44・そして、戦火が拡大の兆しを見せていく
戦時中はとにかく膨大な費用をかけて技術が進歩し、あっという間に新たな技術が、兵器が生み出されていく事になる。
日米戦争での問題点として浮上した哨戒体制の不備についてもすぐさま取り掛かり、一応完成している誉エンジンを用いた試作飛行艇が急ピッチで試験、改良に入り、九八式大型飛行艇として制式化された。
それは九五式飛行艇を開発した川西とシコルスキーがより高性能で大型な飛行艇を目指して開発していたモノだった。
川西の開発した耐波浪構造艇体によってこれまで以上の波でも離着水が可能となったため、太平洋での運用がより広範に可能となった。
さらに2000馬力級エンジンの余裕によって、その巨体を難なく飛ばす事が出来る。もちろん、これまでとはけた違いの長距離飛行が可能な上に搭載能力もある事から、索敵能力の強化を狙って機上レーダーの搭載まで行う事になった。
まだまだ巨大な電子機器だが、小型化簡易化によって、この大型飛行艇になら乗せられるほどには小さくなった。
そして、九六式艦上偵察機を見て何か勘違いした陸軍が川崎に要求していた双発軽爆撃偵察機が進空した。
川崎製栄を2基積んだ金属製モスキートと言ってしまえば理解も容易い。
この機体、当初から九六式25mm高角機銃を機体に装備しており、急降下爆撃、水平爆撃、機銃掃射まで可能だ。
さらに、溶接とブロック工法による24時間操業で建造が進められていた戦艦も進水するらしい。やたらと速すぎる。
だが、戦艦の建造を急ピッチで進めたのは日本だけではない。米国はさらにハイスピードで建造し、時代を20年間違えたような速さで完成させている。
「米国が戦艦を2隻同時に完成させたようです」
そんな報告を受け、資料を見た。
そこには三連装3基の主砲を搭載し、4万トンとされている。
どうやら、条約型戦艦をベースにそのまま建造した戦艦らしい。つまり、ノースカロライナ級だ。史実と違い建造開始が2年弱早まった。ならば、完成は1939年だろうって?
ところが、戦時に突入した事から、20年前の英国並みのスピード建造をしてしまったらしい。更に2隻ほど建造中らしく、それらも来年には完成する見込みらしい。これで沈没、損傷した戦艦分は取り戻せる。
当然だが、条約を守って14インチにする必要もなく、この世界初の16インチ砲戦艦である。
日本が建造中の戦艦は英国基準に倣って15インチの上が16.5インチであるため、それに合わせて42cm砲で開発している。史実大和の46cm砲はその後に予定していたものだが、どうなるか分からない。
そんな最中、南京政府が上海租界を襲撃してきた。
戦争中の国であり、予想された行動でもあったので迅速に緊急展開部隊が送り込まれ、空母も随伴しての攻撃が行われたが、陸軍が九八双軽の増加試作機を投入してきた。
25mm機銃による地上掃射は圧巻で、その高い発射速度と炸裂弾の組み合わせで南京軍の塹壕を蹂躙した。
九州からの長躯攻撃であったため長くは留まれなかったが、その速度を生かして低空進入して機銃掃射を加えたため、南京軍には全くの奇襲となった。
徹甲弾ではないので車両の被害はそうでもないだろうとも思われたが、さすが25mm弾。ドイツが供与したらしい軽戦車も火災を起こしていたという。
この上海騒乱。当然の様に米独が揃って日本批判を行った。
いや、米国租界の惨状はどうでも良いのかい?
ただ、不慣れな機銃掃射であった事と、あえて南京軍を支援するような位置取りを行っていた米国砲艦パナイ号もろとも掃射してしまった。
日米開戦かと思われたが、米国側はそもそも、外交上で抗議はしてきたが、全く一般に報道されることもなく、静に交渉と謝罪によって事件は収束した。
「どうも、米国は上海で南京軍が暴れた事実に触れること自体が嫌みたいですね。パナイ号自体、南京や上海近郊で日本軍に攻撃されたとなると、その行動や支那情勢を国民に説明する必要が出てきますから」
と、聞かされた。
今回の騒乱においても、米国人にも被害が出ており、その救出を日英が行ったというのは、どうにも違和感のある話だ。外交使節を乗せた砲艦を常駐させておきながら、全く南京政府の悪行に目を瞑る米国。異常としか思えない状態が出来上がっている。
そして、パナイ号事件が事実上不問となった9月下旬、欧州ではミュンヘン会議が開かれることなく、粛々とズデーテン併合が行われた。
援軍を失ったチェコスロバキアが米独の脅迫に折れた結果だった。
この問題を批判した英国首相チャンバレンは、事態を主導した米独、そして、その策謀に同意したソ連を名指しで悪の枢軸と罵ったが、併合されたあとでそんな事を言っても時既に遅しである。
上海騒乱を受けて日本では南京征伐論を唱える者が現れる。軍内部にも存在し、総参謀部に作戦を上げる者まで居る始末だった。
そして、大臣に直談判に来る参謀が居た。
「いまこそ、傍若無人な南京政府を討つべきであります」
討ってどうすんの?北京政府は支援の低下、求心力の低下で華北の維持がやっとなのでまったく当てにならない。
南京政府を計画通りに討ったとしても、それに代わる軍閥が台頭してきて同じことが繰り返されるだけ。
「そんなことはありません!ガツンと一撃与えて分からせればそれで良いのです」
この間、上海で壊滅的打撃を与えたばかりだ。
それだけではない、ここ数年来、幾度も連中が湧いて出て来るたびに潰してまわっている。それでも懲りずに襲撃を繰り返している現状で、どこをどうガツンとやれば分かってくれるのだろう?
「首都を落せば態度も変わります!」
そうか?
北京政府は首都に南京軍が迫ればさっさと逃げ出していた気がするし、南京政府は元はもっと南に居た勢力では無かったか?
南京を落して、連中が武漢や南昌にでも逃げ出せば、そこまで攻め上がると?
「そこまでは・・・」
そう。なら、南京攻略計画を記名で立案し、失敗した場合には責任を取る様に。
「いえ、小官は提案しておるだけで、立案は総参謀部作戦課が行い、大臣が陛下にじょうそ・・・」
そこで思い出したらしい。訴えている相手が誰であるかを。
じっと見据えていると、何か言い訳がましい事を言って退出していった。
なるほど、俺はこうした暴走因子の防波堤か。まあ、分かっていて受けたんだけど。




