40・そして、戦争が始まった
1937年6月5日、米国大統領フランクリン・デラノ・ルーズベルトは炉辺談話において豪州の危機を訴えた。
極東の野蛮な勢力が白人が得た領域において事もあろうに分離独立しようとしている。
そこには資源が多く存在している事から狙いは明らかである。
さらに問題なのは米国が権益を持つ満州はその日本により近く、多くの日本人移民が入り込み妄動している。
米国での株価暴落以来、満州系企業ばかり儲かっているのは彼らが日本と組んで満州を分離独立させ、あわよくば日本領土とすることで更なる利益を得ようとしているからだ。
おかげでせっかくのニューディール政策による経済回復も彼らによって妨害され、その回復速度が抑えられている。
とにかく、豪州で行われている新たな侵略行為が満州に及び、米国経済へその打撃が襲ってくることを防がなければ、ニューディール政策をいくら推進してもその富を日本が吸い取る構図が出来上がってしまう。そうなってからでは遅い。
そんな、ちょっと何言ってるのかよく分からない談話によって、米国では日系人排斥が進んでいる。しかも、なぜか、そこには大陸系が支援してくれるという話が囁かれ、近く中国人排斥法の緩和がなされそうだと言われている。
そして、談話発表の翌日には議会において対日戦争は今や満州防衛に必要不可欠となったと与党議員が宣言、満州派の反対意見を押し切る形で大統領支持が可決された。
こうして、6月7日には正式に対日宣戦布告がなされることになる。
この間、満州グループ系の新聞社が様々な情報を報じていたが、大統領が握る新聞社のシェアが圧倒的な事もあり、まるで相手にされない。
唯一、大連にある極東総督府は米政府の決定に従わず、大連、旅順の軍事利用を一切認めない事を宣言した。
旅順艦隊でも騒動は起こり、出撃しようとする新規配備組と旧来から駐留するグループが対立する事になった。
結局、燃料も随伴艦隊も期待できなくなった海防重巡と軽巡は出港が出来ず、4隻の艦長は旧来グループであった旅順艦隊司令官によって拘束される。
満州駐留陸軍は当然ながら、動こうとはしなかった。
規模も小さく、そもそも日本と争う意味がない。
挙句、大統領の談話はあまりにも実態と乖離しすぎていたのだから当然だろう。
こうして、宣戦布告はしたものの、サボタージュを始めた極東総督府と陸海軍によって、米国は何ら対日作戦が行えない状態となってしまった。
日本側もわざわざ米国を攻撃しに行く必要性も無い。
その為、米太平洋艦隊が本格的な戦闘準備を終えて出撃してくるまで一切の戦闘が起きないという、不思議な戦争が展開される状態となってしまう。
そんな中、日本では政治が一時的に混乱した。
全くの言いがかりで開戦してきた米国にどう対応するかで話がかみ合わなかったからだ。
話をまとめたのは、まだ生きている権兵衛さんだった。
正規の元老が居なくなった日本において唯一生き残った権力者。
そして、政治、軍事双方に力を持った乃木さん。
二人が動いて乃木内閣が発足する事と相成った。
「という訳で、軍務大臣は殿下にお願いします」
何とも想定外の時期に、想定外の依頼が来たもんだ。
そうなってしまったモノは仕方がない。
6月17日には乃木内閣が発足、俺は軍務大臣として政権入りを果たすことになった。
まず何をするのかという事になる訳だが、南洋諸島には日本の委任統治領が広がり、ポツンとグアムが浮かんでいる状態だ。
なので、ココを占領しようという話になった。
意味がない訳でもない。
フィリピンとの連絡を断ち、日本と西豪州政府の連絡を確保するには必要な措置だった。
総参謀部でもすでにグアム占領案は立案されており、早速それを提出。内閣の一致によって天皇上奏が行われた。
「上総宮。父の意向が通っていれば立場が逆であったかもしれない」
ストレスから解放され、健康状態も良くなった兄は今も上皇として元気に余生を送っている。
一切政治に関与する姿勢を見せず、今回も公的にも私的にも何も言ってきていないが、やはり気になっているらしい。
だが、今更愚痴っても仕方がない。こちらは気にしていないし職務を全うするだけだと伝えて裁可を得る。
こうして、1937年7月4日。米国独立記念日のその日に作戦発動となり、10日には日本がグアムを占領する事になった。
それでも米海軍は準備が整っておらず動けない。
遥か東海岸で喚く大統領を余所に、未だ太平洋は静かだ。
そもそも、この時期のグアムに大軍が居る訳もなく、上陸作戦から程なくグアムは降伏。
日本は占領政策を敷く事もなく、極東総督府配下となるなら現状維持とすることを通告するとしたがってくれた。
まあ、グアムも南洋の一部として完全に日本経済圏に組み込まれてたもんな。
第一次大戦後、海上警備隊の南洋配備が決まるとグアムも警備艦の立ち寄り所となり、日本が海難救助、警備を行う海域に含まれていた。当然、日本の南洋経済圏にも組み込まれ、満州とグアムは比較的親日度の高い地域だったのだから、わざわざ占領政策などしなくても良い。
そして、問題となったのがフィリピンの扱いだったが、フィリピン議会は巻き込まれることを嫌い、極東総督府に追随している。
なんか、フィリピン軍元帥が1人何か叫んでいるらしいが、それ以上の事は何もない。
何だろう。これ、本当に日米戦争起きてるん?




