第21話 サルナエース王国史
魔人化したカルロの襲撃から一夜明けた翌日。
士官学園では普通に授業が行われることとなった。
日本ならありえないことだと思うけど、俺たちが通うのは士官学園、士官を育てる学園である以上、これぐらいで休校にはできないからだ。
というわけで、予定通り新入生である俺たちの最初の授業となる。
といっても、その内容は最初ということもあり、主に算術や歴史学、魔法学、語学などの基礎部分となる。これはこの学園に入学を許された時点でできなければならないようなレベルとなるので、まぁ、退屈なものとなる。でも、こういった形での授業というものはみんな初めてのために新鮮さから、みんなちゃんと受けているようだ。
それで、どんな授業かというと、算術に関しては、小学校レベルで前世も含めると俺には簡単すぎるレベルなので特筆することはない。
ということで、今回は歴史学、その基礎となるここサルナエース王国の歴史について話をしておこうと思う。
この国の歴史は古く、今から3214年前に建国された。サルナエース王国が周知している国々の中でも3番目に古い国となる。(この表現にしたのは、この世界の文明がいまだ未発達のため認識していない国が複数あると思われるからだ)
それで、歴史学ではまず、建国王である初代国王陛下であるカイゲル・トーラ・ドゥ・サルナエースが生まれたところから始まる。
カイゲルは、この国の西側にかつて位置していたシュベルカータ王国という小国の北側(現在はジルバトルド王国の北西部)に、属していたトトカルテ領のトーラ村という小さな村で、農民の三男として生まれた。
長男は家を継げるし、次男はその予備、しかし三男であるカイゲルは何もなかった。そこで、多くの者たちがそうしているように冒険者になることを決意し、15歳で村を出たという。
こうして、冒険者となったケイゲルは多くの依頼をこなしつつ、持ち前の膨大な魔力や戦闘センスでめきめきと頭角を現し、いつしかSランクとなっていた。
その過程で、カイゲルは仲間である、ニッケル・トラン、ミーナ・エレル、クイン・セレル、カルロス・ドーラ、サラー・ヘーラン、バルデル・ミケラの6人と出会いパーティーを組んでいたという。
そんな7人はそれぞれが凄腕だったこともあり、あっという間に母さんと同じ特Sランクとなった。
そうした中、ずっと東のサルナエース草原に大魔獣が出現したという凶報が飛び込んできたのだった。
それを聞いたカイゲルたちは、当然大魔獣を討伐するのは自分たちだと、一路討伐に向かったそうだ。
その道中、彼らを待ち受けていたのは強力な魔物たち、特Sランクとなった彼らでも一朝一夕にというわけにはいかず、相当に苦労して進んでいったという。
そうして、ようやくの思いでたどり着いたサルナエース草原、そこに出現していた大魔獣は、四つ足の巨大な虎のような魔獣だった。その動きは素早く、ひとたび動けば目に見ることすらかなわなったと記録に残っている。
それでは、どうやってその大魔獣を討伐したのかというと、その記録は一切ないという、それというのも、7人ともあまりに必死であったこともあり誰一人どのように戦ったかを覚えていなかった。ただ、気が付いたら戦いが終わり、大魔獣が倒れていた。ただし、最後にカイゲルがとどめを刺したということだけはみんなが覚えていたらしい。
何とか大魔獣を討伐したカイゲルたちは地元であるシュベルカータ王国へと凱旋し、討伐の報告をするために王へと謁見することになった。
時の王はカイゲルたちの偉業に大層喜び、歓待したという、そして、そんなカイゲルたちへの褒美として、大魔獣が巣くっていたサルナエース草原を中心とした未開地を領地として与え、国を興すことを周辺諸国との協議により賛同を得たという。
というわけで謁見を終えたカイゲルたちは改めて、サルナエース草原だった場所に赴き相談を始めた。
それは誰が王となるかというものだった。
カイゲルとしては7人全員で倒したと考えていたために誰がやってもいいと考えていたが、仲間たちはパーティーのリーダーであり、大魔獣にとどめを刺したとして、カイゲルこそ王にふさわしいとなったという。
それを受けたカイゲルは、いやいやと、拒否したが、仲間たちに説得され王となることを決意。
そして、国名を草原の名からサルナエースと名付け、カイゲルもカイゲル・トーラから、カイゲル・トーラ・ドゥ・サルナエースとなった。
こうして、サルナエース王国建国と相成ったわけだ。
それから、仲間たちがどうなったかというと、まずミーナ・エレルは冒険のさなかからカイゲルと恋仲となっていたこともあり、仲間たちの祝福を受けつつ初代王妃の座に就くこととなった。
残りの5人はというと、それぞれ侯爵の爵位を得ることになった。
つまり、現在サルナエース王国に存在している侯爵5家はこの仲間たちの子孫というわけだ。
それから、カイゲルたちの相談は続き、今度は領地をどうするかということになったわけだけど、まず大魔獣との戦いで出来た巨大なクレーター、ここをサルナエースの王都として、その周囲を王領とした。そして、そんな円のような王領の外周を5つに分割して国境までを侯爵となった5人が領地としたのだった。
そこを詳しく話すと、まず真北を頂点として、北東側をクイン・セレルの領地として、クインは大きな湖に領都を構え、そのガイエルン湖からクイン・セレル・ドゥ・ガイエルンとなった。
北西側はサラー・へーランが領地と定め、そこにあった森を切り開き森の都を作った。そこをエリシオンと名付け、サラー・ヘーラン・ドゥ・エリシオンとなった。
また、南東の位置をカルロス・ドーラが獲得し、かつてのサルナエース草原のような、広い草原に居を構え、街の名前をフェブロスと名付け、自身もまた、カルロス・ドーラ・ドゥ・フェブロスと名乗った。
その反対側の南西側はバルデル・ミケラの領地となり、そこにあった森のそばに領都を構え、その森の名から、バルデル・ミケラ・ドゥ・ガルカムとなった。
そして、最後に、南側には、ニッケル・トランの領地となり、その中にそびえる高山カペリオンのそばに住み、ニッケル・トラン・ドゥ・カペリオンと名乗ったという。つまり、俺の祖先となるわけだ。
こうして、それぞれが、助け合いながら国を作っていったというのがこの国の建国史となる。
その後、カイゲルたちの噂を聞きつけたものや、カイゲルたちが募集した民たちから、騎士を育て、彼らに騎爵を与え、功績をあげた者たちを騎士爵といった具合に陞爵していき、王家、侯爵家において、功績を残した者たちを伯爵に襲爵などをしていった結果、現在この国には複数の貴族家が存在することとなった。
そして、そんな彼らの領地は、それぞれ仕えていたり、出身である侯爵家の領地を一部受け取り収めるようになったという。
ということで、この国において、貴族の寄親と寄子の関係は、その人物が治めている領地を見れば一目瞭然という、なんともわかりやすいものとなっている。
そして、国土も、最初は、円に近い形であったが、長い歴史の中で、いくつかの戦争が起こり、侵略されたり侵略したりで、結構いびつな形となっているが、それでも英雄が起こした国、そうそう負けることもなく、現在の国土は、最初から比べるとかなり広がっているといってもいいだろう。
まぁ、といっても、さすがにカイゲルたちの出身国であるシュベルカータ王国やその後進となった、国々とはそれなりに親交を深めているようなのでそこの国境だけは変わらないらしい。
と、この国の歴史は大体このぐらいだ。授業ではこれを1年かけて、ゆっくりと戦争の話を中心に学んでいくことになる。
戦争を中心というところが、いかにも士官学園らしいと思うところだ。




