計算で、西門から東門までは五十kmくらいという事になる。タニカゼなら五十分もあれば着くだろう。計算外があるとすれば……


「酔った……うぷっ」


 乗っている人間の耐久力だろう。流石に時速六十kmを超える乗り物に、ぶっ続けで乗るのは無理があったみたいだ。これが、普通の車で整備された道を走るだけなら一時間程度は問題ないだろうが、馬の様に振動が激しい上に、ほとんど整備されていない所を走った為、三十分程でアムールが耐え切れなくなってしまった。俺の場合は耐性があったからどうという事はなかったが、アムールを休ませる為に南門を過ぎた所で休憩する事になった。しかし、多少の休憩ではアムールの体調は戻る事は無く。結局アムールはシロウマル達の入っているディメンションバッグで移動する事になった。

 東門に到着したのは、予定より二十分程遅れる事となったが、待機していた職人にはかかった時間に驚かれ、さらに持ってきた木材の量とで二度驚かれた。

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