コラム　お狐様奇譚

　扇森稲荷神社という神社がある。

　名前に稲荷があることからお狐様を祀っている訳なのだが、せっかくなのでサイトをのせておこう。

扇森稲荷神社

　https://xn--gpuz1m79owd17b268a.net/

　この神社は江戸時代に大名として入った中川氏の庇護の元で信仰を集めて現在に至っている。

　昔は「へーそーなのか」と流していたのだが、ちょっと戦国周りの歴史を漁ると面白いものが見えてくる。

　神様を利用した武士たちの信仰争いが。

　

　豊後国は元々仏の里と呼ばれるほどお寺が多かった。

　これは、豊前国にあった宇佐八幡宮と繋がりがある六郷満山を始めとした寺の荘園が豊後国に広がっていたからである。

　で、豊後国の武士を語るには外すことができない緒方三郎惟栄である。

　彼は祖母山山岳信仰と関わりが深く、祖先が蛇神様という神話を持つ。

　なお、彼が活躍した源平合戦時に宇佐神宮の荘園であった緒方庄の荘官であり、平家の平重盛と主従関係を結んでいたのは見逃すことができない。

　彼らは反旗を翻す際に信仰していた仏様から蛇神様に切り替えなければならなかったと考えるのは穿ち過ぎだろうか？

　平家側だった宇佐八幡宮は鎌倉幕府成立と共に多くの荘園があった豊後国を失い、緒方惟栄は平家滅亡後の源頼朝と源義経の対立時に義経側ついて失脚。かくして豊後国にやってきたのが大友氏である。

　大友家はそういう経緯から宇佐八幡宮を信仰するにも、蛇神様を信仰するにも不都合があった。

　ここから宇佐八幡宮と関係が深い奈多八幡宮が出てくるのだが、この奈多八幡宮が戦国期に大きな影響を持つことになる。

　大友義鎮の妻である奈多夫人がこの家の出身だからだ。

　で、大友義鎮と言えばキリスト教である。

　この外からの神は戦国大名化しようとしていた大友家にとって色々都合が良かった。

　荘園を抱える宇佐八幡宮を始めとした寺社とは荘園横領で対立関係があり、土着の神様である蛇神様の背後には大神系国人衆を始めとした土着の神様がいた。

　まぁ、大友家の没落とキリスト教禁教によって、時代の夢と消えた訳なのだが。

　豊後国岡城に入った中川氏は元々は摂津国の国人だった。

　この扇森稲荷神社は伏見稲荷神社から請願して分祠という形になっている。

　このように神が混在した豊後国に入った彼らが自らの神として狐を選んだのは偶然とは私は思えなかったのである。

　なお、狐は蛇を食べる。

　竹田という祖母山山岳信仰のお膝元、蛇神様が眠る地にふさわしいなと参拝した時に思ったのがこのエッセイのきっかけである。

　なお、竹田にはこのお狐様の昔話が残っていたのでご紹介しよう。

　時代によって改ざんされていないお狐様の力を見ることができる。

その1

　中川のお殿様が登城の前に夢枕に現れた神霊が、

「明日の登城は危険なので用心しなさい」

と警告して難を逃れた。

　この時、この心霊は『稲荷狐頭源大夫』と名乗ったという。

　『今昔物語』に悪人が改心する源大夫の話があるのだが、それを読むと、この昔話の源流がなんとなく見えてきた気がした。

その2

　お産に苦しんでいる若い女を助けた老婆に次の日大きな鯛が届けられた。

　しかしその鯛は中川公殿様に献上するものであり、老婆は盗人として打首になることに。

　ところが、死骸をみると狐になっていた。

　若い女は狐で、老婆の身代わりになるために、老婆に化けたのである。

　人々は狐の恩返しというその真心に深く打たれ、稲荷大神のこの地に亡骸を埋めてこの狐の霊を祀ったという。

その3

　狐頭稲荷様は源大夫と称して医を学びに熊本に行った某と刎頸の交わりを持っていた。

　その某に「玉来に来たら歓迎する」と言ったので訪れると歓待した。

　その歓待の後、玉来の大長者の屋敷から祝言の膳部が二人前なくなっていたという。

その2とその3は良いことをしようとしてるのだが、その過程が色々と問題が。

ある意味実に神様らしいというか……