61・そして、今を振り返る
日本も大きく変わっている。というか変えてしまったと言った方が良いか。
乃木さんや中島さんはどうしているんだろうね。
「全員がこの世界に居るわけではないぞ?だが、この世界を作った3人はここに居る。会う事はないだろうが」
という老人。
まあ、会ったところでどうするという事もないし、会おうにも、どこの誰だか分からないけどな。
そんな日本は俺が行った政策によって、農業が家族主体のモノから完全に企業経営となっている。
企業が農地を所有するとウンヌンといった理由から農地を企業が所有する事を元の世界では制限していたが、今はそんな事にはなっていない。ただ、個人であれ企業であれ、無計画な転用は厳しく制限されてはいるが。
そんな事もあって、意外な事に山間地にはあまり人が住んでいない。
そして、多くの地域で環境保全や景観保護という動きが出るより早く、多くの水力発電所が乱立し、どこもかしこも谷という谷が堰き止められ、送電線が延びるような状態になっている。
それでも足りなくなった分は火力発電によって電力を賄った。
そして、日本や東ロシアもドイツに後れを取るまいと核開発にも乗り出し、1948年には共同核実験が行われている。
その後、原発開発も行われている。
日本にも多くの原発が存在するが、あの事故が起きていない。いや、正確にはあの場所に存在していない。
いくつかの原発が被災しているものの、大きな被害無く運転再開できたのも、その規模と形式の違いによるところが大きい。
この日本では大規模原発を遠隔地に作って送電線を延々伸ばす事をしない。元の日本より原発基数は多いが、一つ一つは小さい。
そのため、事故に対する処置も小規模で済んでしまう事が被害を抑えられた要因であるらしい。
この原発、本来は船舶用に作られたものを地上に設置しているもので、東ロシアへ行くと、僻地にデンと原発があり、その近くに都市が有ったりもする。
こうなったのも水力発電の乱立が原因で、1基辺りは発電量が大きくない水力発電をいくつか組み合わせて電力供給を行う送電網を構築したところに火力発電や原発を持ち込む場合、大規模発電所を置いても意味がない。
水力とバランスを取りながら中小規模の発電所を配置する方向に進んだ結果だ。
その送電網をさらに発展させたのがスマートグリッドだったか?
農地の集約の結果、山から人が下り、農地と付随産業を営む人々の街が形成され、それがいわゆるコンパクトシティの様になっている。無計画にどこまでも住宅地と商業地がマダラに広がる姿からは程遠い。
日本の姿がどこか欧州風な姿に変貌しているのは、そう言った事が影響しているのだろう。
そんな変貌を遂げた事もあって、日本の道路の速度設定も変わってしまった。
その辺にある峠道の法定速度が80~100km。元の日本だと事故だらけだったかもしれないが、ここは全く違う国だ。
なにせ、この日本の学制では8年生の初等学校を卒業すると、大抵は4年制の職業学校と高等学校を選択する事になるが、小都市内には行きたい学校が無い場合が多く、最初の2年は寮生活となる寄宿制を採るところも多い、後期2年間の通学には自動車やバイクという選択が入って来る。
そのため、前期2年の教育内容に運転講習というモノが存在し、学校で自動車やバイクの運転を教わる機会がある。
中島さんが人材発掘のために作った制度だ。
中島さんがレーサーを見つけ出すために作ったカリキュラムだから自動車学校ではなくレーシングスクールだよ。みんな、カートでコースを走る事になる。そうやって車の操作を身に着けてからようやく一般的な交通ルールや運転を習うって、どんな国だよマジで。
そして、その学制から離れた学校が旧上総村、いまの上総市に存在する上総宮記念農業学校だ。
初等学校卒業後に入学する高等専門部と職業学校や高等学校卒業後に入学する大学部がある。
ここでは上総リンクを使った教育があるので、さらにお察し。
この世界の俺はどうしても下辺射撃クラブへ入りたかったらしい。初等学校卒業後に上総市へとやって来た。
だが、全国大会へ出る様な実力も無く、入学した高等専門部を卒業するとそのまま上総農産へと就職した。
下辺射撃クラブでの成績は並だったが、狩猟の才能はあったらしい。上総狩猟協会では一目置かれている。
不意に後ろのロッカーを見る。
昨日までなかったはずの自室にそんなものが鎮座し、中にはニューナンブ猟銃や散弾銃が入っているはずだ。
「もう気付いておるかもしれんが、アレな。あまりに魂のつながりが強かったから連れて来た」
老人がそう言っていたのは
「る~い!今から行くぞ、さっさと行くぞ。ほら準備しろ!」
出会ったときそのまんまのじゃじゃ馬だ。
老人にはどうしてもっと年齢を調整してくれなかったのかと言いたい。
過去は皇族同士の政略結婚だったから良かったが、これではただの犯罪だぞ。
下辺アナスタシア。
上総宮家から臣籍降下して師匠の孫へと嫁いだアナスタシアの娘のひ孫にあたる人物。今年16歳。俺、立花瑠衣28歳。
犯罪だろ?コレ。
勝手に人のロッカー開けて、南部大型空気銃を引っ張り出している。
下辺家の人間らしく、16歳にして射撃の腕があり、全国大会常連。それを良い事に最年少の狩猟協会会員。
記憶によると、どうやら俺は上総宮時代に師匠から受けた指導をそのまま持ち越しているらしく、何となく獲物の居場所が分かる。
そんな下辺家に必要な血を嗅ぎ分けてしまったじゃじゃ馬が引っ付いて離れない訳。
「先行ってるぞ!」
勝手に装備一式持ち出して出て行ってしまった。
ふとディスプレイを見る。
「記憶を持ってきてはおらん。だが、お前を捕まえておけと囁くんだろう。アナスタシアの魂が」
老人はそう言うと満足したのか消えていった。
ジーサン、ソレ、どこのアニメですかね?
さて、狩猟協会が行う野生鳥獣の間引きに行ってくるとしますかね。こういう時に俺の能力が役に立つんだよ。
欲を言えばあれがこれがとあるけれど、一応完結です。




