27・そして、世界も変化を見せていた
米国での株価暴落による混乱が日本にも影響を与え出した1930年。
英国はロンドンで新たな海軍軍縮会議がはじめられた。
3年前にジュネーブでも会議は行われていたが、そこでは米英の考えに隔たりが大きく、結局決裂してしまっている。
今回はその仕切り直しとして、ロンドンで補助艦艇の制限について話し合われることになった。
この会議では、日本はほぼお飾りとなっていた。
日本の海軍軍備はこの時点で技術的には米英に並ぶものとなっていたのだが、そのことは認識されず、第一次大戦時のソレが今もそのままの認識として残されていた。
その為、この会議での最大の懸案は米国の軍備であった。
米国は遼東半島に工廠こそ持ってはいなかったが、いつでも相応の戦力を集結可能な港湾設備を保持するまでになっていた。
このため、英国はその設備を基準に巡洋艦保有量を主張する米国に対し、削減要求を出していた。
この世界の米国、平賀論文にすぐさま飛びついて重巡洋艦の建造をはじめ、英国が以前、植民地警備用に2等戦艦を有していた例に倣い、重装甲を施した巡洋艦を建造していた。
それは、巡洋艦というよりは海防戦艦に航洋性を与えたようなシロモノであり、その狙いが遼東半島やフィリピンへの配備にあるのは明白だった。
中華大陸に配備可能な同様の艦種が存在しない英国には非常に目障りな艦であり、出来る事ならその排除をしたかった。
だが、米国側の言い分があまりにも理路整然とし過ぎていて否定できない。
結局、米国が言うように、総排水量としての規制から踏み込んだ条件が付けられることなく話は終了してしまった。
日本として困る事はそろそろ旧式化している薩摩型の生き残り、摂津を退役させて代替艦を建造したかったが、戦艦の建造凍結が延びた事くらいだろうか。
海上警備隊の警備艦についても指摘がなされる場面はあったが、魚雷を積まず、精々砲艦としての能力しかないのでそのまま条約外とされた。
その事で大型警備艦として駆逐艦と同じ規模の艦が建造されることになるが、大した問題にはなっていない。
吹雪型がどうなったか?
条約に排水量規定が設けられたことで拡充が困難となり、より小型の艦へと整備計画が変更されたが、元々が余力を大きく取ってあったので、それを小型化しても大きな問題とはならなかった。
米英間で大きな問題となった巡洋艦については、種別を細分化して砲口径によって正式に重巡洋艦と軽巡洋艦を分けることになった。
英国はさらに細かな規定を設けたがったが、米国が拒否、結果として米国の海防戦艦型重巡洋艦を認める代わりに日英の軽巡洋艦保有量を米国が認めることで何とか妥結した。
軽巡洋艦については、植民地警備のために英国と日本が隻数削減に反対したが、米国重巡洋艦との妥協で落ち着いた。
軽巡洋艦に関しては、第一グループ8隻は球磨型程度だが、第二グループの12隻が史実阿賀野型に近い大型巡洋艦なので、日本が重巡洋艦枠を8万トンに制限されていると言っても、米国と総排水量で並ぶことになるが、自国の重巡洋艦を維持するために認められることになった。
日本の重巡洋艦が少ないのも、この阿賀野型準拠の巡洋艦に満足しているからだ。
そして、空母については史実と大きな違いがある。
ロンドン条約ではそれまで排水量1万トン以下の空母を保有量にカウントしていなかったが、すべてをカウントする事になったので、鳳翔を正規空母から練習空母へと変更し、更に一隻、2万t型を建造する事になった。
その簡易図面を平賀さんが俺に見せながら説明してくれた。
「基準排水量1万9500t、全長242m、全幅38m。何かに似ていると思いませんか?」
そう聞かれた。
何かにって、何に似ているのかよく分からなかった。空母だという事と舷側エレベータがある・・・
そうか!
護衛艦いずも型だ。
「その通りです。艦橋はかなり小型化していますが、船体デザインは踏襲していますよ。左舷へ飛行甲板を張り出させることで艦橋とのバランスを取り、舷側エレベータの設置も行いました。出来れば米国の強襲揚陸艦の様に左舷にも舷側エレベータをおきたかったんですが、左舷中央部に舷側エレベータを置くと飛行甲板を切り欠いてしまうので、残念ながらそこまではやっておりません」
とうとう、空母に舷側エレベータが装備される。
完成は5年先となるらしい。
そのシルエットはアークロイヤル以降の英国空母でもエレベータ以外は変わらなくなるだろうから気にしなくて良いだろうと平賀さんが言う。
そんなもんなんだろうか?
さて、海外へ目を転じるとドイツでは史実同様に装甲艦の建造が始まっている。
本来であれば装甲艦という艦種の登場で、ポケット戦艦の異名と共に世界をにぎわすのだが、この世界にはその先輩格が既に存在している。
米国が建造した重巡洋艦は主砲を8インチ連装砲3基、出力も抑え機関室が小さくなった分、全長も短くしている。そうして浮いた重量を装甲へと使用することで最大200mmほどの装甲を張る事が出来るようになった。
これは常識的に考えて、米国が言う巡洋艦ではなく、海防戦艦の発想なのだが、米国が巡洋艦だと言って譲らなかった事から認められた。
その艦は基準排水量約1万t、全長162m、速力25ノットだった。
平賀さん曰く、明らかに条約に主砲を適合させただけの海防戦艦だと。
この艦の存在が有るので、ドイツの装甲艦は米国の真似をしたんだと思われている。
警戒というよりも、戦艦で相手が出来るから良いじゃないかといった見方をされている。
ただ、そうは行かないフランスがダンケルク級戦艦を作って来るのは致し方ないだろうという話だが、それ以上には話が広がる気配はない。




