37・そして、変わらないものがある事を知る
そんな1936年。
俺も色々と最近は働いている。
上総村で実験的に農業改革をやり始め、それが全国へと広がっていくにつれて問題も起きて来た。
企業化、法人化というと、どこかバラ色に聞こえるが、当然ながらオカシな奴が出て来るし、小作制度を農奴制に転換したような業態にしてしまう連中も出て来た。
ここに取り締まるにも法律が必要になるので、農業関連法制の策定にここ最近は頭を悩ませることが多い。
労働者の待遇や労働時間や賃金などを考えると少々頭が痛い事もあるが、工場や鉱山と画一化して論じることが出来ない部分もあったりするので、そこが少々困る。
さらに機械化が徐々に進んでいるとはいえ、畜耕が行われている地域もあるので家畜についても、食用以外の部分についてもしっかり考えないといけない。
さらに問題なのは、農機購入に関する制度まで考えないといけない。
市場原理にまかせっきりでは機械化が進まないし、土地改良の法整備をしたからと、田畑を引き渡しただけでは農業が出来ない状態だったりもする。
そして困るのが農産企業が倒産した場合の農地をどうするか。
田んぼなんだからどこでも一緒と思われがちだが、土壌によって栽培適性作物が違う。場合によっては土を入れ替えたり砂を混ぜたりといった事を行って土壌自体を変えて、栽培したい作物を絞っている場合もある。
その為、「倒産しました。近隣企業でどうにかしてね」とは簡単にいかなかったりする。
そんなこんなに頭を悩ませている訳だ。
え?楽隠居だろって?
貴族院議員資格を貰っちゃったので、議員としてのお仕事をしなくちゃいけなくなった。
だから色々やってる訳で。
そんなおり、議会を巻き込んで論争が勃発した。
空母、戦艦論争である。
いや、そんなの空母でしょ。
不用意な発言が出来る立場ではないので静かに見守り、たまに乃木さんに話を聞いていた。
そして、当事者の一人である平賀さんにも意見を求めた。
「現状、空母に全振りするのは得策じゃありませんよ」
という、意外な意見だった。
戦艦は男のロマンだとか、戦術的に外国を欺くためとか、そんなテンプレな話でもないという。
「空母論を唱える方々はシュナイダートロフィーで浮かれておるのでしょうね」
そんな、突き放したことを言う平賀さん。
どんな根拠でそう言っているのかよく分からなかった。
「そう難しいものではありません」
そう言って教えてくれたのが、すでに海軍はレーダーを導入する事に乗り気であり、艦船や航空機を捜索するレベルのモノを数年内に完備するとの事。
しかし、翻って航空機の発達についてみると、史実から大きな乖離は見られない。
たしかに、二宮というイレギュラーが2年程度針を進めているモノの、その程度。
そうなると、二宮の進めた針によって、大型機による雷撃や双発機による遠距離攻撃と言った考え方が、実機の完成を待たずに消し飛んでしまっているのだという。
「九六陸攻に相当する攻撃機計画があります。発展すれば銀河になるかも知れませんが、そこに中島エンジンを積んだとしても、550km程度でしょう。その頃には同じエンジンを積んだ艦戦も登場してくるので、600km弱の速度が出ているでしょう」
つまり、レーダーによる捜索が行われている艦隊に対し、艦載機に劣る速度の攻撃機を突入させてもマリアナの七面鳥撃ちにしかならないのだという。
それでは全くの資源の無駄でしかない。
ならば、空母ならば同等の速度を持つ艦載機同士じゃないかとなるのだが、ココにも落とし穴があるという。
「南部さんが面白いものを開発してましてね。ガスト式でしたっけ。25mmの砲身2丁を持った機関砲なんですが、1丁当たり1400発、2丁で2800発というトンデモないバケモノなんですが、かなり軽量な砲座に収まってましてね。雷撃や急降下爆撃に対応した自動射撃装置までついてるんですよ」
どうやら、平賀さん曰く、後の英国のポンポン砲に採用された機械式自動射撃装置をパクッているらしく、敵機の現在位置を入力してやれば、急降下や水平飛行を自動追尾しながら射撃してくれるんだという。
つまるところ、攻撃態勢に入ると撃墜されてしまうか、進路変更を強要される状態になるらしい。
自動射撃装置は応用がきくのでより大型の高角砲に搭載すればさらに効果があるだろうとの事。
「空母を艦隊に随伴していれば、防空隊が攻撃機を撃退し、搔い潜ってもその先には濃密な火網が待ち構える状態になります」
すでに日本海軍は無線とレーダーによって数年であの戦争末期の米空母群の防空網を立ち上げ出来る様になるらしい。
「歴史は政治面では大きく様変わりしましたが、ミサイルの本格運用をあと5年やそこらで始めるのは無理です。魚雷と爆弾に、あと15年ほど頼る事になりますので、空母ばかり建造しても打撃力には欠けることになるんですよ」
と、不思議な結論に至った。
「殿下、例えばマリアナ沖海戦を想像してみてください。日米ともに同等の防空能力があれば、多くの攻撃隊を双方が阻止してしまうんです。航空攻撃は決定打になりません。そうなると、飛行機を大量に失った艦隊が残るんですよ。次に行うのは撤退か、さもなければ水上戦への移行ですね」
その時日本にあるのが14インチ砲の扶桑型2隻、38センチ砲の長門型6隻。12インチの生き残りはまぁ。
「条約を脱退した米国は少なくとも16インチ砲戦艦。それも、史実の様に条約の縛りが無いので一気にアイオワ級を建造するかもしれません。そんなものが1940年頃から揃いだした場合、今の戦艦群では撃ち負けてしまいます」
平賀さんが言うには、航空主兵論の中身が双発機から単発機に代わっただけで、相手が同じだけのものを揃えてくる可能性には触れないようにしているらしく、どう考えてもそれが成り立つとは思えないらしい。




