第73話 恋する乙女
ライト 「え、え?お、おれ!?どこかで会ったっけ!?」
ミラの顔が急に近くなり、顔覚えのないライトは動揺し焦る。ミラはライトの顔を間近で見つめ終えると距離を少し離れ、頬に手をあてると目を閉じ感激のあまりにウットリした顔をする。そうして、目を開けると再びライトに顔を近く寄せる。
ミラ 「対抗戦の試合、とても素晴らしかったです!!」
ライト 「イ、イヤァ…あはは!」
ミラに褒められライトは頭を搔きながら鼻を伸ばす。
マレイン 「ミラは何故かライトに興味津々でね」
ミラは手に持っている本を目の前に突き出し見せる。
ミラ 「実は私、ロマンス小説に夢中でして!庶民である殿方と大国の王族である姫が身分に囚われず愛を育みよくよくは結ばれるとても素敵な話なのです!」
ロマンス小説の話を興奮気味に語りつくすミラは、現在12歳であり、まさに恋に焦がれる年ごろであった。
ライト 「ロ、ロマ、ロマンス…小説?なんだそれ?」
ネイリー 「ロマンス小説は恋愛中心の物語だ」
ミラが突き出したロマンス小説は『真実の愛とは―――貴族編』と題名だった。
リリア 「確か、そのシリーズは庶民編もあって女性が庶民で男性が大国の王子様なんだよね~。私もそのシリーズ大好きで読んでいたなぁ~」
ミラはリリアの方をチラリっと一瞬だけ見るが特に気にもせず再びライトの方を見る。
ミラ 「ライト様を対抗戦で勇敢に戦う姿を見た途端、このロマンス小説に出てくる殿方のイメージにソックリでして…」
ライト 「お、おう…」
恋すら興味が無いライトは話しの話題についてこれず適当に相づちを打つ。
ミラ 「客間にご案内しますので、ライト様ともっと、もっと、もーーーっと!!お話をしたいですわ!」
「それでは、皆さま。客間に移動しましょう」
執事は青い絨毯の上を歩きながら4人の先頭に立ち客間へと案内する。客間の部屋向っている最中、ライトの真横にミラがベットリと張り付き一緒に歩く。そして、ミラが一人だけ浮かれている間に客間の前へと辿り着くと執事が扉を開ける。
ライト 「広ーーーー!!!」
リリア 「キャーーー!!立派なソファー!!」
広い部屋には大きなテーブルに互い合わせに赤いソファーが2つ設置され、大きな窓には赤いカーテンが左右に縛られていた。思わず興奮気味になる2人だが、この場が王族の別荘だと改めて思い出しマーラにビシバシと鍛えられたマナーの記憶が反射的に蘇り冷静になる。
「皆さま、大きなテーブルの周りにあるソファーで楽にお過ごしくださいませ。紅茶をご用意致します」
執事はお辞儀をするとその場から消え去る。ソファーは大きなテーブルを挟み互いに2つ並んでいた。片方のソファーにはネイリー、リリア、マレインが腰を掛け、もう片方はライトが座るとミラもつかさず近距離で横に座る。
ミラ 「ライト様!お願いがありますの!」
ライト 「ん?何だ?」
ミラはロマンス小説の本をライトの目の前に広げ特定の場所を指さす。
ミラ 「このロマンス小説に書かれている文章を声に出して下さい!」
ミラが広げた小説には端から端までびっしりと文章が記載され、学校でも教科書を読むのが億劫なライトは嫌気をさす。
ライト 「えーーー!俺、字って苦手なんだよなぁ…」
リリア 「ライトったら実践授業は大好きなくせに、机の上に座ったらすぐ寝ちゃうぐらい字を読むの苦手だったよね。まぁ、これを機会に字に慣れたら?」
ライトの学園生活の時を円滑に話すリリアにミラは頬膨らませムッっとした表情をする。リリアは嫉妬しているミラに気付かず疲労が溜まっているのか窓からの景色を呆然と眺めていた。丁度、ドアのノックをする音が聞こえ執事はカップと紅茶をカートの上に乗せたまま入る。
ネイリー 「ライト、そのぐらい良いじゃないか。全部の文章を口にしろって言っている訳では無いのだ」
ライト 「ッチェ…。わかったよ…」
ネイリーの言葉にミラは目を輝かせ心の中で「さすが、ネイリー様!」と呟き喜ぶ。執事はその間に各々の座っているテーブルの上に紅茶を入れカップを置いていく。
マレイン 「ライト、妹の願いを受け入れてくれてありがとう」
ライトにお礼の言葉を渡すと、マレインは場から立ち去ろうとする執事を呼び止め耳打ちする。執事は微笑み頷くとその場から立ち去る。ミラはライトに広げたロマンス小説に指を指す。
ミラ 「ライト様!こちらの文章ですわ!」
ライトはどれどれ…とミラが再び指を差した箇所を目で追い、時間を掛け文章を脳内で読み上げる。
ライト 「…ん?このセリフを言えばいいのか?」
ミラ 「はい!お願いします!」
ミラはようやく待望の動き、セリフが目の前で実現される事に今か今かと待ちわびる。ライトは文章を理解し終えると座っていたソファーから立ち上がりゴホンッ!と咳払いをする。ライトとミラ以外は目の前に置かれた紅茶を口に運び優雅に寛ぐ。
ライト 「アア!ワ、ワタクシ、アナタノコトガ、スキデスワ!!」
ライトはカタコトで話しながら裏声を出す。
ミラ 「ライト様!それは女性が言うセリフですわ!!」
急の出来事でマレインは苦笑していたが、紅茶を飲んでいたネイリーとリリアはむせる。
ネイリー 「ブフッ!!ゴホッゴホッ!いつからお前は女になったんだ!」
リリア 「ゴホッゴホッ…。もう、ライトったら…」
その後、ライトはミラが指を差す箇所を何度も声に出し文章を読み上げのが続いた。しかし、慣れない字を読み上げる集中が続くはずも無くライトは次第に本から目を逸らす。
ライト 「ミラ…。俺、疲れた…」
ミラはライトの方へ広げていたロマンス小説を目の前に移す。そして、ときめいた文章を心の中で読むが、ライトと物語に出てくる人物の印象が、だいぶ…かなり異なり思わず笑顔が崩れていく。
ミラ (何かロマンス小説に出てくる庶民の男性のイメージと違う…。ううん、きっと緊張しているだけよ!)
笑顔が消えかけたミラは自分で言い聞かせると、再び笑顔になる。
ミラ 「ライト様!明日も読んで下さい!」
首を傾けるとツインテールの髪がなびき、ライトに微笑む。
ライト 「マジカ…」
ネイリー 「封印装置を装着されている事だし、暇潰しが出来て良かったな」
リリア 「うんうん。これでお勉強も出来るし一石二鳥じゃん」
2人はカップを持ち、残りの紅茶を飲み終えると皿の上にカタッと音を出し乗せる。
マレイン 「そろそろ、お腹空いたね。丁度、晩御飯の時間だし部屋を移そうか」
ライト 「ひゃっほーーい!!待ってましたー!」
ミラに付き合わされ疲れ切った様子を見せるライトだが、急にソファーから立ち上がり両手をあげる。その場の全員が座っていたソファーから立ち上がると、執事を先頭に食堂へと向かう。




