47・そして、世界大戦がはじまった
1940年は極北の戦争が行われる中で明けた。
中欧での戦争はとりあえず終わった。
ハンガリーはあれで満足したらしい。
そして、極北ではホルが予想以上に猛威を振るっている。
ソ連軍は各所でフィンランド軍に各個包囲されて殲滅されている様だ。
それも、ライフルでの狙撃ではなく、ホルの47mm砲による狙撃で遥か遠方から指揮官がけし飛ばされ、先頭車両を破壊されて身動き取れなくなるという。練度も作戦もあったもんじゃない状況に陥っているという。
ソ連軍は1月中には攻勢が事実上とん挫し、史実より早くに停戦交渉が始められていると噂される。
そんなころ、日本も支那方面で終わりのない戦闘を続けている。
どうやらSBは品切れになったらしく、最近では米国製やドイツ製爆撃機が主力となって台湾に飛来しているらしいが、九八式の前に撃ち落とされる機が多い。
すべてを防げないので時折空襲を受けることもあるらしいが、防空網を敷いている関係上、飛行は常に把握しており、どこかの基地から迎撃機が差し向けられていく。
例の一撃論者のような意見は今でもあるが、これまで何度も敵基地を爆撃しても全くらちが明かない事にさらにいら立っているらしい。
そんな時に舞い込んできたのが、上総村襲撃事件だった。
「上総村を襲うとは、モノを知らないとしか言いようが無いですな」
乃木さんが呆れ顔でそんな事を言う。
まあ、それはその通りだ。自ら首を絞めるバカな行為をしたもんだ。
事件が公表されると密告が相次いだ。
「うちの主人は皇導派です」
そんな密告が。
実行犯だけではなく、多くの連中がアナスタシアの影響力を理解していなかった。
ゲシュタポやKGBなんてチャチな組織なんて目じゃない。自分の目の前に最大の敵がいることを全く認識していない馬鹿どもがとんでもない愚策を実行した結果だ。
「しかし、下辺師匠が鞍山の英雄だったとは、知りませんでしたよ。隼人のオッサンは分かってたつもりでしたが、想像をはるかに超えてましたね」
上総村で猟師をやっている下辺平蔵師匠。俺やアナスタシアの師匠だ。
サッと山を見回しただけで何処に何が居るか大体わかるという異常能力者。だが、師匠に教えてもらうと、何となくわかって来るのだから恐ろしい。
そんな師匠が乃木第三軍の撤退戦を支えていたらしい。コサック200人と1人で対峙したとか、どこの船坂さんですか?
鞍山防衛戦では確実に敵の攻勢を挫いていたらしいし、この人なしに乃木将軍は生きていなかったとさえ言われている。
「日露戦争の陸軍の話など誰も語りませんからね。あの大負けですから」
そういう乃木さん。
だが、全く負けだと認識していないのが日本ではなく、東ロシアや今、フィンランドで総司令官をやってるマンネルヘイムだろうなぁと思った。
マンネルヘイム線にモッティ戦法。この世界だと鞍山の乃木ラインと下辺挺身隊をリスペクトした彼がフィンランドに落とし込んで実行しているというのが、乃木さんの見解だ。
フィンランド行きとなった62口径砲装備のホル、発案者は下辺師匠らしいよ。
「あれを使えば2キロ先から狙える」
南部さんが銃の具合を聞きに訪ねた際に話の中でフィンランドの話題を出したらそう言ったとか。採用する方もする方だし、やってのけてるフィンランドもおかしい。
結果が、レニングラードが危機的な状態になるほどカレリアで軍を消耗して進退窮まってるらしいからな。
隼人のオッサンは薩摩の人なんだが、第一次大戦におけるドイツ軍最後の攻勢の際に撤退せずに塹壕に残ってたそうだ。
何とかドイツ軍を押し返した後、死体の山から救出されたのだが、はじめは死体として扱われていたが、起き上がったので急いで野戦病院へと運ばれ、死を待つ状態だったらしい。
だが、翌日には起き上がって食事を要求するほどに回復しており、軍医が亡霊かアンデッドかと疑ったほどだという。どこの船坂さんですかね?
「まさか、下辺少佐と隼人兵曹相手にたった60人で襲撃するとか、バカの極みですな。特殊作戦群でもその人数で突破を試みて生き残るのは片手ほどでしょう」
そんな、あまりに怖い事をサラッという乃木さん。だが、同意するしかない。あの二人はヤヴァ過ぎる。
だが、より恐ろしいのはアナスタシアだろうか。
そんな二人と共に戦ってたらしいよ。母は強いね。
普通なら秘匿されそうな事件だが、俺も乃木さんもすぐさま公表した。
村に被害もなく、見せしめにもなると思ったからだ。
だが、その効果はとんでもなかった。
井戸端秘密警察の威力は特高が裸足で逃げ出すレベルで凄かった。
公表から三日、主要な関係者は自首するか告発される事になる。
思想統制などやる必要すらなく、何とか生き残っていた過激思想が勝手に炙り出されて摘発されていく。そんなとんでもなく恐ろしい事が日本では起きていたんだよ。
上総村襲撃事件が起きた3月12日、ソ連とフィンランドは正式に講和した。ソ連は負けを認める以外になく、国境線は動いていない。
それがいけなかったのだろう。
4月1日には突如としてハンガリーがソ連に宣戦布告、つられるようにルーマニアまでソ連に宣戦布告して旧領回復を宣言する始末だった。
この二か国、昨日まで戦っていたはずなのに、ソ連のフィンランド侵攻を聞いて途端に同盟締結。ドイツもそこに巻き込んでいたもんだから、ヒトラーもたまったもんじゃない。
4月16日、ヒトラーは何の準備も無いまま、同盟関係を理由にソ連から宣戦布告を叩きつけられ、望まない戦争へと突き進んでいく事になった。
いや、それだけなら良かったかもしれないが、ソ連と協商関係にあるフランスまでがこの機を逃すなとドイツに宣戦布告してしまう。
こうして、史実からは全く想像もできない展開を見せながら第二次世界大戦であるらしい大戦争が開始されることになった。
英国?
フランスを制止しようとして、ポーランド見捨てた事を問い詰められて何も言えなくなって傍観しているらしい。




