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34・そして、夢が広がった

 小銃の話が済んだら、乃木さんが米国大統領の話を切り出した。


「殿下、史実には無かった動きを米国が始めていますよ」


 という。


 何度か聞いている。


 もともと米国の中国への窓口は上海であり、ルーズベルト大統領の母方はそこで財を成した。


 しかし、日露戦争後に遼東半島を手に入れた米国は、こちらに新規グループが入っていった。


 遼東半島へ進出したのは鉄道や自動車といった新しい事業を行う企業家、資本家であり、満州鉄道の事業化や更なる整備、鞍山の製鉄をはじめとした重工業に力を入れた。


 上海グループが米国からモノを大陸へ売るのに対し、満州グループは現地で生産し、移民、移住を行っていた。


 南満州を得るとそれは加速し、米国本土との距離も開いていく事になる。


 それでも投資先なのだから、大恐慌までは順調に投資も行われ、経済発展もしていた。


 だが、大恐慌以後、南満州はロシアや日本という好調な貿易相手が居るのに対し、米本土は輸出入を規制した事で景気が落ち込んでいく。


 米国にとって、満州は自身の経済ブロックとは見なしていなかった。


 もし、満州を自身のブロックだと認識していれば日本や東ロシアをその経済圏に加えられたのだろうが、そこには日本から米国へ輸出される繊維や日本人の満州移民という問題があった。


 日本製品締め出しには米国本土への輸入へ高い関税をかける必要があるが、そこで、満州グループは満州を例外とするように働きかけ、域外植民地としか見做していなかった大勢の議員も無批判にそれを受け入れる。


 だが、その結果、米国企業の中で堅調な収益を上げるのは満州へ進出た企業ばかり。


 そうなると、誰もが満州グループへの批判や疑いの目を向けるのは当然の事だった。


 ルーズベルトはそこに乗っかり、日露批判と満州グループ批判を行い、自身がパイプを持つ大陸財閥へも、満州グループ同様の抜け道で貿易を行い、利益を得ようと考えていた。


 ただ、そこには落とし穴があった。


 史実で幣原外交を行った日本が陥った事に、米国が陥っている。


 反撃してこない米国はカモ。


 それが、この頃の南京政府の偽らざる内心であっただろう。


 南京政府の内心など気付いていないルーズベルトは、彼らの言うがままに支援を行った。


 当然ながら、南京政府側も更なる利益が米国に入るかのように話を持っていく。


 北伐に成功すれば北京政府の支配領域では米国が自由に交易が出来る。北京政府を支援する日露は叩き出すし、中立を装う英国よりも米国を優遇する。


 そんな事を言っていたのだろう。


 だが、英国が得た山東利権を同じ白人として攻撃してしまう南京政府。


 英国を支援する日本まで出兵して南京政府軍は山東で大打撃を受けて撤退。北伐どころでは無くなった。


 その事態に不快感を表明するルーズベルト。


 しかし彼は理解していない。


 上海から北米へ向かう航路は今や済州島を経由する北太平洋航路であり、済州島には米国企業の倉庫も多い。


 そこが南京政府系の賊に襲撃される。


 いわゆる済州島事件だが、その最大の被害を受けたのは米国企業だった。


 日本は南京政府に賠償を求めるがなしのつぶて。


 それが1933年年末までの出来事だった。


「どうやら、ルーズベルトは南京政府にご心酔で、あわよくば満州グループの利益も自身の手に入れたいと考えている様です」


 この状況では米国政府は自ら大陸に足を突っ込み、それを妨害する形になる日本と戦争しようと考え出すのではないかという。


「考え方は様々あります。ただ、ルーズベルトが戦争を考えるのはどんなに早くとも1937年のルーズベルト不況以後だと思われますが、この世界、その常識が通用しない可能性もありますよ」


 との事だった。


 上海や天津には日本租界もある。


 現在の日本はやられたらやり返す方針なので、攻撃して来れば反撃するが、問題はそこに米国政府がどう反応するかだという。


 下手をすれば第二次上海事件のような事がきっかけで、米国が日本に宣戦布告などという可能性もあるのではないか。


 乃木さんはそんな予想を立てているらしい。


 ここから先、史実知識は役に立たないだろうとの事だった。


 さて、日本軍の現状だが、史実とはまるで違う。


 総参謀本部の存在で、海兵や陸士の卒業年次が役に立っていない。


 総参謀資格を得た順がまるでバラバラな事もあり、更には、総参謀部には陸海軍双方の軍人が居る。


 陸軍、海軍内ですら、総参謀資格と海兵、陸士の年次のいずれを優先するのか考え方はバラバラ。


 そして、思想的なものが様変わりしている。


 欧州戦線に参加した者たちは旧来の考えとは違う方向を向いている。


 それがまた、史実でこの時代以後にアレコレ始める世代とあっては、変わらざるを得ない。


 陸海軍のそうそうたるメンバーがその対象になる。


「そういうわけで、クーデターやら何んとか派と言った戦前の思想が改変されておりますな。伊藤さんの働きかけで、山縣さんや乃木さん東郷さんなども、政軍分離を叩きこまれております。史実の様に政治に介入する考えも減っておりますよ」


 と、権兵衛さんが付け加えた。


「いざとなれば、殿下に軍務大臣についてもらいますので」


 そういう権兵衛さんと頷く乃木さん。


 そう言う事かよ。


 唯一安心して聴ける話をしてくれるのは中島さんだけ。


 シュナイダートロフィーに投入した誉エンジンの実用化は4年程度で可能になるであろう事、16気筒型を開発しているので、そちらが先に実用化の目途が立つかもしれない事。


 そんな明るい話題が聞けた。


 3年後というと、九六艦戦とか九七戦辺りにその16気筒エンジンが乗るという事だろうか?


「そうですね。小山と話したんですが、シュナイダーに出た機体を基に、主翼を手直しして16気筒エンジンを積むなら、3年後くらいには戦闘機として飛べるだろうとの事でしたよ」


 それはなかなか良い話だ。


「中島さん、16気筒エンジンの出力はいかほどですか?」


 聞いていた乃木さんがそんな質問をする。


「出力ですか。16気筒エンジンはV12よりも多少重く、排気量は似たようなモノなので、3年後に900馬力前後、5年後には1300馬力は出せるでしょうね。最終的に1500馬力は狙えると思っていますよ」


 と答える中島さん。


 確か1500馬力って飛燕Ⅱ型がそうだったような?


「殿下、ご存知でしたか。そうです。飛燕Ⅱ型やスピットファイアMkⅤ型、メッサーBf109G型に近い機体に出来る可能性があります」


 その言葉にピンとこない中島さん。


「1500馬力出せれば600km超えますよ」


 と、俺が言う。


 そうすると、合点がいったらしい。


「でしょうね。小山とも話していました。初めは500km前後で飛ばして、陸軍の要望を聞いて細部を詰めたいそうですよ。エンジン性能が期待できるので550~600km程度を目指す機体にしたいそうです」


 どうやら、飛燕が戦前に登場するかもしれない。


 この世界に中島飛行機は無いけれど、二宮飛行機が開発する九七戦がバージョンアップしながら10年近く使えるのかもしれない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 日本が変われば、それに対応する必要のあるところも変わる これが有ること、良いですね
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